Neetel Inside ニートノベル
表紙

セカイ内乱
プロローグ

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「世界の敵になりたいんだけど。」

人気のない教室の中で彼女はこうつぶやいた。
僕は盤から顔を上げて言う。

「高校生になっても中二病かよ」

「別に中二でもいいじゃない。童心を忘れないってことは良いことよ。青春を謳歌してる奴なんてものは多少なりとも中二病なんだし。」

「クラスに友達ができず、部活にも入らないで余りにも暇だから彼氏でもない小学校時代の同級生と放課後の教室でボードゲームに興じている奴が青春を語るな。」

・・・まあ全部俺にもあてはまるんだけどな。
心の中でため息をついた。

「幼馴染とボードゲーム、に変えればリア充に聞こえない?」

「恋愛対象にならない幼馴染に価値があるか。」

・・・お前は美人かどうか云々以前に性格がねじ曲がりすぎてるからな。

「そんなこと言って実は私のことが好きっていうのが定番よね。」

「それだけはない。俺は年下好きだ。」

「それは残念。」

大して残念そうな様子ではない。
当然っちゃ当然だが。

「まあ冗談はこれぐらいにして本題に入りましょうか。」

「本題なんてどこにあったんだよ?」

「最初に言ったじゃない『世界の敵になりたいんだけど』って。」

「どちらかというとそっちが冗談であって欲しかったんだけどな。」

「そんなこと気にする性格だった?」

「同級生の精神を慮る位の余裕はあるよ。・・・大体『世界の敵』なんかならなくてもお前は十分反社会的だよ。」

「平凡な女の子に向かってひどいこと言うわね。そんなんだから彼女もいないのよ。」

「授業中ほとんど寝てるか漫画読んでるかなのに成績トップクラスで、運動会の練習に『めんどくさい』とかいうふざけた理由で参加せず、それだけならまだしも参加するように頼んできた先輩を論破して泣かせ、さらには『こんな行事無くなっちゃえばいいのよ』とか言って運動会実行委員の連中の飲酒の証拠写真と学校側と旅行会社の癒着の証拠を匿名でPTAに送った奴のセリフじゃねえよ!あと彼女がいないのは関係ねえ!」

大声を出したのでのどが痛くなった。
無駄に体力を消費させんな。

「そもそも私が成りたいのは『世界の敵』であって『社会の敵」ではないのよ。」

俺の魂の叫びは無視されてしまった。
文句を言おうと思ったが、ある一つの事実に思い当たった。

「お前さ・・・最近ブギーポップとか読んだ?」

「読んでたけど?今日の授業中に。」

やっぱりそうか・・・。
最近見た物に影響されすぎだろ。
知能と比較してお前の精神年齢低すぎねえか?

「やっぱり上遠野浩平はいいわよね。」

幼馴染の心配をよそにのんきに言う。

「ナイトウォッチ三部作の方がブギーポップよりも好きだけど。」

「俺はビートのディプシリンの方が好きだけどな。」

「あんたは昔っから少年漫画みたいの好きだからね。高校生になってまでジャンプとか読んでるし。」

「いいじゃねえか。少年なんだから。」

キーン コーン カーン コーン

完全下校時刻十分前を告げるチャイムが鳴った。

「早いわね。もう五時なの。」

「いつもこんなもんだろ。」

お互いに生活態度はともかくとして、小学校の先生のおかげで時間に対しては厳密なので下校の準備を始める。

途中からお互いに試合を放棄した形になったが、この将棋盤は局面を保存できるタイプなので明日にでも続きができる。
将棋盤を鞄にしまって、教室から出る。

自分の席へ荷物を取りに行った友人を待って校門へと歩き出した。

「結局うやむやになってしまったけれど、『世界の敵』についてどう思う?」

歩きながら彼女はこう言った。

「特に言う事はないけど・・・。強いて言うなら・・・、そうだな・・・。」

「・・・キミって案外律儀だよね。」

「そうか?」

「普通なら『知るか』って言って切り捨てるって。」

みんな考えるくらいのことはすると思うんだけどな・・・。
そのまま暫く無言で考えていると、一つどうでもいいような意見が思いついた。

「どうでもいいことなんだが、『世界の敵』になるのってほとんど不可能だと思うんだ。」

校門を横目に通りすぎながら言う。


「どういうこと?」

「いや、まあ言葉の綾みたいな意見なんだが・・・。」

「いいよ。聞かせて。」

「敵ってのは対象の物に対抗できる位の力を持たなきゃ敵とは言えない。だから、世界の敵ってのは既存の世界をぶっ壊せる位の力を持ってなきゃなんない。・・・ここまでは納得できるよな。」

彼女は無言でうなずく。

「世界をぶっ壊す位の権力を持ちたいならどっかの小国を支配して核ミサイルをいくつか持てばいいと思うんだけどな。それだと『世界の敵「達」』なんだよ。ミサイルのスイッチを持つのはあくまで一人だけど、ミサイルを持てるほどの国力を作り上げたのは複数人だろ。本当の意味で『世界の敵』として世界と対抗するにはそれこそMPLS能力でも持ってないと。」

ちらりと友人の顔を伺うと、暗くて良く見えなかったが少し悲しい表情をしているようにも見えた。

「そこから君はどんな教訓を得るのかな?」

こっちの顔を見ながら言う。
やっぱ美人ではあるんだよなあ、と俗っぽいことを考えながら返答を考える。

「利己的な感情で世界を変えようとするな。独りよがりな戦いなんて内乱と大して変わらない・・・こんな感じかな。」

「45点。もうちょっとこじつけてくれないと面白味が無い。」

「赤点じゃないからいいよ。進級はできる。」

気がつくと二人の通学路の分岐点に着いていた。
もう冬なので周りは暗くなっていく。

「家まで送るよ。」

「一人で帰る、大して暗くないし。」

「ただでさえ最近物騒なのに女子高校生が一人で帰るな。一応お前は美人の部類にはいるんだから。」

「送り狼?」

「黙れ」

・・・いつもと同じようなやり取りをしながら歩いていくと、ようやく家の前についた。

「また明日。」

「ああ。」

幼馴染が家に入るのを見届けてから自分の家に向かう。

「おーい」

後ろから彼女の声が聞こえた。
振り替えってみると二回の自分の部屋の窓から顔を出していた。
・・・もう部屋に入ったのかよ。

「なんだ?」

しょうが無いので叫び返す。

「好きだー」

は?

「付き合ってー」

いやいやいやいやいや

「答えは明日聞かせてねー」

おいおいおいおいおいおいおいおいおい

言う事だけ言うと彼女は窓を閉めて部屋の中に閉じこもってしまった。

「気恥ずかしい奴め。」

精一杯の虚勢を張って俺は帰路に着いた。

       

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