『バター犬』
「ねぇ、佐渡君。バター犬って知ってる?」
「知りません」
「あら、素っ気ない答えね」
ひんやりと冷たい鉄棒が床から伸びていて、俺はそこへ全裸でくくりつけられていた。
目の前に、ボンデージ姿の魅棲戸先生が足組みをして愉快そうに笑いかけている。
「女性器にバターを塗り、犬に舐めさせ、マスターベーションに使うという行為を『バター犬』っていうのよ。でも実際そんな事をやったら感染症の危険もあるし、何より犬に餌をやった事のある人間なら分かるでしょうけど、手づから餌をやるのは慣れないと噛みつかれる恐れもあるので危険です。女性器で餌をやるなんて、下手をすれば大怪我をしかねません」
俺が何も言わずにいると、先生の奴隷である黒スーツ男三人が、俺の縄を解き、その隣にあった拘束台へと誘う。その拘束台は、まるでF1カーの運転席のように低い台座になっており、そこに俺は両手足をくくりつけられる。
「でも気になるよね? 犬の舌ってぬめぬめしていて手触りも良いし、猫の舌みたいにざらざらしてないからマスターベーションには向いていると思うの。ちなみに、犬の舌と人間の舌は手触りだけなら割と近いのよ」
カツ、カツ、カツとヒールを響かせ、先生が拘束台へと近づき、俺の目の前にボンデージに包まれた股間を押しつけてきた。
むぐっと押さえつけられ、息苦しくなる。ボンデージのエナメル皮越しだが、蒸れた女性器の匂いが漏れ、俺はそれを必死に嗅ぎ取ろうとした。先生が何をやろうとしているのかを察して、俺は股間を熱くたぎらせる。
「そういう訳で、佐渡君に舐め犬になってもらおうかと思います」
いやあぁっほぉぉい!
「今夜の責めを耐え抜いたご褒美ではあるけど、これはご奉仕でもあるのよ。しっかり舐め取りなさい」
「は、はい!」
これはご奉仕である。それを忘れてはいけない。俺は元気よく答えた。
魅棲戸先生がボンデージの股間部分だけをずらして、女性器を露わにしてきた。
初めて見る女性器。それはぬらぬらと動く海底の軟体動物のようにも見え、実にグロテスクだった。膣の部分が僅かに濡れて光っている。鼻を近づけると、アンモニア臭、おしっこの臭いと仄かに生臭いすっぱい香りが漂ってきた。なんて芳しいんだろう。
俺は十分に臭いを嗅いでから、むしゃぶりついた。
「はぁ… はぁ…」
強烈な臭気が直に鼻をつき、脳の芯がとろけそうだった。魅棲戸先生の愛液は甘かった。
「あらあら、そんなに必死に舐めちゃって」
魅棲戸先生のあそこは、最初は何だか腐ったチーズみたいなきつい匂いがした。俺は童貞だから女性器がどういう匂いなのか知らない。だから普通なのかどうなのか知らないんだけど、これって性病とかじゃないのかな? それとも単に不潔なだけなのだろうか。でもそれが何だか興奮するのだ。この上なく芳しいものに思えてくる。必死に舐めすぎたからだろう、比喩じゃなく舌はびりびりと痺れてきた。
ボンデージの股間の部分だけを手で引き延ばし、女性器を丸見えにさせた魅棲戸先生は、とても卑猥な姿なのに、ちっとも恥ずかしがっている様子は見せない。だが、その頬が仄かに上気しているのが分かった。おぉ、この魅棲戸先生でも感じる事があるのか。俺の事ばかり責めつけ、自分はちっとも「こんなの何でもないわよ」という顔をしているから不感症なのかと思ったけど。
でも、魅棲戸先生は徐々に顔を赤らめている。
あぁ、ただでさえ冷たく美しい先生が、顔を紅潮させて感じているだなんて。
それに興奮し、俺は益々股間をたぎらせていた。
「はぁ……ん」
魅棲戸先生が快感の声を漏らし、俺の上で焦れったそうに体をくねらせている。
「そこじゃない! そう、そっち……」
先生は、俺の顔を掴んで、舌で舐め取る場所を指定してくる。そうか、ここが感じるのか!
透明な液体が、先生の股間から溢れ出てきていた。陰毛を濡れそぼらせ、俺の顔もびちょびちょにしてしまう。だが、構わず俺は舐め続けた。
先生が指定してきた場所は小さな突起が見える。クリトリスというのか、ここが。そこを舌で転がし、鼻で膣の入り口をぐりぐりとなすりつける。
「あぁ…! くぅ…! なんて節操無しな犬なんだろうねぇ。行儀が悪いったらありゃしない」
そんな強がり言ってるけど、本当は感じているんだろう? どっちが淫乱な犬だよ。うへへ。
もう三十分は経っただろうか。ずっと舐め続けてきたが、次第に顎が疲れ始めていた。だが、魅棲戸先生は一向に飽き足らない様子で、「もっとよ、もっと!」と、俺の頭を鷲掴みにして、舐めるのを止めさせてくれない。
(ま、まだ続けるのか……)
両手足は拘束されているし、ずっと魅棲戸先生は股間を押しつけてくるので、休む事は許されない。息苦しいし、顎は疲れたし、いい加減もう飽きてきた。でも、魅棲戸先生は許してくれない。
そう思って舐める勢いが弱まったところ……。
突如、魅棲戸先生が、俺の腹をビシィッ!と叩いてきた! い、痛い!
「こののろまな犬め。休もうとするんじゃないよ!」
バシィ! ビシィ!
悲鳴を上げようとするが、それも許されない。魅棲戸先生の股間が押し付けられて、声も出ない。
息苦しさと、体の痛みと、顔をべちゃべちゃにする先生の愛液。鼻の穴にまで入り込んでくる愛液で、むせかえってしまう。
もう、舐め取る気力はまったく残っていない……。
「ぜぇ、ぜぇ……」
ようやく解放された俺は、もう息も絶え絶えで、ぶるぶると体を震わせていた。怖い。女性器怖い。もう見たくもない。
「犬の方がましなんじゃない? だらしないわねぇ」
魅棲戸先生が哄笑する。
いや、犬にこれやらせるのは動物虐待ですよ、先生……。
完