Neetel Inside ニートノベル
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僕のカノジョは超能力者
番外「斎藤星奈」

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【前回主人公が次回予告をしなかったので、番外編をお楽しみください(時系列としては第5話後のお話です)】
 

     





 番外「斎藤星奈」



     


「あとでメールください。ああそれと、神道先輩。胸ばかり見てないで、もうちょっと視線を上げて目を見てくださいね」

 いい加減面倒だったので、悪いと思いながらも犠牲になってもらうことにした。
 私はそんなことを言ってその場を去り、最後にちらりと後ろ見ると言わなきゃ良かったな、と後悔するぐらいにひどいことになっていた。

 ……まったく、仲の良い二人だ。私はちょっとした苛立ちを覚えた。



 講義をすべて終えて帰宅すると、いつものようにがらんとしたマンションの一室が迎えてくれました。あの二人の仲の良さ――いえ、あまりにも騒がしかったので、今日は少し寂しく感じてしまいます。

 私は夕食代わりにカロリーメイトを咥え込み、本棚から一冊のノートを引き抜き、折りたたみのテーブルを組み立て、その前に座りました。
『神道陽太観察日記』と書かれた表題のノートを開き、ペンを走らせました。

『神道陽太に3回目の接触を試みる。警戒しているようだったが、悪くない感触だったと思われる。
 少々勇み足で問い詰めてしまったが有益な返事はなし。その後、伊藤月子に妨害されて本日は終了』

 日付とその二行だけを書いて、私はノートを閉じた。
 私はずっと神道陽太を観察――いえ、監視をしていました。タイムトラベルを使用して偽りの関係になったときのこと、居酒屋で隣に座ったこと……更にさかのぼると、このノートの最初にはあの二人が初めて会ったときのことが書かれている。
 そこから伊藤月子が神道陽太を看病したこと、仲が深まっていく経過、神道陽太が超能力のことを知った日、二人が恋人同士になった瞬間。私はどれもこれも逃さず、ここに書き留めている。

 ……何もストーキングをしているわけではない。私はただ知りたいだけなのだ。神道陽太、あの存在を。

 伊藤月子に粛清を受けたあの日から、私はタイムトラベルを使用できなくなっている。いや、使用していない、のほうが正しい。あの日の粛清――軽い小言と共に、私は伊藤月子から超能力を『貸し付けられた』。タイムトラベルを使用すると感知され、今度は少々きつめの粛清にやってくる、らしい。
 そこまでして守りたいのかあの男を……と、呆れてしまう。まあもっとも、あんなおまけのような能力を制限されたところでどうということもない。それと同時に、積年の謎だった私の真の能力が超能力ではない、という証明もできた。これは非常に有益なことだった。


 伊藤月子は私のことを見誤っている。私を単なるタイムトラベラーという認識でいる。


 平行世界という概念がある。今ここにある似たような瞬間や世界が複数存在していて、それらが同時に進行しているという哲学的なものだ(詳しいことはわからないが、それぐらいの認識で問題はない)。
 私の真の能力は、すべての平行世界を自由に行き来することができる、というものだ。……なんて偉そうなことを言ってみるものの、それほど大したことはできない。電車に乗っていて、隣の車両に移動したところで電車の進行は止まらない、つまりその程度なのだ。
 粛清されてから試しにこの真の能力を使用してみたが、感知された気配はなかった。

 平行世界は基本的にはまったく同じである。けれど要所要所で別の選択肢が選ばれ、そこから枝分かれを起こしている。些細なことで枝分かれすることもあればほぼ一本道の世界もあり、まったく予想がつかない。
 ただ、その枝分かれが問題だった。今まで見てきた世界のそのほとんどが、ある人間の存在によってひどい有様になってしまう。大なり小なり、消し飛んでしまうのだ。世界が。
 ある人間の存在、それこそが伊藤月子、あの最悪な超能力者だ。あれを中心に平行世界は大きく捻じ曲がり、その度に私はそこから離脱している。
 別に伊藤月子だけを責めるつもりはない。周りと取り巻く環境にも問題がある。私は住み良い世界だと感じるたびに、それとなく伊藤月子の手助けをして導こうとするものの、どうやっても良い結果にならない(世界の選択というものだろうか。まあどうでもいいけれど)。

 私はこの能力を使い、自分にとって一番住み良い世界を探し続けていた。伊藤月子の存在はとっくに許していた。その上で、平和で、伊藤月子にも幸せな世界をひたすらに探した。
 そして、今いるこの世界を見つけた。この世界はとても平和だ。伊藤月子もとても大人しく、しっかりと超能力を制御して、幸せそうに暮らしている。

 しかし新たな問題、いや疑問が発生する。あの男、神道陽太。あいつは、いったい、何なのか。

 神道陽太を見たのはこの世界が初めてだった。これが大きな問題なのだ。『平行世界は基本的に同じ』というのは、そこにいる人間も同じという意味で、多少性格に違いはあれど、見知らぬ人間がそこにいるなんてことはない。あってはならない。
 例外として、私も今いる世界にしか存在しない。それはきっと、平行世界を渡り歩く能力を保持しているからだ。ならあいつは、神道陽太は? なぜ神道陽太はこの世界にだけ存在するのか。

 正直な話し、神道陽太の存在に気づいたとき、私は嬉しかった。自分以外に平行世界中にたった一人っきりの人間がいたからだ。永遠に続く孤独だろうと諦めていた私に仲間が現れた、と思った。
 けれどそれもすぐに恐怖に取って代わった。敵か味方かはっきりしないからだ。

 そこで私は監視することにした。できることなら取り込もうと思った。一回目の接触はまるで相手にされず、二回目の接触は少々過去を改変するもすぐに気づかれた。あれだけ慎重に、問題があればすぐに戻せるよう工夫までしていたのに、自力で気づかれた。
 そのとき確信した。やはり神道陽太は、普通の存在ではない。

 そして今日の接触。感触も悪くなかったので、次回からもっと楽に接触できるようになるはずだ。伊藤月子も安定している、いたって良好だ。

 カロリーメイトを食べ終えるころ、携帯電話が震えた。私は慌ててそれに出る。。

「もしもし、ごめんね連絡できなくって。うん、今帰ったところ。うん、うん、わかった、待ってるね。早く来てほしいな……今日、すっごく寂しいの」

 この世界が一番だと思って、念願だった恋人まで作ったのだ。不安要素はすべて取り除きたい、だから私は監視を続ける。

       

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