Neetel Inside ニートノベル
表紙

脳内アリス
Hope-3:祠堂峰蜜(しどうみねみつ)

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「なぁ、おい」
 脳内に語りかける。
『なぁに?』
 今日も今日とて依頼を受けに歩いているところだった。しかし、いつもと違う点があるとすれば一つ。後をつける影があることに気付いていた。
 前々回の依頼の主と会った十字路を、再び僕らは歩いている。というか、この町のメインストリートと言って差し支えないため大体どこに行くにも便利な場所なのだ。だから前回に限らず大概の依頼人と会う際にこの道を歩いている。しかし、この通り自体にはいい店が残念ながらないので、人がわんさかいるというわけではない。
 学校における廊下とでも考えてほしい。教室に行くためにみんな使うだろうが、誰も廊下で勉強したりしないし弁当も食べないだろう。
 逆に言って、ストーカーが待ち伏せにはもってこいの場所である。恐らくあの影はこの道に僕らが来るとふんで待っていたのだろう。証拠に、家から出たばかりの時にはそんな気配は無かった。感じ始めたのはここを歩き始めてのことである。
「お前何したんだよ」
『別に何か特別なことをした覚えはないけれど』
 そっけない返事が返ってくるのは予測済だ。
 しかしとは言うものの、アリスが何かをやらかさなければこうはなっていないはずなのだ。なぜなら他に彼女が僕のことを覚えている原因はないから。
「……記憶操作しくじっただろ」
『何言ってるの? 私は私なりに綺麗に変えたつもりなのよ』
「変えたって、消してないって事じゃないか。それが余計なお世話だっていうんだよ」
『悪いようにはしてないわよ。ただ、欠ける記憶は少ない方が良いと思って欠落させるのではなく改変に留めただけよ』
 誰が後ろにいるかはなんてのはもうわかっている。
ミステリードラマのように手に汗握る巧妙な尾行術を駆使してくれていれば分かりえなかっただろう。しかし所詮素人だし、よりにもよって一瞬でも視界に入れば十分なくらいの特徴を併せ持っている彼女だった。隠密行動という言葉をきっと知ってはいるのだろうが、詳しい中身までは想像がいかぬようで早速僕というターゲットに気付かれているわけだ。もしくは鏡を見ることを知らないか、色への認識が甘いかである。
「お前もお前なりに考えているんだろうけれど、でもな、やっぱり僕らの記憶が残るのは色々とよくないだろう?」
 この状況を考えてみろよ。別に彼女が嫌いってこともないんだけれど、やっぱりクライアイントと何度も会うべきじゃあない。
『はいはい、じゃあ次からそうしましょうか』
「ああ、頼む」
 アリスが了解したので、次こうなる心配はとりあえずなくなった。まぁとはいえ相手がアリスなのできっとまたあるとは思う。でも結局結果が同じならとりあえずは心を落ち着かせてもいいだろう?
 だから今度は今の状況の解決へと頭を向ける。少し考えて案が浮かんだ。
 僕たちは、人気のない路地へと駆け込む。建物たちの隙間といった方が良いかもしれない。流石に人一人は十分通れる幅があるが、通ることを目的にして作られたものではない。だから通りやすさなど知ったこっちゃないという風に、建物の都合に合わせてでたらめにジグザグとしている。
 わざわざそこを通ったのは依頼人との待ち合わせ場所だからなのだけれど、この際ということでもう一つ目的を追加することにした。
 僕は入って早速現れる角に隠れる。すると、やはり追いかけてくる影が息を乱しながら入ってきた。
「はい、お久しぶりですね」
 彼女が角に差し掛かろうという瞬間、僕は飛び出し声をかける。
「わあっ!」
 あれから少しはまともになった、けれどまた虚ろだった目が大きく見開いて、彼女は飛び上がるようにして後ずさった。
 僕は彼女を知っている。流石に忘れるわけにはいかない。
「一体何故僕の跡をつけていたんですか?」
 尋ねると、もじもじと落ち着かない様子が見受けられた。言い淀んでいるのだ。たまにこちらに視線を向けるものの、すぐに地面と向き直している。
 そんなことを何度か繰り返していると、おもむろに彼女の口が開いた。
「……私を、仲間にしてくれませんか?」
 美涼は、そう言った。

       

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