Neetel Inside ニートノベル
表紙

もみてぃっく
S03-1 差し伸べられた左手

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「なぁニシヤマー。オススメの漫画とか無い?」
「……漫画……あんまり読まない……から」
 とニシヤマは小説を読みながら言った。
 あんなことがあったと言うのに、俺とニシヤマの関係性はあれ以前よりも、なぜか深まってしまった。
 ニシヤマの胸を揉もうなんて気が全く起きないのが、ある意味で不幸中の幸いかもしれない。
「……それより……あなたの……物語……うまく書けてる……の?」
「あー……あれね。なかなか筆が進まなくてさ」
 ニシヤマが言ってるのは、多分、あの時、俺がついた嘘のことだろう。いや、あながち嘘じゃないんだけどね。嫁探し。
「……そう」
 ニシヤマはあまり興味がないのか、再び諸説のページをめくり始めた。
 どういうわけか、俺は文芸部に正式に入部してしまった。と、いっても毎日文芸部に顔を出しているわけじゃない。
 ニシヤマ曰く、部活に来るのは気が向いた時だけでいい。とのことなので、気が向いた時にぷらっと行く程度だ。
 図書館ほどとまではないが、本が積みに積まれてる文芸部の部室。
 何かいい本は無いかなーと、本の背を見てみるが、どれも気難しそうなタイトルの小説ばかりで、「カラダの仕組み」みたいな実用書みたいなものは無かった。
 この間、窓を開けて喚起をしたばかりだと言うのに、もうジメジメし始めている部室。空気が淀んでいるのか、それとも俺の目が歪んでいるのか、どうも何もかもが淀んで見える。
 そんな淀んだ環境の中、天井をぼーっと眺めながら、何を思ったのか俺はニシヤマにこんなことを聞いてしまった。
「なぁ、ニシヤマ。お前、友達いんの?」
「……居る」
「えっ?」
 ニシヤマの意外な答えに、びっくりした俺は、慌てて天井からニシヤマへと視点を写す。
「……居る……友達」
「え、マジで?」
「うん……」
「ちなみに、男? 女?」
「両方……」
 おいおい待ってくれよ、ニシヤマさん? このイケメンの俺ですら友達と言える人間は、肩指……しかも指が三本もあれば数えられちゃうくらい、友達が少なのに?
「ちなみに、この学校のやつ?」
「……うん」
 なんということでしょう。この超絶イケメンの俺ですら、この学校に友達と呼べる人間は……い、いないのに。
「ち、ち、ちなみに? そのまず、なんていうの? 男友達って……やつの? 名前を、俺に教えてくれると? 嬉しいかもしれないけど?」
 などと、俺は意味不明な自供をしており。そんな同様を隠せない俺を見つめながら、ニシヤマはゆっくりと俺の方に人差し指を向けた。
「えっ、俺?」
「……そう。……男友達と……言えるのは……今のとこ……あなただけ……」
 なんだそう言うことだったのか、と安堵する俺。いやいや、何、落ち着いちゃってるんだよ。――と言うか、ニシヤマは、あんなことをした俺のことを友達として認識してくれているのか。……正直、結構嬉しい。
「あっ、そうだったのか」
「んじゃぁ、女友達ってのは?」
「中学の頃……学校が一緒だった娘……他のクラスに居る。……今でもたまに……遊んでる」
 ニシヤマの女友達か。正直気になる。
「なぁ、ニシヤマ」
 俺はニシヤマの前髪の奥に隠れた目を見つめながら。
「その友達、俺に紹介してくれないか?」



 翌々日の放課後、帰りのホームルームも終わったことだし、帰ろうかなと帰りの支度をしていると、肩を二回誰かに叩かれたので振り向くと、ニシヤマが立っていたので、「どうしたん?」とカバンの中を覗きながら言うと、「部活に来て」とだけ言い残し、ニシヤマは教室から出て行ってしまった。
 ニシヤマから部活に来て。――なんて言われたのは、あの取材以来だったので、ドキマキしながら部室に行くと、ニシヤマと、もう一人、同じ学年と思われるツイーンテールをした女生徒が部室の長テーブルの前に座っていた。
 胸元のリボンの色が同じ学年の色だったから同じ学年って気づけたけど……パイプ椅子に座ってるのに……足が床にぎりぎり届いていない所をみると……こいつ……相当小さいぞ?
「……あんたがナギサって人?」
 その小人は頬杖をしながら俺のことを見つめながら言った。
「そうだけど? えっと……?」
 誰よこの娘! と言いたい所を我慢して、ニシヤマにSOS視線を向けるが、その視線を無視するようにニシヤマは小説を読み進めていた。
「あたしはニシヤマの友達。この間、あんたがあたしに会いたい的なことをニシヤマから聞いて、んで、今日、ここに来たってわけ」
 相変わらず頬杖をし、人を疑うような視線を俺にぶつけてくる小人。
「そ、そうなんだ……」
 確かに紹介してくれないかとは言ったが、事前通達無しでの紹介だなんて、聞いてないんだが……。もしかしてこれは……ささやかなるニシヤマの逆襲なのか?
「んで、さ。あたしに会いたいって聞いたんだけど、なんか用?」
「いや……その、ニシヤマの友達ってどんな人かなーって」
「あっそう。……ふーん、ニシヤマの友達ってどんな人かねぇ……」
 なんで、この小人は攻撃的なんだ? と思いながら。
「なんか……ニシヤマとは正反対の性格だね」
「そう? だから何? っていうか、ニシヤマに『男友達があたしに会いたがってる』って聞いて、正直ショック死しそうになったんだけど――この責任、どうどってくれるの?」
「責任って……言われても」
 責任という言葉にトキメキを感じてしまった自分が憎い。
「まぁいいわ。そうだ!」
 小人はぴょんとパイプ椅子から降りて。
「良い事思いついた。これから一週間、あんたのことを監視して、あんたがニシヤマにふさわしい男か、あたしが選定する!」
 はぁ? と俺がため息を付いている隙に小人がニシヤマに「いいよね?」と訊くと、ニシヤマはコクリと首を縦に振り、その無茶ぶりを軽く了承した。そもそもなんでニシヤマに了解を貰ってるんだ、この小人は。
「そういうわけでよろしくね、ナギサくん?」
「え? ……それより、一つ聞きたことがあるだけど」
「あん? なんか文句あるの?」
 としたから見上げられながら睨みつけられるという、今までにない事態に戸惑いつつ。
「その――君の名前を教えてくれないか?」
「あー、ミヤノ。ミヤノっていいます。これから一週間ばかりあなたのストーカーをさせていただきます、ミヤノです」
 と笑顔で言いながら左手を差し出すミヤノ。
 どう考えてもこの状況、俺に拒否権なんて無いじゃないか……と思いつつ、ミヤノの胸を見た瞬間、俺は、神はなんてイタズラずきなのだろうか! と心の中にで叫んでしまった。
 なぜかって? 何故ってミヤノはその……ロリ巨乳……ってヤツで……。
 正直、どう反応していいのか分からないまま、俺はミヤノの差し出す左手を握り返した。

       

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