誰の声も無の向こう
メメリルを想って
「う、ううーん」
目が覚めるとそこは洞窟だった。どうやら気を失っていたらしい・・・
謎のMMORPGに囚われて一ヶ月・・・どうすればゲームをクリアできるのかもわからずに俺はこの世界を彷徨っていた・・・
「ふっ、俺ともあろうものがあんな初歩的なトラップに引っかかるとはな・・」
ひとりごちて頭を振り、俺は立ち上がった。装備を確認する。
「ちっ・・・ドラグネスの剣が折れちまってやがる・・」
破損した装備を破棄して予備の剣を装備する。
「ともかくここから出ないと・・」
俺は周囲を見回し、モンスターがポップしていないことを確認してから歩き出した。
「こんなところでグズグズしているわけにはいかないんだ・・・俺は・・・」
一刻も早くこのゲームを外に出るためにクリアしないと・・・外では俺の恋人が待っているんだ・・・彼女をこれ以上悲しませるわけにはいかない・・・
俺は曲がり道を曲がってダンジョンを捜索した。手頃なアイテムをトレジャーボックスから回収していく。途中何匹か出くわしたモンスターはスキルを使って退治した。敵は多い・・・この世界では特に。
俺は剣の腕前はぴか一だ。そこらの冒険者にはヒケをとらない・・・
洞窟を進む・・・
すると人の声がした。
「助けて!」
助けなくては。俺は駆け出した。
「どうしたんだ!」
植物モンスターに足を取られた少女がいた。俺はそれを剣で切って捨てた。
「大丈夫かい?」
「ありがとう・・・トテルの草を取りにきたらこんな目に・・・」
「薬草の材料だね。誰か町で怪我でも?」
「そうなの」
「じゃあ俺と一緒に取りに行こう!」
「本当!? うれしい!!」
「君の名前は?」
「メメリル」
「メメリルか・・・いい名前だ」
「あなたは?」
「スメイク」
「スメイク・・・いい名前ね」
「ありがとう」
俺たちは一緒に洞窟を進んだ。メメリルは魔法使いだった。
「君のスキルのおかげでずいぶん楽になったよ・・・ありがとう」
「いいのよ、気にしないで。これぐらい当然だわ」
「うーん、君のようなすばらしいプレイヤーがまだ在野にいたなんて」
「世界は広いということよ」
そうこうしているうちにボスモンスターに出くわした。俺たちはぱっと散会する。こういうときは一緒にいるよりも散らばった方がいいのだ。
「攻撃は各自回避していくように! 君は魔法使いだから体力に気をつけて!」
「わかったわ!」
俺たちはバラバラの方角からボスモンス(死神スタイルだった)を攻撃した。爆発炎がどかどかとあがる。
「くっそー、固いボスだ」
「気をつけて、何かする気よ」
「なんだって!?」
見ると死神が鎌を振りかぶっているところだった
「あぶないっ」
「え」
俺をかばってメメリルが死んだ。
「メメリル! メメリルーっ!」
ボスモンスターがけたけたと笑う。俺は涙を拭って立ち上がった。
「貴様だけは許さん!必殺技を隠していたのがあだになってしまった・・・だがせめてかたきだけでもとる! 喰らえ爆念昇高波ーっ!!!!!!!!!!!!」
ずっどおおおおおおん
俺の剣から迸った大いなる力で死神が蒸発した。俺は剣についた血を払って鞘へとおさめる。
「フルレンジアタック・特殊スキル爆念昇高波を受けたものは・・・死ぬ」
俺はメメリルのなきがらに忍び寄った。肩を抱き上げてその額に自分の額をくっつけて泣き叫ぶ
「ちくしょうこんな世界があるから・・・こんなくそったれな世界があるからメメリルは死んだ! くそ! くそーっ!」
俺の悲痛な叫びが洞窟にこだまする。
「俺は許さないぞ、こんな世界を作ったやつは! 必ずゲームをクリアしてやる! クリアしてやるからな!!!!!」
「その心意気です、勇者スメイク」
「だれだ!?」
「私はこのゲームの神」
「神だって!? ゲームマスターのことか!!!!! ぶっ殺してやる!!!!」
「落ち着きなさい。私は精霊なのです」
「意味がわからない」
「それも人の身では仕方ないこと」
「とにかく出て来い! 俺の特殊スキルで灰燼に帰してやる」
「それはできません。いいですか勇者スメイク。あなたはこの世界をクリアする運命にあるのです」
「世界をクリア? ・・・わけがわかんぞ!」
「何を言っているかわかりませんが落ち着きなさい。死にたいのですか」
「くっ、卑怯な」
「この世界はくそったれです。ですからくそったれなあなたが勇者なのです」
「暴言ばかりいいやがって」
「ここに伝説の剣フェニクシオンがあります。さあ手に取るのです。そして倒して・・・魔王を・・」
「魔王!? どういうことだ!! 答えろ女神よ!! くっそーなんてアフターケアのできていない神なんだ! 死ね!」
俺はメメリルのなきがらに頬ずりした。
「君さえ生きていてくれたら他にはなにもいらなかったのに・・・くそー!」
俺はフェニクシオンを片手にいつまでも泣き叫んでいた。俺の闘いは終わらない・・・この胸の疼きがおさまるまで・・・・
俺は洞窟を出た。心の疼きとメメリルのなきがらを置き去りにして。
マチルの町に着くとそこは港町だった。俺はふらふらとよろけながら歩いて酒場に寄った。そこのマスターに言った。
「町を出たいんだ・・・」
「町を? このあたりは治安もいいのに・・だが仕方ないな、いい船を紹介してやろう」
「助かるよ」
俺は酒場を出ようとした。するとガタイのいい男たちに止められた。
「待てよ、あんたスメイクだろう」
「なぜ知ってる」
「あんたみたいな凄腕を町から出すわけにはいかないな」
「どいてくれ。君たちには決してわからない悲しみのロンドが俺の中でフォルテッシモなんだ・・・」
「何を言っているんだ!?」
「どけって言ってるんだーっ!」
俺はフェニキシオンを抜いた。その余波で男たちがひっくり返る。
「ひいいいいい命ばかりはお助けを・・・」
「最初からそういえばいいんだ・・・」
俺はフェニキシオンを鞘に戻して涙を拭った。
「メメリル・・・俺は生きていくよ・・君の事を忘れて・・・」
俺は酒場を出て、船着場へといった。
「すみません、船に乗りたいんですが」
「あーだめだだめだ!」
船長らしき恰幅のいい男が手を振って断ってきた。
「最近は海に魔物が出るらしくてな。出航は無期限延期だ!」
「そんな」
「貴様も命が惜しければ雑魚でも狩って暮らすのだな! がははははは」
俺はフェニキシオンを抜こうとしてやめた。そんなことをしてもメメリルは喜ばない
「わかりました。さようなら」
俺は身を投げた。
「お、おい兄ちゃん! 何もそこまで・・・」
「別に死ぬつもりじゃないさ・・・船を出してくれないなら泳いでいくまで」
「そこまでの覚悟とは・・・あいわかった! 兄ちゃん乗りな! 隣の大陸のフェスティバリガルまで直通で渡してやらあ!」
「ありがとう!」
俺は船に引き上げられた。水に濡れて震える身体を抱きしめて、メメリルのぬくもりを思い出しながら、水上の人となった・・・・
その果てにもっと恐ろしい悪夢が待っているともしらずに・・・
俺は水の上の人になった。船室で大人しく休んでいると何か得たいの知れぬ音が聞こえてきた
「どうしたんだ?」
船員に聞いてみると顔を青くして答えた。
「海の悪魔が出たんだ」
「悪魔?」
「ああ、イカに似たモンスターさ。くそう、俺の人生もここまでか」
船員は走り去っていった
俺は剣を片手に追いかけた
甲板に出るとそこには大きなイカが!
「船長! 大丈夫かあああああ」
「俺の人生はもう駄目だ。お前が後をついでくれ」
「船長、船長ー!」
船長はイカに飲み込まれた。俺は歯軋りして船員たちに怒鳴る
「みんな、船長の死を無駄にするな! 面舵いっぱい!」
「無理だ!」
船員の一人が叫んだ
「シャフトがおれてしまって・・」
「そんな」
「もう駄目だ、おしまいなんだ」
俺はその場にヒザをついた。
「いや・・・ここで諦めるわけにはいかない・・俺には待ってる人がいるんだ!」
俺は剣を持って切りかかった。触手を一本二本と切り捨てていく。
「邪魔だーっ!!!!!!!!!!!!」
切っては返し返しては切る!
だがそんな俺にも不調の波が押し寄せてきた。くそ・・・
だが愚痴を言っても仕方ない。俺は剣を構えた。
「こんなことをいつまでも繰り返してちゃいけないんだ・・・こんなことをー!」
俺の思いが剣に宿る!!!!!!
「アルティメットドライバー!!!!!!!!!」
ずっどおおおおおおおん
俺はイカを倒した。
その場にがくりとヒザをつく
「ぜえ・・ぜえ」
「やったあ! 勇者様が倒してくれたぞ!」
「さすが勇者様だ!!!!!!!! 勇者様ばんざーい!!!!!! ばざーい!!!!!!」
俺は胴上げされた。俺は嫌がった。
「やめてくれ・・・つかれてるんだ・・・うう」
「勇者様?」
「勇者様はお疲れだ。船室へはこべー!」
俺はぐったりと倒れこんだ。
「うう・・・」
「大丈夫ですか? 必殺技がつかれたんですか?」
「持病なんだ・・・嫌なことがあるとすぐ気分がわるくなって・・・」
「そんな・・そんな悲しい運命を背負っていたなんて・・・」
「もういいからどっかいってくれ・・・」
俺は船室で横になった。だが退屈した船員たちがひっきりなしに襲い掛かってくる。
「勇者様ポーカーしましょう」
「勇者様旅の話を聞かせてください」
「勇者様」
「勇者様」
「勇者様」
「うるさい・・・」
俺は耳をおさえた。いつのまにか俺は眠ってしまった
目が覚めるともう港についていた。俺は港を出た。
「おい」
「え?」
いきなりがつんと殴られた。俺はその場にどうっとたおれこんだ。
「うう」
「へっ、いい剣もってやがるな! もらっていくぜ」
「ま、待ってくれそれは俺の大切な剣なんだ」
「いいじゃないか。命あってのものだねだろ」
男たちはそのままいってしまった。俺はその場にうずくまったまま動けなかった。倦怠が・・・・生ぬるい倦怠が俺を包んでいた・・・頭がじんじんする・・・うう、気分が悪い。
この気分の悪さをなんとかしてどうにかしなければ・・・・
俺は酒場に入った。酒を煽るように飲んだ。
「悩み多き青年とはおぬしのことか」
「おばあさん? 俺に何か用ですか」
「世の中がくそったれなのじゃろう・・・わしの力でおぬしに幸福感を与えてやろう」
「ほんとうですか! ぜひお願いします!」
「うむ。ラリパッパー!」
おばあさんがそう唱えると俺は気分爽快になった。
「うわあ! 気分爽快だ! すごいですねおばあさん」
「さあ、その気分のまま魔王を倒しにいくがいい」
「はい!」
俺は新しい剣をおばあさんにもらって、港町を出た。
俺は町を出た。孤独と共に。
剣を抱いて町から町へと放浪する日々。
それもすべてはもう一度彼女へ続く道を切り開くため・・・
俺はそんなとき、一人のギルドメンバーとであった。彼はトヨトムといって、ハンターだった。俺は彼と意気投合し、トヨトムとパーティを組んだ。
トヨトムの腕はすごかった。一撃必中とは彼のためにある言葉だった。凄い人だった・・あの事件があるまでは
俺とトヨトムはレアモンスターに出会ってしまったのだ。パーティは俺を残して全滅。俺はやる気をなくした。
剣だけがまた俺の友となった。
そうこうしているうちにゲームクリアクエストが発見されたと聞いた。俺はそこへ駆けつけた。中央都市カエサリウムにはプレイヤーが沢山集まっていた。俺はその中の一人として魔王へ挑んだ。
魔王はつよかった・・
俺はぼろぼろになりながらも闘った。どんどん倒れていく味方。俺は悲しみに明け暮れた。そしてついに魔王に剣を刺したとき、それが折れた。
俺は絶望しなかった。とっさに魔王に炎の魔法を叩きこんだ。俺は勝った。クリアしたのだ。
そして俺はゲームから出た。だがそこは変わり果てた世界だった・・・
モンスターがあふれ出していたのだ。あのゲームはこの世とゲームをつなげてしまう禁断のゲームだったのだ
俺は走った 仲間を求めて
そしてまた仲間を作り、敵を狩り始めた。剣の腕は現実でも一流になっていた。
都市から都市へとモンスターを狩って歩く日々。
一年もするとゲーム世界と現実世界に相違がなくなってしまっていた。俺は遥かなる大地を歩み続けた。
ある町、ココネオの町へついたときのこと。その町は骸骨モンスターに囲まれていたので、俺が助けたのだ。俺は感謝され、町長になりかけたが辞退した。
惜しまれつつも旅へ戻ろうとした時に敵襲があった。とうぞく団だった。俺は負けた。向こうには魔王を共に倒したネクラサスがいたのだ。やつは仮面をつけていたが、俺の一撃で仮面が割れてその驚くべき事実が明るみになったのだ。
俺はココネオを去り、ネクラサスに復讐を誓った。俺の旅は終わらない。
そうして・・・時は過ぎ。
俺は魔王になっていた。ネクラサスは今では腹心の部下だ。かつての仲間はほとんど俺の城下にいる。
俺はあらん限りの災厄をばら撒いた。この世界を闇につつまらせておくこと。それが俺の使命なんだ。
そう、メメリオが言っているから・・・・
「メメルリを想って 完」