Neetel Inside ニートノベル
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アースブロッカー
Ⅰ アースブロッカー

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 あれは、悪夢以外のなにものでもなかった。――怖い。そんな感情だけがあふれでた。
「逃げきれた……のか?」
 勇太郎は息を切らしながら振り返った。
 誰も居ない。どうやら逃げ切れたようだ。あの怪物のような、いままでに見たことがない生物から。
「いったいなんだったんだよ……。つか、ここどこだよ」
 呟きながら周りを見渡すと、まったく見たことの無い土地だった。どうやら公園のようだ。長年使われてないのであろうブランコ。すっかりさび付いたシーソー。気味が悪い。
「……どうしようか」
 完全に切羽詰った様子で、勇太郎は再びあたりを見渡す。
「ん!?」
 勇太郎は、違和感を感じた。どこかで感じたことのあるものだった……。
――そう。ついさっきの“悪夢”……。
「まさか……」
 やがて、公園の先にある雑木林から、草木の揺れる音が聞こえた。
 ゆっくり、ゆっくりと近づいてくる。
「間違いない……」
 雑木林の中にうっすらと写るそのシルエットは、やはりさっきみた怪物だった。そう思うと勇太郎は足が竦んだ。無理も無い。見なれない土地で、わけのわからない生物に追いかけられるのだから。
 やがて、怪物は雑木林から出てきた。確実に勇太郎のいる公園のほうに向かってきている。だが、場所は知られていないはずだ。なぜなら、さっきの体験からするとあの怪物は勇太郎の場所がわかれば、全速力で追いかけてくるからだ。
 いまのうちに逃げなければいけない。なんとなく勇太郎にはそれがわかっていた。だが、足が動かない。頭でわかっていても、未知の生物を前にしてしまっては体が固まってしまうのだ。


 その場に固まっているうちに、ついに勇太郎はその位置を知られてしまった。
 怪物の移動速度は一気に上昇した。近づいてくる怪物の容姿を見て、さらに勇太郎は固まった。さっきはよく見ていなかったが、スライムのようなどろどろとした固体が体全体を作っていて、内臓が全て透けて見える。見れば見るほど気持ちが悪く、恐怖心が高まる。
「動かない……。やべぇ、やべぇ!!」
 怪物は、勇太郎の目の前まで来てしまった。その距離は一メートルもない。
「な、何をするつもりだよ……!」
 勇太郎が怒鳴るが、微塵たりとも怪物は動じない。勇太郎は怪物をじっと見つめる。すると、怪物は口らしき大きな穴を広げ、勇太郎に迫ってくる。
「く、食うつもりか!?」
 勇太郎は目を瞑った。
 そして、怪物の口の中なのか、生暖かくやわらかい感触が勇太郎の肌に触れる。
 人生が終わった。勇太郎はそう思った。
――が、その刹那、スライムらしき怪物の全身が破裂した。破片があたりに飛び散り、さきほどまで勇太郎の前にたたずんでいた二メートルばかりの怪物は、跡形もなく消えたのだ。
「……は!? 何が起こったんだ!?」
 勇太郎はあたりを見る。
「危なかったな。デスジェルだ」
 男の声がする。声からして青年だろう。だが、姿は見えない。
「……!? どこにいるんだ?」
 どこからともなくする声に、勇太郎は動揺を隠せない。後ろを見ても、前を見ても、どこをみてもいない。だが、いま勇太郎に聞こえてるのは確かに人間の青年の声だ。
「ステルススーツだ。姿は見えない。事情があって、今姿を現すわけにはいかない。お前も本来なら姿を見せてはならない」
「は? 何を言ってるんだ? ……いや、なんでもいい! この状況を説明してくれ!」
「いいだろう」

     

「じゃあまず、ここはどこなんだ!?」
 勇太郎は視線を泳がせながら問う。
「ここはお前の心の中にあるガラクタを集めた空間だ」
「…………?」
 言っている意味がわからない。ここは現実世界ではなく、異世界とでも言うのだろうか。そんなはずはない。いま勇太郎の感じている風や地面の感触は、現実そのものだった。
「どういうことだ? ここが異世界とでも……?」
「いや、そうではない。ここは確かに現実の世界だ」
「じゃあ、どういうことなんだ……?」
 異世界ではなく、現実世界。でも、いままでにみたことの無い景色。勇太郎は意味がわからない。ついさっきまで散歩をしていたのに、怪物から逃げている間にいつのまにか知らない気味の悪い土地に行き着いていたのだ。
「簡単に言えば幻像だ。お前や俺が今見ている景色は作られたものだ」
「……ってことは、本当の景色とは違ったのが見えてるってことか?」
 にわかには信じがたいが、異世界よりは信憑性のある話だ。いまはそれを信じるしかないだろう。
「そうだ。もうじき元の景色に戻るだろう……」
 ――直後、勇太郎の眼に見えていた世界がガラリと変わった。先ほどまで見えていた寂れた公園や雑木林は跡形も無くなり、勇太郎は住宅街の中にいた。さっき散歩していた場所だった。
「……! 戻った……」
「そう、さっきまで見えていた景色……あれはデスジェルがつくり出したものだ」
「デスジェルって、さっきの怪物か?」
「ああ。アイツがお前の心の中を探り、そこにあった映像を元に幻像を作り出したのだ」
 どうやらあの見るに耐えない怪物が公園や雑木林の景色を作り出していたようだ。しかし、勇太郎はそうすんなりとは信じられなかった。
「本気で言ってるのか? あの頭の悪そうな生物が俺の脳を操ったとでも言うのかよ」
 勇太郎は小馬鹿にしたような笑いを浮かべながら言う。
「信じられないか?」
 姿の見えない男は勇太郎にそう問いかけながら、自らの体を現した。
 少しクセのある髪で、切れ長の瞳をしていて比較的細身。外見はクールな青年そのものだった。
「……!」
 勇太郎は驚いた表情を浮かべる。
「俺はいままでお前の前に立っていた。だが、姿は見えていなかった。事実だな?」
「そうだな。それは事実だ。でも、あの怪物が景色を変えていたなんて信じられるわけがない」
 勇太郎はどうしても信じようとしない。
 そんな態度をじっと見つめたあと、男はポケットから何かを取り出した。拳銃のようなものだったが、それにしては銃口が広く、形が歪だった。
 それを勇太郎に投げ渡すと、男は言った。
「……すぐに信じるのは無理だろう。だが、信じなくとも敵は消えることは無い。それを持っておけばしばらく身を守ることが出来るだろう。使い方は銃と同じだ」
「ちょ、これって持ってても犯罪じゃないのかよっ!?」
「その保障はできない。隠しておくんだな」
「なっ!?」 
 男がそういうと、勇太郎は焦りながらそれをズボンのポケットに詰め込む。
「自己紹介が遅れたな。俺は“アースブロッカー”の第4班の隊長、緑川尋(みどりかわ じん)だ」
「俺は坂上勇太郎(さかがみ ゆうたろう)だ。……アースブロッカーって何だ?」
 勇太郎がそう問うと、緑川はしばらく黙りこんだ。そして、こう告げた。
「……次にお前が敵と遭遇し、それを乗り越えることができたらアースブロッカーについて教えてやろう。だが、それができなければ、お前は死ぬ」
「ちょ……! 待てよ! 死ぬって……いきなりそんな!!」
 勇太郎は緑川の発言に焦りを浮かべた。
「そのための“それ”だろう……」
 緑川は勇太郎のズボンを指差す。さっきの銃のようなもののことだ。
 勇太郎はポケットからそれを取り出し、まじまじと見つめた。
「これで、本当に敵を倒すことができるのか?」
「ああ。あたりまえだ。だが、引き金を一度引けば二日の充電が必要だ」
 充電? 普通の拳銃は充電などしないはずだが。
「充電……? これって、普通の拳銃じゃないのか……。どう使うんだ?」
「基本的には普通の拳銃と変わりは無い。使い方は引き金を引くだけだ。だが、弾は鉛ではない。太陽光のエネルギーを変換したものだ。使ってみればわかるだろう」
 太陽光のエネルギーを変換したものが弾……? よくわからないが、銃をよくみてみると太陽光を吸収するためのパネルが付いているので、きっと太陽で充電をするのだろう。
「では俺はまだ仕事があるのでな。せいぜい命を保て。じゃあな」
 そういうと、緑川と名乗った男は再び姿を消した。
 勇太郎は漠然とした状況をただ理解しようとするしかなった。そして、銃をポケットの中に戻した。

       

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