誰の声も無の向こう
廃位王
もちもち山のたんこぶ、という話がある。
どういう話かは知らない。
だからここでは俺の話をしようと思う。
俺は英雄だ。リキナス大陸の覇者である。
戦争を終わらせて平和な時代を取り戻したのだ。
だがそれにも疲れてしまった。
王族の暮らしはよくわからない。
だから廃位して好きなように生きることにした。
考えたり、楽しんだり、逆に疲れる。
だから平和を望んだわけだし。
俺は国を捨てた。
国を捨ててから俺はあっちこっちを旅して歩いた。
いい風景の多い国。水に茂った村。
いろいろあった。
そこで俺はならずものから街を護ったりして英雄になった。
水は綺麗だ。だから魔法にも水を使う。
愚かなことだ。水をそんなことに使ってはいけない。
もっと安全に使うべきだ。
だから俺は滝に打たれようと思った。
ところがどっこい、俺が見つけた滝はお湯しか出なくて、修行にはならなかった。
いいか、それでも。
俺の旅はつづく。
剣とは古くなるものだ。だから新しいのを手に入れるときは、盗賊いじめがおすすめだ。
盗賊が持っている剣を奪って新しくするのだ。
これがけっこう意外と便利で、俺は愛剣をよく乗り換える。
それにしても、握りの悪い剣もあるもんだ。
なんのために俺は冒険していたのだったか。
なにも思い出せなくなっている。だがそれもまた正義。
疲れたときは休まなくっちゃ。
俺はマルタナス王国の門戸を開いた。
そこでは平和な民が生活を謳歌していた。
そうとも。平和が一番。争いはよくない。
俺はナギルマシアという剣を質に入れて路銀を作り、それでぽくぽくまんじゅうを食べながら歩いた。
まんじゅうはいい。文明の限界点だ。
俺は眠気をこらえながら街を歩き回った。
そこは平和でもうなんの争いも必要とはされていない。
俺は床屋へいって顔をそってもらったあと、外へ出た。
とても疲れている。
なぜだろう。それは答えが解決されないからだ。
答えさえ解決されれば、世界はいくらでも平和になる。
俺は廃位した。もう王子じゃないのだ。
だから国の未来なんて考えなくていい。
それが一番いいことだって思ったんだ。
だから、この眠気は俺を救うのだろう。
ぶっ倒れるまで戦ったところで民は救えない。
民を救うもの。
それは流れだ。
その場その場をどうしのいでいくか。相手の国にどうへつらっていくか。
それが一番大事なことだ。プライドなんてゴミだ。
そんなものいいんだ。それよりも俺が幸せになることのほうが大事。
俺は王子だったから、自分が幸せになることは義務なのだと教育されている。
まずは俺が幸せにならねば。
そこで俺は平和に暮らすのだ。めでたしめでたしを目指すのだ。
どこまでいっても闘いの日々。
そんなものは、もう終わった。
俺は静かに暮らすのだ。どこまでいっても安らぎの国で。
俺は拒否する。闘うことを拒否する。
もういやなのだ。俺は廃位したのだ。だから戦争へはいかない。
闘えば苦しい。そんなものは追いかけたって仕方がない。
それよりも平和だ。パンと水だ。それこそが正しいことなのだ。
まぶたの上のたんこぶのような政略陰謀はうんざりだ。
そんなものはゴミ箱へぽいだ。それでいいのだ。
魔剣ニャルグリャンシスのように。
そう、俺は廃位したのだ。
だからこれで、いいんだ。