【5月9日 午後04時10分】
パトカーで家に帰ってきた拓真は誰もいないリビングの椅子に座っている。誰もいない家に帰ってきて、誰もいないリビングに「ただいま」と言葉を投げかける。誰もいないのでもちろん返事はない。父は死に、父を殺した犯人はのうのうと生きながらえる。魔法使いである拓真の言葉は誰も信じない。信じる信じない以前の問題かもしれない。魔法使いの発言など発言として捉えられない。そういうことだろう。拓真は二十歳の誕生日から今日までで、感情の四分の三ほどを失った気がしていた。父が死んだ。犯人は捕まらない。父が死んだことはなかった件として片付けられる。最悪だ。最悪の事態のはずなのに涙は出ない。もう自分は泣かないんだろうな、と考えながら誰もいないリビングで紅茶を飲む。紅茶はいつもより苦かった。
――同時刻。とあるアパートの一室。
「つっても、俺らに何ができる?」
「だから言ってるだろ、革命だって」
「革命っつったって....なにをするんだよ、具体的に」
「魔法使いをコケにしたやつらを片っ端から潰していく」
「魔法使いをコケにしないやつはこの世にいないよ」
「それもそうか、じゃあこの国を潰そう」
「この国を潰すって....お前本当ゲーム脳だな、現実見ろよ」
「うるさいぞ魔法使い。俺たちにはそれができる。心配いらない」
「うるさいのはどっちだ、魔法使い。まあ、否定はしないけど」
「そうと決まれば?」
「そうだな、仲間がいる」
「量より質だ、とびきり強い魔法使いを捜す」
「つっても、どうやって強い魔法使いを捜し当てろっていうの」
「バカだな、言ったろ。」
「ああ、あれね」
「そう」
「魔法使いは引かれ合う」
「それにしてもかっこいいよねその言葉、なんかのゲームのセリフ?」
「違う。俺が考えた」
「嘘だね」
「嘘じゃない、無駄口叩くな。早速魔法使いを捜すぞ」
「了解了解」
「戸締まりしっかりな」
「はいはい、大丈夫だよ」
ガチャ、ガチャ。施錠の音。
アパートの一室から出てきた男は、一人だった。