「なぁ、妹よ。俺は思うんだよ。この能力を使って何ができるかって考えたら、将来の道はごく限られた物にしかならない、どーでもいい能力だと」
と妹の胸を激しくもやさしく揉む俺。もちろん、心の中で妹を気持ちよくさせようと思いながらだ。
「……そんな……んしれりゃな……いよう……お兄ちゃん……」
妹はまるでチワワのような目で。
「もう……やめ……てぇ……? 腰が……」
「腰がどうしたの?」
「抜け……ちゃ……あ……」
と言う言葉を言い残し、俺にのたれかかってくる妹。
「大丈夫か……?」
「……だめ……そっとしておいて……」
「分かった……ごめんな?」
妹をリビングのソファーに寝かしつけ、自分の部屋に戻る。
俺は、俺はなんという能力を手に入れてしまったのだ……。
サヤさん曰く、モミテクを凌駕すると「もみてぃっく」なる、上位的な技を手に入れられるというのだが、それを手に入れるには並ならぬ修業と並ならぬ才能が必要……とのことだ。
俺の場合は才能が修業を凌駕してモミテクからもみてぃっくに進化した。というのが正しいらしいのだが……。
どうしたものか……。
◇
放課後、俺はミヤノに文芸部室に呼び出され文芸部に顔を出すと、何やら神妙な面持ちでミヤノが俺のことを待っていた。
「なんだよ、用って」
「サヤさんから話は聞いた。どうやら取得したみたいね?」
「もみてぃっくってやつか……?」
「そう」
ミヤノは席を立ち、本を読むニシヤマの後ろに移動して。
「さぁ、思う存分、ニシヤマの胸を揉みなさい!」
いやいやいやいや、意味が、意味がわからん。
「意味が分からないって顔ね」
と不敵に笑うミヤノ。
「分からないも何も、俺がなんとなく知り得たのは、お前がレズビアンってことくらいだ」
「な、なんでそれを……!?」
目が飛び出んばかりに驚くミヤノ。
「いやー……なんとなくだけど、話を集計するとそうなるっていうか……」
俺の推測だと、ミヤノもモミテクを持っているに違いない。まあ、所詮モミテク止まりなんだろうけど。
ミヤノはチッと舌打ちをして。
「バレちゃぁしょうがない! あたしの胸を揉みなさい――と言いたい所だけど、あたしは揉み専なの」
なんだそれは聞いたことがないぞ。揉み専? また新しい造語ですか?
「揉み専ってなんだよ……」
「こういうこと」
とニシヤマの胸を後ろからもみだすミヤノ。
ほぼ無理矢理な状況、そしてなにより、生まれて初めて見る百合百合しい展開につばを飲み込み、その状況をただ呆然と見ていると。
「……あ……あ……ん……」
と小さく、だが部室中に響く声でニシヤマが甘い声を出し始めた。
「分かった? あたしは揉み専、ニシヤマは揉まれ専。そういうこと」
要するに、攻めと受けということか。
「――で、俺にニシヤマの胸を揉めと?」
「そう。サヤさんが言ってたことが本当ならば、あたしよりもニシヤマを気持ちよく出来るはず……なんでしょ?」
どうやらもみてぃっくのことはニシヤマもよく分かっていないらしい。
「多分な、多分だぞ?」
「そう。いいよね? ニシヤマ」
コクリと頭を下げるニシヤマ。
「いいのか? だって……その俺はお前のこと」
以前、俺は、本能に従って、己に流れる血に従って、ニシヤマの胸を揉んだ。そう、ミヤノの言う所の強姦のような形で。
「……いい。ただ気持ちよくしてくれないと……ダメ」
「分かった」
ニシヤマは読んでいた本を机の上に起き、体を机から離して俺に揉まれる体制に。
俺はそんなニシヤマの前に行き、腰を下げ、ニシヤマの胸に手を当てる。
あくまで気持よくさせるために。私利私欲のためだけではなく、相手にも、心――胸――乳を開放してもらう。
そう自分に言い聞かせながら俺はニシヤマの胸を揉んだ。
「いやーさすがのあたしもビックリしたよ!」
俺の隣を歩くミヤノが言葉通り驚いた表情で言った。
「まさかニシヤマを保健室送りにするなんて、あんたやるじゃん!」
「……いや、これ喜んでいいところなの?」
「素直になりなさいよ!」
俺が胸を揉んで一分もしないでニシヤマは陥落した。魂が抜けたように崩れ落ちたニシヤマを見た俺とミヤノはさすがにヤバイということで保健室にニシヤマを連れて行って、そのまま帰ることにした。
「すごい。まあ、なんだろう。これで自信を持って嫁探しをするよいいと思うよ!」
「自信も何も、相手を気持ちよくさせようって頭が働いて、肝心の胸の感触がいまいち掴み切れないんだよ」
「いいんじゃない? その濁った感覚の中でも、その求める感覚を見つけられたら。それがまさにあんたの運命の相手ってことにもなるわけだし?」
そういうものなのか……。
「じゃ、あたしあっちのホームだから」
と手を振りながら階段を駆け上がっていくミヤノ。
お、おおお!? ……ぱ、パンツが……見えない……。
ミヤノと別れ一人で電車に乗り、自宅に帰る。
今日はバイトが無いのでそのまま直帰する。なんだかそれはそれで歯ごたえの無い一日なような感じがしてつまらない。
電車を降りてホーム、改札、そして家へと足を運ぶ。
ふと、路地の方に視線を向けると、見覚えのある影が見えたので声をかけようと口を開きかけた瞬間、俺は見てはいけない、いや、見たくはなかったものを見るような顔をし、開きかけた口を開けたまま、その場に呆然と立ち尽くした。
なぜなら視線の先に、男と一緒に歩くナオの姿があったからだ。