薬
エフ氏は今日も研究に没頭していた。そして三角フラスコの中に入っている水色の液体を見ると、満足げにうなずいた。
「なんとか間に合わすことが出来た。」
エフ氏は自慢の髭をなでながら、早速その薬を少し飲んだ。そしてその薬が不味くないことを確かめた。
「フム、味もなかなか良い。」
そんなエフ氏の下に思わぬ客が訪れた。突然ドアが開いたかと思えば、そこには拳銃を持った語句普通の男が立っているではないか。
「一体何のようだね。」
エフ氏は持っていた薬を机の上に置くと、ドアに立っている男に言った。
「私はそこにある薬を貰いに来た。」
男は机の上にある三角フラスコを指差した。
「それは困る。さっき出来たばかりなんだ。」
「だから貰っていくのでしょう。あなたの研究の成果がこの薬につまっている。きっと素晴らしい薬なのでしょう。売れば多くの儲けになるに違いない。」
「ああ、確かに医学界には大きな衝撃をもたらすだろう。」
「どんな薬なのか教えてもらおう。」
男は拳銃をエフ氏に向けたまま、机の上にある薬を手に取った。
「なんとも説明できない。君自身が飲んでみれば一番よく分かると思うよ。」
「では、この薬の作り方を書いた紙を貰おう。これで貧乏とはおさらばだ。」
エフ氏はしぶしぶ作り方の書いた紙を渡した。それを手にした男は笑顔で部屋から出て行った。
何時間か経ち、エフ氏が部屋で途方に暮れながらも研究しているとさっきの男が戻ってきた。
「一体どうしたのだね?」
「自分の愚かさが分かりました。それで、これを返しに来たんです。」
男はポケットから、さっきの薬の作り方と薬を出した。
「そうか。薬が効いたようだね。」
「ええ、まさか人の心が聴こえるようになるとは思っても見ませんでした。」
「ああ、そうか。それで、自分がそんなに小さなことで悩んでいるのか、という事が分かったのかね?」
「はい。自分ひとりだけが苦しんでいたのではない、という事が分かりました。」
「これからどうするのかね?」
「それを頼みに来たのです。どうか、見逃していただけませんか?」
「ああ、いいとも。これからは罪を犯さないようにね。」
そうして男は部屋から出て行った。
「ああ、良かった。研究費を出してくれている会社からの成果を発表するのが今日だったのだ。それにしても、まさかこれが人の頭をおかしくする薬だとは誰も思わないだろう。まあ、人の病気はそれぞれ違うから、症状も異なるが。彼の場合は人の声が聞こえる幻聴が現れたようだな。」
エフ氏は薬を机の上に置き、悲しそう薬を見ていた。
「病気を治すのが薬じゃない。病気にすることが薬になる時代が来てしまったか・・・。」
そこへドアをノックする音が聞こえた。エフ氏は急いでドアを開けた。
「やあ、薬は出来たかい?」
「ええ出来ましたとも。これでまた研究費をだしていただけますね」
「そうか、それは良かった。それにしても何時間もノックしていたのだがね。一体何か起きていたのかい?それに誰かと話しているようにも聴こえたけれど・・・。」