「アルバイトをした経験は?」
「ありません」
「んーじゃぁ、そうだなぁ、メイドカフェ、及び、ネコミミメイドカフェに入店したことは?」
「ありません」
「何カップのおっぱいが好きですか?」
「わかりません」
「おっけ。君、採用! 明後日からきてね!」
これが俺が初めて受けたバイトの面接の一部始終だ。
店の外見と看板に踊る文字に驚き、そしてなにより、店長と思われるこの女性の粗末な面接に驚き。っていうかなにこれ?
「んで、ナギサくん」
店長と思われる女性が、少し性的な雰囲気を出しながら。
「私のおっぱい、どう?」
「どう? と言われましても……」
とメイドの衣装を着たその女性の胸を覗き見る。
小さめというわけでも、大きめと言うわけでもない。体のスタイルに合わせたかのような、そのバストサイズは、魅力的で見てるだけでヨダレが出てきそうな、何とも言えない何か備わっているように思える。
「っても、私は人妻だから、このおっぱいは旦那さんだけのモノなんだけどね!」
と顔を紅くして言う、店長と思われる女性。
「は、はぁ……」
少し残念。と思ってしまった俺が憎い。……というかやっぱり俺は女の胸ならなんでもいいのか?
「んで、なにか訊きたいことは?」
「そのミヤノとえっと……えっと……その……」
「あ、そういえば自己紹介まだしてなかったね。私はこのネコミミメイドカフェの店長をしてるサヤと言います。人妻です」
「あ、はい……それでミヤノとサヤさんの関係を知りたいのですが……」
「あーんと、元定員で、私の弟子的な?」
答えになってそうで、答えになってないような気もする。と言うか、元定員ってことは、ミヤノのやつ、このネコミミメイドカフェでバイトをしていたのか? 考えたくないが……考えられないこともない……。
「んまぁ、その、元弟子のミヤノっちに『ちょっとコイツを鍛えてくれ』って言われた時は、女の子かと思ってウハウハしてたんだけど……男だったなんてねえ」
「紛らわしい名前しててマジすいません」
ナギサと言う名前はよく間違えられる。もちろん性別的な意味で。
「んまぁいいんだけどさ」
「それで……俺、この店で何をすればいいんですか?」
まさかメイド服を来て、ネコミミカチューシャを頭につけて「いらっしゃいませ、ご主人様」ってやつをやれとでもいうのか? まさか、まさか、これがミヤノの言っていた女の子の気持ち的な何かを知るための術なのか?
「裏方。裏の厨房でレシピ通りに料理、またはデザートを作ってくれるだけでいいよ」
「えっ」
「いやねぇ。さすがに男の子にメイド服着させるわけ――」
言葉を止めたサヤさんは、爪先から頭の先まで俺を撫で回すように見て。
「いや……ナギサくんなら名前も女の子っぽいし……少し化粧すれば……いけるかも?」
「ちょっ、待ってくださいよ!」
今まで自称イケメンとして通してきた俺だが、はっきり正直に言う。俺は中の下だ。
そんな俺が化粧をしてメイドの格好をして接客するなんて無理に決まってるだろ! そもそも、そんな性癖もってねーよ!
「あらまぁ、そんなに焦っちゃって。冗談だって、冗談」
サヤさんと会うのはコレが初めてのことなのに、なんだろ……昔から一緒に居る、いわば姉のような、そんな身近な存在に感じる。
「んでまぁ、ミヤノっちが、ナギサくんをここに案内したってことは、多分聞いてると思うけど」
サヤさんは瞼を閉じながら。
「ナギサくんに、私がモミテクを伝授しないと行けないわけで」
モミテク? 確かミヤノがそんなことを言っていたが……俺はてっきりバイト代をミヤノに納税するために働かせられるモノのだと思っていのだが。
「あの……そのもみてく? ってのは何ですか」
「えっ? 違うの?」
「俺はただ、ここのバイト募集の紙をミヤノから渡されて……それで面接に着ただけなんですけど」
「ちょっと待っててね!」
とサヤさんは慌てた様子で席を立ち、休憩室から出ていった。
どういうことなんだろう。意味がわからん。
ドアの前で誰かと電話で話してるのか、サヤさんの声がドアの間から漏れてて聞こえる中、俺は、一体なんのためミヤノにバイトしろって言われたのかを考えたが、やはり行き着くのはバイト代を全額納税しろっていう結論だった……。
「……ナギサくん!」
とドアを勢い良く開け、休憩室に入ってくるサヤさん。
「あ、はい?」
「大丈夫。このバイトの真の目的はモミテク伝授でいいみたいだから」
と意味不明なことを言うサヤさん。
「あの……話が見えないんですけど」
サヤさんは再び俺の前に座って。
「んとね、私、ミヤノっちと約束してるんだ」
「は、はぁ?」
「ミヤノの紹介で入ってきたバイトの子にはモミテクを伝授するって」
「あのー……」
全く話の流れが理解できてない俺は、申し訳なさそうに。
「そのモミテクっていうのは一体なんなんですか?」
「女の子の胸を揉んで、どんな子でも気持ちよくさせちゃう技? みたいなの」
サヤさんの話をまとめるとこうだ。
サヤさんはミヤノに多大なる借りがあり、それを返すためにミヤノにモミテクを教えた。ミヤノはそのモミテクを手に入れると直ぐさまに店を後にし、その去り際に「次にあたしの紹介できた人にその技を教えてあげてね」と言い残して消えていったらしい。
「ごめんなさい、意味がわかりません」
「とりあえず、私はね、ミヤノっちに借りがあるの。それは多分一生返せないくらいの借りなんだえけど……」
この人妻、何歳か知らんが、高校生に借りが、しかも一生返せないくらいの借りって……大人としてどうかと思うんだけど。
「だから、さっき電話でミヤノっちに言われた通り、ナギサくんにモミテクを伝授しないと行けないんだけど……うーん……困ったなあ」
「そんなに困るなら、別に伝授しなくて――」
「ダメ! そうするとまたミヤノっちに何言われるかわからないじゃない!」
と机を叩き立ち上がるサヤさん。
こりゃぁ……そうとうなんかあったんだな……。
「は、はぁ……」
「んでね、実際問題、モミテクを伝授するには……そのー、おっぱいを実際に揉んで……教えると言うかなんというか……でも私、一応人妻だし……その旦那さん以外に……おっぱいを揉まれるわけにいかないし……」
というよりなにより、何故、女であるサヤさんが、そんな超絶乳モミテクニックを持っているのだろう? という疑問はとりあえず置いておいた方がいいのかもしれないと、俺の心の俺がが百合の花を持ちながら叫んでいたので考えるのをやめた。
と、その時、休憩室に一人のメイドさんが入ってきた。
「すいませーん、そろそろきゅうけ……」
そのネコミミメイドはどこかで見たことのある人だった。
「あれ……あんた……もしかして……」
「……あれ……もしかして……」
と二人で疑心暗鬼になっているなか、その何とも言えない空気を打ち破るかのようにサヤさんが言った。
「どうしたの、ナギサくん、ミカンちゃん? あ、もしかしてふたりとも知り合い? ならちょうどいいかも!」
……やっぱり不登校不良児ミカン様でしたか……。とネコミミメイドのミカンを見ると、何か言いたそうに俺のことを睨みつけていた。
やべぇ……これヤベェかもしれねぇ……。