誰の声も無の向こう
砲撃
目覚めると戦車の中だった。俺はとりあえずハンドルを握ってぶいーんした。ゴリゴリと街の舗装などなどをぶち抜いてべりべりと進む。アスファルトがひどいことになった
俺の薬指がビリビリし始めた。どうしたんだろう。ビリビリする、ハンドルを握る薬指ビリビリ。俺は手をくしゃくしゃと揉み砕いて、前を向いた。メインカメラに街の光景がある。誰もいない。誰もいない。
誰もいない。
俺は進む。
適当なビルに砲撃。ずっどおおおおおおおおおおおおおん。ビルが跡形もなく粉砕されて粉みじんになってバラバラになって砂塵が巻き上がって轟音が響き渡ってガラスが降り注いでそれが光を乱反射して俺は晴れていることを知る。雲間からわずかに覗く白い太陽。俺は砲塔を持ち上げて太陽を撃とうとしたが届かなかった。
俺は先へ進む。
寒いので毛布に包まる。おがくずのにおいがする。けもののにおいがする。俺は足をくちゃくちゃとすり合わせながら先へ進む。くちゃくちゃ。
退屈だったので何か面白いゲームはないかと内臓ディスプレイをぽちぽちする。めんどくさいのばっか。俺はイライラした。何にイライラしているのかはわからない。それはきっと画面一体式の車体融合型ハードウェアのアナログスティックがくそくらえだからかもしれなかった。何か面白いゲームはないものだろうか。指が馴染むようなやつ。これがやりたかったのだと思えるようなやつ。ないだろうか。ないのだろうか。
俺は先へ進む。
鳥がぱちぱちと飛んでいった。羽毛がふわふわと加速概念に喧嘩を売りながら落ちてくる。あんな風になりたいと思う。あんな風に自由に何も考えず生きていたい。ただ落ちていく、それもゆっくりと、静かに噛み締めるように生きるなり死ぬなりしたい。少なくともどちらにせよ今のこの空漠よりいくらかマシだ。
俺は先へ進む。
ガンで窓ガラスを片っ端から撃ち抜く。ぱらららららららガシャンガシャンガシャン。楽しい。楽しくて涙が出る。俺は感極まってハンドルを拳で何度も叩いた。何度も。何度も。
先へ進む。
何もない。
どこまでも何もない街があるだけだった。俺は一体何を求めていたのだろう。俺は一体何がしたかったのだろう。何か、何かしなくてはいけないことがあったような気だけがする。そしてその通りに生きられない自分に嫌気が差す。もっと何かあったはずだったのに。もっと何か、もっと……。
先へ進めなどハナからしない。ここにはとっくに何もない……。
何も……。