「……そういや今日はクリスマスイブだっけ」
オレは周囲を見渡した。いや、見渡す必要も無かった。
何故ならどこを見ようとも、視界に入るものは皆同じだからだ。
見渡す限りの、カップル、カップル、カップルたち――
手を繋いでイチャイチャしくさりやがって。
反吐が出る。
そんなことを考えているオレには当然のように彼女などおらず、マフラーを巻いて一人寂しく街中を歩いているだけだった。ちらちら振っている雪が鬱陶しい。それを見たカップルたちが「ホワイトクリスマスだねー」とかなんとかほざきあっている。
ホワイトクリスマス? どうせてめーら、あと数時間もすればラブホでカレシのザー○ン被って白濁した白に染まって雪が降っていようがいまいが関係なくホワイトクリスマスだろーが。死ね!
「虚しい……」
言葉にするつもりは無かった。のに、勝手に言葉が口から出てきた。虚しさが加速する。
「こいつら爆発しねぇかな……」
リア充爆発しろなんて台詞はネット上だけのスラングだと思っていたが、こうしてカップルの群れを眺めているとナチュラルにそんな台詞が浮かび上がってくるから不思議だ。
爆発。
その単語が頭の片隅に引っかかった。歩きながら数秒考えた。
――思い出した。
確か十二月の頭らへんに、どっかの馬鹿が「今年のクリスマスイブはリア充を対象にした爆弾テロを行う」とかなんとかの犯行予告が警視庁だか市長だかラブホの経営者だかに届いたんだったっけ。差出人はリア充撲滅委員会とかなんとか。手の込んだイタズラをするもんだと思いながらオレはテレビを眺めていた。
一ヶ月も経っていないのに、それについてのニュースがやたらと昔の事のように思われる。
結局、場所やクリスマスということ以外の日時などの指定は無かったのでただの冗談だと判断されたようではあるが、東京とかでは万が一に備えて警察が配備されているとかなんとかという話を友人から聞いたような記憶がある。
とはいうものの、こんな田舎では警察の姿などは見られない。当然か。
天を仰ぎ、息を吐く。冗談みたいに白かった。
「リア充爆発しろ」
ぼそり、と自分にしか聞こえない音量で呟いた。
呟きを唱え終えた、直後だった。
轟音が聖夜――いや、性夜の浮かれた空気を叩き割った。
その轟音はオレの背後から聞こえてきた。
熱風が頬を舐めて吹き抜けていく。
瞬間、オレは悟った。
ああ、これは非リア充からの正義の鉄槌なのだと。
人々の悲鳴が夜空をつんざく。クリスマスの甘ったるいムードは一気に消し飛ばされ、現在漂っているのは恐怖と混乱の入り混じった火薬の臭いを孕んだ空気だ。
ひひっ。
変な笑いが出た。
オレは不幸のどん底に突き落とされたバカップルどものツラを拝むべく、下卑た笑みを浮かべながら振り返った。