熱い熱い、日差しがコンクリートに溶けてゆく。
黒く淀んだ空気にセミの鳴き声はどうしたって不似合いで、ふと笑みがこぼれるくらい気が紛れてしまう。ゆるんだ頬をつねる。
お通夜で誰かが言った、天涯孤独という言葉を辞書で引いた。ああ、なるほど、とつぐみは思った。
祖母を亡くしたこと自体は、それほど悲しんでいないようだった。もちろん嬉しいわけでもないだろうが、結構どうでもよかったのだろう。ただきっと、あんまり平然としているのは不自然なんだろうと幼心にも感じ、必死で悲しいフリをしている。
自分を見下ろす、周囲の大人たちの視線がつぐみはたまらなく嫌だった。腹立たしさというより、いわれのない恥ずかしさ。みんなで可哀想だとかこの先どうするだとか言い合ってるのだろうかと思うだけで、その場から逃げだしたくなっていた。まるで動物園の見世物のようだと、ニュースでやっていた痩せこけた動物のことがふと頭をよぎるのだ。
顔を下げて、目をつむる。寝てしまわないようにだけ気をつけた、小学五年生の夏。
馬、鹿、豚。 第一話
つぐみの引き取り先はなかなか決まらなかった。元々親戚は少なかったし、いきなり子供を引き取るというのは大変なんだろう。でも知らない人といきなり一緒に暮らすなんてこっちだって願い下げだし、かといって施設も嫌だな。ていうか、一応親戚はいるのに天涯孤独っていうのかな? お通夜にいた大人が馬鹿なのかろくな親戚がいないのか。と、さっきからそんな考えばかりが頭の中を何周もしていた。その度に頭が痛くなって、考えることを放棄する。
「つぐみちゃん、おなかへってない?」
今は祖母の妹がつぐみの面倒を見ていた。身寄りをなくしたつぐみのことを心底心配し、面倒を快く引き受けたが、とはいえ彼女自身も夫の介護に追われる身ゆえに、この先ずっと面倒を見ていくというわけにはいかなかった。
「べつに」
つぐみはそっぽを向いたままそう答えた。
彼女の名誉のためというか――、言い訳をすると、つぐみは五年生とはいえ礼儀を知らない阿呆ではなかった。むしろ十歳にしては気が利きすぎるくらい鋭い子だ。ただ、ずっと一緒に暮らしてきた祖母を亡くしたばかりの今の自分には、これぐらいの態度は許されるだろうと。悲しみにくれる小学生といえばこんなもんだろうと、十歳の胸の内にしっかりと“線引き”を持っていた。別に彼女のことが嫌いでこんな態度をとっているわけではなかった。いや、嫌いだが。
より悲しそうにしていた方が親身になって自分の面倒を見てくれるだろう。つぐみはそう考えて、またうつむいた。