Neetel Inside ニートノベル
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うんこお嬢様の日常
「うんこお嬢様の通学」

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 智子は今年から晴れて姉と同じ高校に通うことになった。そして今日がその最初の登校日である。因みに家が多少のお金持ちであるが、別に「男子禁制の名門女学園」であるとか「県下一の偏差値を誇る名門私立高校」とかではまったくなかった。姉に言わせれば「普通のクソみたいな高校ですよー」とのことだった。因みに姉はそのクソみたいな高校で生徒会長を務めているので、智子は高校で姉と会ったら「うんこ会長」と呼んでやろうと密かに目論んでいた。
 しかし、高校生活の第一歩を踏み出す今日、流石に智子も緊張せずにはいられなかった。
 自己紹介のときに舌を噛んでみんなに笑われたらどうしよう。隣の席の人と仲良くできなかったらどうしよう。友達ができなかったどうしよう。緊張してお腹が痛くなったらどうしよう。緊張してお腹が痛くなってうんこ漏らしたらどうしよう。緊張してお腹が痛くなって自己紹介の時に舌噛んでうんこ漏らしたらどうしよう。緊張してお腹が痛くなって隣の人がうんこ漏らしたらどうしよう。緊張してお腹が痛くなってうんこ漏らす友達ができなかったらどうしよう。
 考えれば考えるほど智子の不安は膨れ上がり、心なしかお腹がいたくなってきたような気がしてきた。そんな智子の様子など露知らずの運転手の佐々木が、呑気に自分の高校生活について語っていたが、正直それどころではないし耳障りで仕方がなかった。
「うっせーぞうんこ!」と思わず叫びだしそうになったとき、うんこが「着きましたよ、智子様」と言って車を校門の前で停車させてしまったので、智子はいよいよ進退窮まってしまった。
「あわわわわ……」と慌てふためく智子をよそに、うんこがわざわざご丁寧に後部座先の扉を開いて「いってらっしゃいませ。智子様」とうんこみたいな笑顔で校門から真っ直ぐ伸びる校舎までの道を手で示してみせた。
 ここまで来たら覚悟を決めるしかないじゃないですか、と智子は内心で決意した。
 おずおずと車から降りると、春の薫る風が智子の髪を翻した。校門前の桜並木、その奥に聳え立つ清潔な白い校舎。智子の暗い心の中をさっと温かな光が差した気がした。
 ああ、今日から自分は高校生なのだ、という当たり前の事実が先程までとはまったく違った意味を持って智子の胸の内に去来した。
 後ろを振り返るとうんこが拳をぐっと握りしめて智子を後押ししていた。自然と笑みが浮かぶ。
「いってきます」
 智子はこれから始まる高校生活に胸を躍らせて、その一歩をしかと踏み出したのだった。
 その足が何かむにゅっとしたものを踏んだ……気がした。いや、確実に踏み潰した。
 おそるおそる足をずらすと、茶色の扁平な物体が地面に張り付いていた。その表面は智子の靴の裏の模様を正確に写し取っている。そして立ち所に香るあの臭気。
 智子は眉をひそめてそっと後ずさりした。
「…………うんこみたい」
 うんこだった。 

       

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