誰の声も無の向こう
盗賊kical
「うわああああああああああああああ」
がんがんがん
俺の剣が宝箱をこじ開けた。中には金貨財宝が山のごとくあった。
「これでようやく助かるんだ、これでもういいんだ」
俺は盗賊だった。お宝を目指して突っ走ってきたのだった
これがとてもいい宝石なのはわかるのでこれでもう安心のはずだ
俺は疲れていたので宝箱の中に入って眠った。
「くうくう」
ぴっぴろりいいいいいん
体力がマックスになった
俺は宝箱の下に車輪をつけてリモコンで操作した
これで歩かなくてもいいのだ
「あっあそこにいるのは!」
そこにはゾンビがたくさんいた
俺を仲間はずれにした盗賊ギルドの成れの果てだった
連中は俺の盗賊技術にまるで聞く耳を持たず、それどころか盗賊稼業のことも馬鹿にしていたので俺は大嫌いだった。自分たちも盗賊稼業で喰っているくせに、あれやこれやと理屈をつけて言い訳するのだ。盗みは盗みだ。そこから目を切ってこの道で商売している連中を俺は反吐が出る思いでいつも見ていたのだがやつらにもとうとう終わりが来たというわけだ。ゾンビになったいま、やつらが理屈をこねていた未来などはすべて消え去り、生きている俺が正義で死んだやつらが惰弱に落ちた。雑魚どもめ。
俺は魔法銃を取り出してゾンビどもにファイアーの魔法弾を撃った。
「うぎゃああああ」
自分たちにはもっと何か別の未来があるはずだと思っていた連中のなきがらが燃え上がる。俺はけたけたと笑った
「ざまあみろ! ばーか!」
俺は宝箱トロッコでゾンビどもを踏み砕きながら迷宮を進んだ。
「おなかがすいたな! サンドイッチを食べよう」
俺は道具袋の中からやさしいサンドイッチを取り出してもぐもぐ食べた。あたたかい気持ちになってしあわせになった
「よかったよかった」
魔法銃で魔物どもをやっつけながら、俺はまどろんだ
この宝石で盗賊稼業ともおさらばだ
俺はどこか静かな村で平和に暮らすのだ
もう城下町のうざったい喧騒も、騎士連中のいけ好かないエリート意識にもうんざりだ
死んだらいいのに
俺はぶつぶつ言いながらサンドイッチを平らげた。
そして出てくる魔物たちを粉みじんにしながら進んだ。
「しずかだ・・・」
それは俺の望んだものだった
静かにしていて欲しい時にゴチャゴチャうるさい馬鹿がいない世界
排気ガスもない、ただ静かで、静かで・・・・
「人間は増えすぎなんだな、うん。ちょっと減るぐらいがいいんだ!」
そう呟いてすぐに俺は神様に懇願した
「いや俺だけは助けてください 俺だけは」
「おっけー」
天の声はいつもやさしい
俺は感謝の祈りを捧げて先へ進んだ。途中にある宝箱はすべて木の枝類を使ってなんとかした。俺の引退資金はとてもたくさんになった
「頑張った甲斐があったなあ」
俺の盗賊稼業は十年近くあった。町民どもはすぐに街の中でぬくぬく暮らし始めるが育ちが悪い俺には仕事なんてなかった。盗賊になるしかなかった。俺が盗賊をやめて清く生きると誓っても誰も俺のことを褒めてもくれなければメシも与えてくれないのだ。そんな道徳も倫理もくそくらえだ。俺は生きるために盗んだし、それは俺にとっては正しかった。これからもきっと正しい
などと走馬灯まがいの回想を嗜んでいると迷宮が終わった
俺は明るい外へ出ておいしい空気をたくさん吸った!
「うーん、おいしいなあ!」
「いたぞー!」
見ると親の金でぬくぬくと生きている町民どもが槍を持って俺を殺しにきているところだった
「このクズめ! うまれぞこない!」
「きっと生まれがわるいんだ!」
「人間に化けたけだものだ!」
なんてことを言うのだろう。おまえらだってけだものだろうに おまえらのどこが天使だ? おれにパンひときれも分けてくれなかったのはそろいもそろっておまえらだ。死ね。死にやがれ
俺の心の声が天に届いた
凄まじい稲光と雷鳴が轟き渡って、町民たちが焦げ焦げになった
俺は天国にむかって感謝した
「ありがとう! 神様は俺が正しいってわかってくれているんですね! やったあ!」
恵みの雨が降り始めた。俺はそれをごくごく飲んだ。
道具のことも知りもせずに道具屋を世襲したクズと、ベッドシーツの整え方もしらない宿屋のせがれのなきがらに腰をおろして、俺は叫んだ。
「敵が死ぬのって超気持ちいい! みんなしんじゃえ!」
神様は俺を殺さなかった。