文芸音楽アンソロジー
Mr.children、スピッツ。この二つに並ぶはずだったバンドを知っているか? on 俺のリアル高校時代
二千を刻む一つ前の一九九九年のことだった。
高校生だった俺もその他、恋愛やスポーツに青春を注ぐ学生達と同じく、音楽にハマっていた。
クラスのファンキーなやつらは、Xとか聖飢魔II とかオアシスとか、まあそんなところのロックバンド、メタルバンドに傾倒していて、見る分にも話を聞く分にも痛々しく感じた。
草を食んで生きている、今で言う草食動物的存在であった俺ら、以下、自分、草野、桜井、さわお(全て仮称)は、クラスで唯一のロキノン厨だった。
ロキノン系、それはROCKIN'ONという音楽雑誌によく載るバンドの総称のことで、ロックバンド好きの奴らは「めめしい」と形容した。確かに、筆頭的存在のMr.childrenやスピッツ、一つ頭の落ちたくるり、ナンバーガール、ロキノン系先駆者のピロウズは、女の子のファンが多かった感じがするし、俺らは実際めめしかった。
そのめめしさと言ったら、トイレで大便もできない、パンツをずりおろして廊下を闊歩するような奴らを見ると、目線を地面に落として歩くレベルだ。どうしてこんな身空に生まれたのだろうか。父親の先走り汁から出でた子供なのだろうか。
昼休み、俺らは埃の臭い空き教室に集まっていた。教室にはメタルバンドの奴らや女子がいる。迂闊なことをすると噂になる。それは避けたかった。その空き教室でいつも音楽の話や、音楽の話、とくに音楽の話をしていた。ホウキでバンドの真似なんかしていた。俺はちりとりを使ったドラムスだった。
「おおい、さわおがファックマンにカツアゲされたぞ!」
ファックマンとは、偏差値の五〇を下回ったこの学校の癌というか、そもそもそういった人間を収容する場所という存在証明というか、人を見る度に「ファック」か「ファックオフ」と呟く学校一の悪のことだった。俺たちの見える範囲では、誰に対しても「ファック」と言っていた。
上級生にもそんな下衆な言葉使いをするせいで、修羅の学校生活を送っているようで、いつもどこか体の部位を腫らすか、汚すか、挫傷していた。教師もクラスメイトも彼をゴミクズのように扱っていたが、俺たちは「ああ、場面性緊張症なんだろうな」と感づいていた。第一俺らも、多少なりそういう症状があり、それを自覚していた。
「何円カツアゲされたんだよ。来月のミスチルのライブいけるか? つーか、最新アルバム1/42買う金あんのかよ」と草野。
「一万円……。帰りに新宿タワレコに行ってスピッツの短冊買いにいこうと思ってたんだ」
「なんでCDに一万円なんだよ、バッカだな~……」
「……はぁ」
「まあ、モーニング娘の真夏の光線でも聞けよ」
「最高にアレだな」
さわおと草野が調子よく話しているときに、桜井が水をさした。桜井はメンバーの中でも一番物静かだった。
「あのさ……僕、……見つけたんだ」
「何を」
「ミスチルやスピッツの次に来るバンドを」
「ええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええ」
一同は驚愕した。
「その名も『SMILE』だ、よ。そのボーカルの浅田信一、っていうのが、こう、低音なんだな、破鐘を、鳴らしたよう、ような、声が心に響くんだ」
「SMILE? 聞いたことあるぞ。俺らが小学生の頃に、明日の少年っていうのがヒットしたっきりじゃなかったか? 俺のカーチャンがそのCD持ってるぞ」草野が言う。
「うん。途中で、音楽の方向転換、したんだ。でも、最近になって、また、曲がスマッシュヒットするようになってきたんだ」
「本当かよ。浅田信一って言ったら、こう、ウドスズキみたいにさ、う~~って、低い声が特徴的な奴だろ? スピッツやミスチルの、もうそりゃイノセントワールドとかロビンソンとか、高音の歌い方と対極じゃねえか」
「最近、音楽番組を見たら、SMILE、が再評価、されてたよ。これから、くる、って」
全員でSMILEのことについて話し合った。いつもは音楽性の違いによってまとまらないはずの会話が、すんなりと一本の筋を通るかのように、まとまった。
「じゃあ図書室のマックで調べようぜ。パソコン使えるの、あそこだけだろ」
俺の鶴の一声に一同は賛成した。
図書室に辿りついたとき俺たちは異変に気づいた。図書室がやけに静かだ。いや、図書室は静かであるべき場所なのだが、人の気すら感じなかった。桜井が図書室の門扉に取り付けられた小窓を覗いた。「誰もいないぞ?閉館なのか?」
草野が
とりあえず、ミスチル、スピッツ、浅田信一となるはずだった浅田の歌を聴け
転換前
クラゲ
http://www.youtube.com/watch?v=MNQtSN189dM
転換後
夜行バス
http://www.youtube.com/watch?v=ddovbf6ptvE
疲れた。