Neetel Inside ニートノベル
表紙

願うのはハーレムじゃなく純情だ!
第0話 ややこしい男?

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 何が起こっているのか理解できない。

 なぜなら、今まさに俺は、男に告白されてるからだ。それも、普通の男じゃない。いや、普通の男だともっとおかしいが……。というのは、俺とコイツが幼馴染だからだ。
 いま目の前に立っているコイツ、 杉坂 誠(すぎさか まこと) とは、幼稚園から小学生の時まで一緒によく遊んだものだ。中学生になってからはめっきり会う機会が無くなったが。
 それからずっと姿を見たことがなかったけど……まさかこんな趣味になっていたとは。驚く。いや、すごーく驚く。ていうかむしろ引く。 

「まさか……お前の趣味が女装だったとは知らなかったわ」
「…………」
 俺がそう言うと、誠は俯いて黙り込んでしまった。
 しかし、異様なまでに可愛い。女装でコレはかなりレベルが高いんじゃないだろうか。低身長で華奢な身体。さらに風にさらさらと靡く、艶やかで流れるような髪質のショートヘア。極めつけは、これ以上小さいサイズが無いのか、ブカブカの制服。俺に告白なんて馬鹿な真似してないで、いっそのことテレビに出て『女装キング』として後世に名を残したほうがいいと思うんだが。
「私、女だよ……? ゆーちゃんひどい……」
 誠は俺のことを上目遣いで見つめながら言った。その瞳は涙で潤んでいてビー玉みたいな目で、それがたまらなく可憐でそして――かわいい。
「何言ってんだよ。ふざけてないで入学式行こうぜ」
 俺は体育館の方を指差す。ちなみに今俺達が立っているのは、学校の裏門の前だ。
 正門の方には、人がわんさか溢れているが、裏門は真逆に位置するためめったに人が来ない。
 それをいいことに、人ごみの中、突然手を引かれて俺はここにつれてこられ、告白された。高校入学当日に。さらに入学式があと少しで始まってしまうのにだ。
「ふざけてないよ……。本当にゆーちゃんのことが大好きなんだってば……」
 ふざけてるようにしか聞こえない。コレで性別が“本当”に女だって言うのなら、本気で受け止める。しかし、幼馴染でしかも男だという事実がおまけつきなわけだと、話が変わってくる。
 俺は、一つ嘆息をもらし、不安げにこっちを見ている誠の肩にポンっと手をおいた。
「あのな、そういうことをするのはお前の勝手だけどな、そのな……」
「……?」
 次の言葉が出てこない俺の様子をみて、誠は不思議そうに首をかしげた。
 あれ……可愛くね? ヤバいのかもしれない。これは本格的にやばいのかもしれない。男に萌えている。キュンとしている……。このままでは惚れかねない。とりあえずここから離れなければっ!
「ま、まぁ返事は今度! じゃ!」
「えっ」
 そういって俺は、あらん限りの力を振り絞って全力で体育館の方へかけて行った。
 入学当日に学校を全力疾走してる生徒の俺って……。

           ☆

 入学式が終わり、いよいよクラス分けの時間になった。
 やっぱり、『式』がつくものはすべからく面倒くさい。校長やその他の教師が淡々と必要ないことやどうでもいい話をするだけ。なんの意味があるのかもわからない。
 クラス分けは、楽しみといえば楽しみだが不安といえば不安だ。どちらかといえば、いままで友達だった奴がほとんどいないため不安の方が大きい。
 そんなことを考えながら、周りを通観していると、体育館から少し離れたところに、人が集まっている光景が視界に入った。
 多分あそこにクラス分けの紙が貼ってあるのだろう。
 俺はその人だかりのところまで駆け寄ると、校舎の壁に大雑把に貼附されている六枚の紙を左から順番に眺めていった。

 一番左、一年一組――俺の名前はない。
 次、一年二組

「あ、あった」
 案外呆気なく見つかったもので、声に出してしまった。
 そして、さらに二組のクラス分け用紙を眺めていると、見覚えのある名前が眼に映った。

――杉坂 誠。あれ……。よくみると、そうじゃなくて 杉坂 理沙(すぎさか りさ)

 ん……? どういうことだ……?
 なんだか俺は考えるのさえも面倒くさかったので、さっさと教室に向かった。

           ☆

 教室に着くと、前にある黒板に記入されている指定の席に腰を下ろした。
 知らない人が多いせいか、中学校の頃の教室とは打って変わり、静寂が教室中を覆っていた。教室の作りなどは殆ど中学校の時と変わらない。
 俺は机に頬杖をつき、教室の引き戸をくぐる生徒……即ちこれからクラスメイトとなる人間達を横目で見ていた。
 しばらく、その方向にボンヤリと目を向けていると、あの容姿が戸をくぐり抜けた。

 誠である。

 俺は衝動的にガタッと椅子から腰を上げ、誠の方へ歩み寄った。
「同じクラスか、誠!」
 俺が嬉しそうに声をかけると、誠は、コイツは何を言ってるいるんだと言わんばかりの表情を浮かべた。
「ど、どうした?」
「え? だって私……誠じゃないよ?」
「…………。え?」
「私、理沙だよ」
 理沙? りさ? リサ? どこかで聞いたことのある名前だ。幼い頃に。どこかで。

「あっっ!」

 思い出した。理沙は、誠の妹だ。容姿が誠と似ていたので、勝手に勘違いしていたのか、俺は。
「ってことは……マジで女……?」
「そうだよ。やっと本気でわかってくれた?」
「う、うん」
 なるほど、女か。俺の勘違いか。なーんだ。
 俺は再び席に戻り、腰を下ろした。そして、机の上に右肘を乗っけてその肘の先のある、手の平に頬を乗せ、「ふぅ」と安堵の息を吐いた。
 その瞬間。俺はとんでもないことに気づいた。

 あれ……、アイツが男じゃないってことは、普通に告白されたんじゃね…!?

 まさかの、モテ期到来か!?
 いきなり告白だぞ、告白! しかも女子生徒!! 冷静に考えてみるとこれは凄いことだ……。だが、落ち着け。興奮してはいけないぞ俺。ここは男としての余裕を見せつつ、別に付き合ってやってもいいぜというスタンスで行くべきだ!! 
 そんな考えをめぐらせ、俺は再び立ち上がり、杉坂の名前を呼びながら理沙の席まで闊歩した。
「ん? どうしたの? ゆーちゃん」
 理沙が杉坂という言葉に反応し、おもてを上げ、こちらに視線を向ける。
 か、可愛い……。なんかさり気にここでも上目遣いだし、少し口あいちゃってるし。
 しかも、よく考えてみたら、『ゆーちゃん』とかあだ名で呼ばれちゃってるんだぞ俺。女子生徒に!! 彼女居ない暦=年齢 の俺にとってはそれだけで小躍りするほど嬉しい。
「いやぁ……どーしたっていうか、そのさ、さっきの――」
 言いかけた途端、教室の引き戸がガラッと開いた。入ってきたのは、高身長の男。筋肉の鎧を着て、その上に服を着ているのかというくらいの筋肉男だ。顔つきはとても勇ましく、斜めに釣り上がった眉毛が凛々しく、絶妙に顎がしゃくれている。
 きっとこの人が俺達二組の担任の先生なんだろう。微妙に憂鬱だ。
「おい、そこのお前。指定の席に戻れ」
 さっそく声をかけられた俺。さらに憂鬱だ。
 さっさと席に戻らないと、なんだかいたたまれない雰囲気になりそうなので、俺はすぐに自分の席へと戻った。
 でも、まだ理沙に聞きたいことはあるので、休み時間にまた話しかけに行くとしよう。
 俺はふいに、理沙の席がある方に目を向けた。あろうことか、理沙が俺の方を見て微笑んでいる。その瞬間、俺の童貞ハートは燃え上がった……。
 
 完全に俺は理沙に惚れた。

――なんだかんだで、俺の高校生活のスタートだ。

       

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