Neetel Inside ニートノベル
表紙

誰の声も無の向こう
Over Load

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 ぶおーーーーーーーーーーーーんっ!!!!!!!!!!!!!!



 目の前にいきなり敵機が現れた。俺は操縦桿を蹴り込んでシステムをオーバーロードさせて回避させた。重力過負荷が起きて俺の視界が真っ赤になる。俺は怒鳴った。吼えた。頑張らないと。がんばらないといけないのだ。だから敵機をやっつけるのだ。
 アポカリプスの装備からダガーを選択・装備させる。だがいきなり横から爆発があって機体が横倒しになった。モニターにエラーコードが散乱する。俺はそれらをシステムジャックして軒並みぶち殺して機体を立て直した。何をしていたんだっけ。俺は何をしていたんだっけ――そうだ、この戦場から勝って帰ればすべてがよくなるのだ。このマイナスだらけの人生がすべてプラスにひっくり返るのだ。何もかもが上向きになる。だからそれまで闘わなければならないのだ。
 機体を立て直し、マシンガンを乱射。採掘音のような射撃音がして、敵がバラバラになっていく。無人だから何機倒してもいいのだ。俺が戦っているのは機械なのだから。システム上人間をとうとう超えてしまった機械。そいつらに俺たちの方がすごいんだって教えてやるのだ。それが俺のお仕事なのだ。この世において理屈ほど糞喰らえなものはないのだ。俺は勝つ、勝って祖国である宗教国家の神をあがめるのだ。それがいいのだ、やっぱり人間は何かを信じていないと落ち着かないしろくでもないのだ。ああ、くそ、機械ども。俺のラダイト運動を食らえ。壊れろ、壊れろおおおおお!!!!!!
 爆発音。
 戦場がどこにあるのかもわからない。俺は階段をのぼっていた。敵が来るたびにダガーを走らせる。超光子ブレードで俺は敵を残骸へと変換する。バラバラと落ちる金属片。ああ冷たい光が俺の目を打つ。俺の目を、ああ。
 倒れこんだところに紙片があった。本部からの命令だ。敵を倒せ。わかっている。そんなことは。俺はモニターカードを手の中でもてあそびながら一応そのプリントを記録した。すぐに爆発。俺はゴロゴロと転がっていく。金網があった。蹴破る。敵をぶちのめして位置を確保。身内は守る。身内を守るということは国家を守るということだ。それ以外の連中が、身内でないやつがどうなろうと知るか。身内を守るのだ。身内を。たとえ機械たちに心が芽生えかけている可能性があるとしても関係ない。俺は俺が可愛いのだ。俺は俺を守るのだ。
 闘うぞ。どこまでだってやってやる。
 俺の体当たりが扉をぶち破る。マシンガンを連射してくる敵を殴り倒して破壊、落としたマシンガンを奪って転がりながら撃ちまくる。雨のように破壊されていく敵。俺はまた爆風によって吹っ飛ばされた。書物がバラバラと落ちてくる。ダガーナイフが耐久度限界を迎えてへし折れた。闇雲に両腕を振り回して抵抗する。敵の首根っこを引っつかんで別の敵にぶつけてやる。爆発する敵。また爆風。壁に穴が空いて俺はそこから転がりでる。空中。重力の網にかかって引きずり下ろされる。衝撃。俺は立ち上がろうとしたところに上から瓦礫が降ってきた。地盤がぶち抜けて落下。地下施設へと落ちていく。暗い。照明弾を撃って周囲を光の雨で満たす。負けるわけにはいかない。しがみついてくる敵を千切っては投げ千切っては投げ。敵の腰から抜いたハンドガンを片手で連射(ダンダンダンダン!)する。爆発。俺は吹っ飛ばされた。空薬莢があたりに散らばる。敵がよろめいているところに膝蹴りを叩き込んで真っ二つにする。ゼロ距離爆発。俺はいい加減めまいを覚えながら吹っ飛ぶ。みんなはどこにいるんだろう。仲間がほしい。寂しかった。もうこんな戦場に一人でいるのはいやだ。本当にあのプリントアウトは本部からの命令なのか? 違うんじゃないのか? 俺がそうであってほしいと思っているだけでただのどうでもいい張り紙じゃないと一体誰に言えるんだ。俺は、俺はもう限界なのだ、くそ、いつまでこの戦闘は続くのだ。いったいいつになれば俺は名誉勲章をもらって地球連邦議会の末席にこの重たいケツを乗せることができるのだ。もう闘いたくない。搾取する側に回りたい。あれは? あれはなんだ、城じゃないのか。そうだ俺はあそこの城主になるのだ。きっとそうだ。あの城は俺のゴールなのだ。あそこまで辿り着ければ。こんな戦闘も終わるああなにをするんだ爆発爆発爆発おれの城が嗚呼。
 どこだ? ここはどこだ? くそっ、敵が多すぎる。ダガーナイフを二刀出して応戦する。風を孕んだブレードがメタリックプレートをささくれ立たせ俺の機体にまた赤い力の暴風がまともに当たって視界が反転し重力に嫌われて水にボチャン! サウンドソナーが死んだ。
 夜が来る。
 太陽が俺を置き去りにする。いつ沈んでいいと言った? 俺はいい加減嫌気が差していた。俺が昇っていろと言ったら太陽だってそうしていなくてはならないのだ。それを俺を置き去りにして勝手に沈みやがって。ああ畜生、暗い、暗いんだよ、暗いのは駄目なんだ。ああ。
 照明弾を打ち上げる。偽物のあかりが俺の目を焼く。畜生、技術班の連中は馬鹿じゃないのか。明るすぎる。もっとリアリティを求めたらどうなんだ。スタングレネードじゃないんだぞ。これだから参考書を読んで偉くなった連中は毛ほども役に立たないというんだ。実際に戦場に出なければわかることなどあるわけないのだ。戻って議長になれなかったら今いる技術班を皆殺しにして俺が指揮を取ってやる。来年は戦死するやつは半分以下になるだろう。役立たずは死すべし。
 背中から衝撃。まるで俺の心の叫びに呼応したような一撃。役立たずは俺だというのか。だからこんな辺境の戦場へたったひとりで送られたというのか。畜生。畜生、違う、違うのだ! ああくそ誰か助けてくれ。寂しい。寂しいんだ。爆発。この世に愛も情けもありはしない。そうだ医療班、医療班にメンタルデータを送って病院送りにしてもらおう。ここまで追い詰められている兵士も救えないなら俺直々に医療班を職務怠慢でぶっ殺してやる。いいから俺を助けろ、もう限界だ。これ以上は闘えない。メーターがどこもかしこも真っ赤だ。俺は一人なんだ。一人なんだぞ。一個中隊もらって全滅しているやつなど無能もいいところで死んだ方がいいのだ。俺をミロ。俺は一人でヤッテルンダぞ。すごいだろう、すごいのに、ああ、俺の戦績を保存するはずのメモリー回路が焼き切れてる。なんでこんなひどいことを。なんでこんなひどいことをするんだ。畜生なにがなんでも生き残ってやる。死ぬのはてめえらだ。俺は動力回線をメインからサブに切替、そして今度は数本の束に分かれているサブをまとめてイグニッションさせて人為的なオーバーロードを引き起こさせた。覚醒状態になった俺のアポカリプスが毛並みのいいじゅうたんのように広がった敵をエネルギーブラストで粉々にした。俺は地下通路を三角蹴りしながらほとんど機体の慣性に任せて流した。地下美術館に突っ込む。かつての天才たちの模造品をのきなみぶち壊しながら俺は転送装置に辿り着いていた。そこに機体をはめこんで有線接続。ケーブルウィンチが生き残っていたのが奇跡に近い。アポカリプスのオーディナルシステムを軒並み強制シャットダウン。セーフモードに切り替えてなけなしのエネルギーを転送装置にブチ込んだ。蜂の羽音のような起動音。しつこくまとわりついてくる敵の機体を足蹴にしてひたすらにカウントがゼロになるのを待つ。10,9,8,7,6,5,4,3,2,1,……0
 転送。
 何もかもがスパゲティになった転送回線の中で俺はそれが必殺の罠だと気づく。転送装置にも敵味方識別装置をつけておくというのは誰が言い出したのか知らないが近代軍用科学技術戦法の参考書では常識とされているセオリー。ああ、この俺が、そんな初歩的なことに気づかず目先の誘惑に負けてしまった。畜生、あんなに闘ったのに。あんなに頑張ったのに誰も俺のことを知らずに俺はこのまま死んでいくのか。畜生、あんなに頑張ったのに報われないなんてことがあるのか。誰にもできないことをしたのに。誰にもマネできないインポッシビリティのあるミッションを俺はここまでやり遂げたのに。ああ機体が溶けていく。俺の体と混ざっていく。俺はどこへいくんだ、どうなるんだ、やめて、やめてくれ。もう助からないとわかっているこの俺をじわじわと千切っていくなんて人間のすることじゃねえよ。せめて安らかに。だが俺は助かった。一瞬早く爆発した俺のアポカリプスのエネルギーが次元に大穴を開けて俺はそこから放り出されたのだ。俺は茂みに落ちた。風が吹いていた。高原だ。そばで鹿のような生き物が草を食んでいる。俺は呆然としたまま、空を見上げた。
 陽が沈むまでには、退屈するほど時間があり余っているらしかった。目を閉じる。息を吐く。もう何も考えたくない。

       

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