Neetel Inside ニートノベル
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青いセーブデータ
セーブ完了

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「葵…!」
そう言えたかどうかもわからない。
葵の姿が現れた瞬間、爆発音と共に青色の光が研究所を包み込んだ。

目眩がする。
ゆらゆらと霧夫は立ち上がる。
(なんだったんだ…いや、それより葵だ)
定まらない視界で葵を探す。
周りを見ると、先程まで一緒に発表を聞いていた人々が倒れている。
「あらら、派手にやっちゃうね、一応成果がでたからいいけど」
聞きなれない声がする。
霧夫は声の方向を見る。
見覚えのない細い男が一人、倒れている人々をまじまじと観察していた。

「あなたは大丈夫なのですか?何が起こったんでしょう?」
霧夫は声の主に問いかける。
男は霧夫を見つめ、驚いたような顔をする。
「おっと、女の子以外にも生存者がいたんだ」
「葵か!その女の子、どこに行きました!?」
霧夫が必死に言い放つ
「ちょいちょい、そんな焦んなよ、何故そんなこと聞くの?」
「僕の娘なんです!教えてください、見たんですよね?」
霧夫は必死に男に問いかける。
「あー、お父様ねー・・・めんどくさい」
突然男の声が低くなる。
「め、めんどくさい・・・?」
「モルモットをよく知ってる奴がいるとメンドイんだよねー後々さー」
そう言うと男は、霧夫に向かい走り出す。

振りかざされる右腕、目眩でフラついたのが功を奏し寸前のところで霧夫は避ける。
男が放った拳は壁を破壊し暗い外の景色が現れる。
チッ、と舌打ちする音。
命を奪われかけた霧夫は一目散に逃げる!
(とりあえず、ここから出なくては…!)
異常なまでの破壊力を持つパンチ、普通の人間に出来る技ではない。
この男は違法パーツを自身の腕として埋め込んだサイボーグであった。

出口へと走る霧夫。
しかし、後ろから男が迫る。
男が拳が霧夫に迫る!
霧夫は間一髪右腕で防御し、壁に吹き飛ばされる。
「へー義腕ねー」
男が言い放つ
「でも壊れちゃったね」
あの威力のパンチを受け止めたのだ、いくら研究用の硬い義腕と言えどバチバチと電流が流れている。
壁にぶつけられた痛みに顔を歪めながら霧夫は絶望した。
数メートル前には自分を殺そうとする男、さらに片腕も失っている。
どうやっても生き残れる気がしなかった。
男がこちらにゆっくり歩いてくる。
覚悟を決めた瞬間、頭の中に聞きなれない音声が流れる


――――新規セーブデータを作成しました。


(セーブデータって子供の時に遊んだゲームかよ…どうして最後に思い出すのがそれなんだよ…)
そんなことを思いながら霧夫は目前に迫る男を眺めていた。
「じゃーねー」
男が腕を上げる。
次の瞬間、霧夫の胸には大きな穴が開いた。
心臓を拳で一突き、即死である。
しかし、霧夫の脳は全体に命令を下す。



ロード開始―――――

     

「ど、どういうことだ…」
自分を殺したはずの男がこちらに歩いて来る。
(俺は生きているのか…?)
驚く霧夫、しかし目の前には腕を上げる男。
再び霧夫の胸に穴が開く。
しかし…

ロード開始―――――

またもや視界には自分を殺した男。
(セーブ…ロード…もしかして…馬鹿げたことだが、今はそれを信じるしかないか)
霧夫は賭けにでる。
(このセーブとロードが俺の考えている通りなら、あいつは胸を狙ってくるはずだ)
振り上げられる拳、渾身の力を振り絞り、霧夫は右へと転がる。
崩れる壁の音、間一髪避けることができたようだ。
そして出口に向かい走り出す。少し遅れて男も後を追う。
部屋からの脱出に成功した霧夫は近くにある階段を駆け上がる。


(馬鹿が、上にあるのは研究室だけ、逃げることはできねーんだよ)
男は確信した勝利に頬を緩ませながら後を追う。
数階上の階に登った霧夫は研究室へと逃げ込んだ。
そこに後から入ってくる男。
だが霧夫の姿は見えない。
「おーい、いい子だから出てこいよー、痛いようにしないからさー」
男は笑いながら霧夫を探す。
そして不自然に並べられた水のタンクを発見し叫んだ。
「水で俺を倒そうってか?おー怖いねー!」
怖い、と口にしたが男の内心では少しも恐怖は感じていなかった。
機械は水に弱いというのは周知の事実であるが、この男が移植しているのは戦闘用の違法パーツである。
水ぐらいで壊れるものではなかったのだ。
そして男の予想通り、霧男がタンクを抱えた姿を表す。


――――ロード完了
頭に音声が響く。
(勝手にセーブされるのか…何が条件だ…)
霧夫は考えるが、今はそれどころではない。
「水で俺を倒そうってのか?おー怖いねー!」
近くで男の声がする。
作戦はバレてしまっているようだ、しかし強行するしかない。
タンクを左手でガッチリ持ち、霧夫は敵に姿を表した。
同時に、全速力で男に向かって走る!
距離が二メートルほどになった所で、男にタンクを投げる―――
水浸しになる男、霧夫は距離を取りながら勝利を確信した。
しかし
「バッカじゃねーの!水なんか効かねーよ!!」
男は叫ぶ。
そして霧夫の方へと迫ってくる…!




―――「そんなこと、既に知っている!」




霧夫は叫ぶと同時、男に物を軽く投げる。
反射的に受け取る男。
「なんだよこ…」
言い終わる前に男は倒れる。
霧夫が投げた物は、自分の右腕。故障し一部高圧電流の流れる右腕を水浸しの相手に投げたのである。
水だけでは効果がないと一度命を使って知り、自分の右腕を引きちぎっていたのだ。

「ハァ…ハァ…」
倒れた男を眺め一息つく霧夫。
しかしこの男を倒したからといって葵の居場所は掴めない。
この男が言ったことが本当ならば、葵はどこかに連れていかれたのだろう。
そう考えると居ても立ってもいられなかった霧夫は、研究所の捜索を開始した。

       

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