Neetel Inside ニートノベル
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うんこお嬢様の日常
「うんこお嬢様の朝2」

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 吉田智子の朝はうんこから始まる――はずだった。
「お姉さま! お姉さま! 早く早く!」智子――必死の形相でトイレのドアをノック/殴打/連打/乱打/太鼓の達人のごとく刻まれるリズム=ドンドンドコドンドンドンドン。
 朝の寝覚めにはうんこと洗顔に限る。それが智子の習慣であり、死んだ母からの教えであった――のだが、今朝に限って智子の前に巨大な壁が立ちはだかっていた。
「そんなこと言われましてもねー」トイレの中から聞こえる声――悠然/泰然/智子の焦燥など素知らぬのんびりとした口調=姉。「なかなかでないんですよー。困りましたわー」
「でないなら早く出てきてくださいよ! 私は今すぐにでもでてきそうなんですよ!」智子――ドンドンドコドコドンドンドン。
「あ、でももうすぐでそうかも。んんんー」にわかに聞こえる姉の唸り声――やがて溜息。「はあぁー。やっぱりでませんわー」
「でないならトイレから出てこいつってんだろーがぁ!」智子――ドコドコドコドコドンドンドン。「私はもう限界だっつーの!」
「智子さん」にわかに叱責の色を帯びる姉の声。「常に余裕を持って優雅たれ。それがお母様のお教えでしたでしょ? それにお口。とても下品ですよ」
「知らねえよ!」爆発する智子の怒り――頭/拳/肩/膝/脚/全身をフルに使ってドアを打撃=ドゴン・バギン・ズドン・バコン・ドギャ。「いいから早く出てこいっつってんだろうがこのクソッタレ!」
「そのクソが垂れなくて困っているんですよー」やれやれこんな下品な妹を持った私はとても不憫ですわと言わんばかりの呆れ声+溜息=嘲笑。「それにクソが垂れそうなのは智子さんのほうじゃなくて? ぷぷぷ」
「だ・か・ら! 早く出てこいっつってんだろうが!」拳をドカンとドアに叩きつける――ふいにお腹が抗議を申し立てるようにぎゅるると鳴る。「あ……もう無理! 本当に限界なんですお姉さま! 本当もう無理! 漏れちゃう!」
「そんなに言うのでしたら」やれやれどうして私の平穏なトイレの時間を邪魔するのか理解できませんわ、という姉の呆れ声。「一階のお父様たちが使っているトイレに行ったらよろしいんじゃなくて?」
「それは絶対にイヤです! お父様たちが使っているトイレを使うくらいなら死んだほうがマシです!」智子――断固拒否/父の尻が乗った便座に座るなんて想像しただけで怖気が走る=必死の懇願。「お姉さまお願いします! 早くそのトイレを譲ってください! お願いします!」お腹が不満を述べるようにぎゅるっと鳴る=大きな声出さないでよ、うんこ漏れちゃうでしょ。
「あらぁ?」姉――楽しげ/嘲笑。「そんなに私が使ったあとのトイレを使いたいのかしらぁ?」
「ええ、そうです! その通りです! 私はお姉さまの使ったあとのトイレを使いたくてしょうがないんです!」智子――涙の懇願/自然と姉に遜る/自分のプライドをクソのように捨てる。「だから! だから私にうんこをさせてください! お姉さまの使ったあとのトイレで智子にうんこさせてください!」お腹――ちょっともう本当に限界なんだから大きな声出さないでって!=ぎゅるるるる。
「あらぁ? そんなに私のことが好きなの?」姉――ますます楽しげ/嗜虐心がそそられる/ちょっと興奮してきた。「それとも私のうんちが好きなのかしらぁ?」
「はい! その通りです!」智子――プライドってなんなの?/うんこをトイレですることより大事なものなの?「私はお姉さまのうんこが大好きなんです! だから私にうんこをさせてください!」お腹――やれやれアナタがそこまで言うんだったらもう少し耐えてみせるわ=ぎゅる。
「違うでしょ?」姉――不出来な妹に優しく教え諭す声音/強者が弱者を弄ぶ愉悦に満ちた声音。「お姉さまのうんちを食べちゃいたいくらい大好き、でしょ?」=リピートアフターミー。
「智子はお姉さまのうんこを食べちゃいたいくらい大好きなんです!」智子――即答/プライドってなんなの?/うんこを食べることより大事なものなの?=絶対服従の精神。「だから卑しい智子にお姉さまのうんこ食べさせてください! お願いします!」お腹――やっぱもう無理! もう漏れちゃうから! 早くうんこさせてよ!=ぎゅるるるるるるるる。
「まあ」姉――感嘆/驚嘆=白々しさを隠すつもりもない楽しげな声。「智子さんがそんな趣味を持っていたなんて私ぜんぜん知りませんでしたわ!」
「そうなんです……」智子――襲いくる便意と腹痛に耐えかねて跪く/手を組んで涙を流しながらドアに額をつけて俯く=神/姉に祈りを捧げる敬虔な信徒の風情。「お願いお姉さま……智子もう限界です…………」お腹――無理! 本当もう無理!=ぎゅるるるるるるるるるる。
「そこまで言うのでしたら仕方がありませんわね」私もそこまで外道じゃないのですよ/智子さんが可愛いからちょっとからかっただけですわ=気まぐれな神の声。「私のうんちを食べさせてあげますわ――」
「ありがとうございますお姉さま!」智子――神に跪く/涙を流して神を讃える。
 だが、智子は不意に違和感を覚えた――姉が立ち上がった様子/水洗便所の流れる音=なし=待て、そもそもコイツはトイレから出るなんて一言も言ってねえ=まさか、コイツまだ私で遊ぶ気だ!
「――でもごめんなさいねえ智子さん」姉――こみ上げる笑い/胸を満たす快感=あーん、智子さんを奴隷にしたーい!「まだ、うんちがでてこないの。今しばらくそこで待っていてくださいね。うんち大好き智子ちゃん♪」
「ふざんけんなよ……」智子――怒鳴る気力なし/拳を振り上げる根性なし=人身御供として神の供物として捧げられることが決定したかのような絶望感と虚無感に満たされる。「……もう無理だ」
 大いなる神の御意志によってその身に降りかかる難行/うんこを漏らすことを智子が覚悟した時だった――。
 ドアがゆっくりと開いて智子の額が押し返された。見上げるとわずかに開いたドアの隙間から姉が微笑みを湛えて見下ろしていた。
「お姉さま……」智子――お腹を刺激しないようのろのろ立ち上がる/ドアを開き燦然と輝く希望という名の便器に向かって一歩踏み出す/その中途で祝福するように笑む姉=「邪魔」
 智子は姉を突き飛ばし、急いでパンツごとパジャマを下すと万感の思いで便器に坐した。
 そしてようやく智子の肛門より生まれいずる茶色いアレが世界から祝福を受けてその産声を上げた=すげえ臭い。
 智子はほっと安堵の息を吐いてから姉をきっと睨み据えた。
「死ね! 死ね! 死ね! 本当今日という今日は我慢ならねえ! 死ね! このクソババア覚えてろよ! お前いつかぜってー死ぬほど後悔して私に泣いて縋るような目にあわせてやるからな! 血反吐撒き散らしてしてクソに塗れて生まれてきたこと後悔させてやるからな! 死ね! つーかいつまでそこにいんだよ! 死ねよ! 早く死ね! バーカバーカ! うんこ野郎! 死ね!」
「うふふ、ごゆっくりー」
 姉は片手で鼻をつまみもう一方の手をひらひら振るとようやくドアを閉めて出て行った。
 それを見ても智子はしばらくの間、口を極めて姉を罵っていた。そうして便意が治まるとともにようやく人心地がついた気分になった。
「くそ、死ねよあのクソババア。死ね」
 そしてぶつぶつと姉への飽くなき罵詈雑言を呟きながら手を横に伸ばし――異変に気付いた。
 からからと空虚な音を立てて回るローラー/トイレットペーパー=なし。
 さっと立ち上がって便器の後ろの壁の収納を開ける/トイレットペーパー=なし。
 一縷の希望に縋って床・壁・天井を無駄に確かめる/トイレットペーパー=依然としてなし。
「紙がねええええええええええええええええええええええええええええ!」
 智子の慟哭が狭いトイレの中に響き渡った。
 お腹がにわかに切なげにくぅと鳴いた=うんこして落ち着いたらお腹すいちゃった。

       

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