地獄というものは、まず死者に対しての審判が行われる。その役目を担うのが閻魔大王である。
近頃は医学が進歩したせいで、とぼけた老人ばかりが地獄にやってくるようになった。まったく迷惑千万。老人は、同じことを何度も聞き返し、同じことを何度も言うのだ。しかも動作がとてものろい。おかげで大王の前には長い長い列が作られていた。
その中にひとり、若い女がいた。爺婆のなかにちらほらといるのはたいへん目立つ。大王もそれは思っており、聞いてみることにした。
「おい、どうしてそんなに若くして死んだのだ。ははあ、貴様、相当の悪行を積んだとみえる。そうだろう」
「私はたしかに、ひとり女の人を殺しました。でも彼女は殺されるべき人間だったのです」
「何故だ」
「私の彼氏を寝取ったんです。本当はクリスマスを一緒に過ごすはずだったのに」
「ふぅむ。そのクリスマスとやら、どういうものか説明しろ」
「恋人が愛を確かめあう日、ですかね」
「けしからん、まったくもってけしからん。煩悩にまみれた人間どもめ、粛清が必要だな」
「クリスマスは十二月二十五日です。憂さ晴らしにめちゃくちゃにしてください」
「よいだろう。獄卒鬼を引き連れて火の海としてやろうぞ」
そしてクリスマス。人々は讃美歌が流れる繁華街を通り過ぎ、恋人、家族、友人等々親しい人間と過ごしていた。なかには一人の者もいたが。
激しい寒波によって雪が降る東京は、幸福に包まれていた。
しかし、星月夜の果てからやってきた閻魔大王率いる鬼の大群がそれを壊すこととなった。
牛頭馬頭は盛んに棍棒を振りまわし、火をつけた。赤青さまざまな色の鬼は各々好きなように暴れた。自衛隊も米軍も歯が立たない。東京は閻魔大王の望みどおり火の海となった。
大王は最後に、こう言い残した。
「思い知ったか、人間どもめ。他の街もこうなりたくなければ、至急クリスマスをやめるのだな」
おしまい
(二千文字どころか千文字も越えませんでした。ルール違反ですが許してください)