Neetel Inside ニートノベル
表紙

洒落にならないくらい怖いパートナー
危険な邂逅

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 噂は時として命を持つ。たとえばそれがゲームの裏技だとしても、A君の彼女の事だとしても、殺人事件のことだとしても。
 そんな噂の中で特に強力で、特に人間にとって害になるもの、それを「都市伝説」と名づけたのはどこの誰だっただろうか。
 今では無限に溢れる小話も、無限に作られる小話も、ただの噂の過ぎないのだ。

 切ったばかりの黒い髪をツンツンと逆立てた20歳ほどの青年、立花榊(たちばな さかき)は真夏だというのに冷や汗を浮かべて45度のお辞儀の体制のまま姿見を見つめていた。
 インターネットの無限ともいえる情報の中から彼が見つけたのは「怖い話」、自称理系の大学生である彼がその話を一笑に付すべく行った事は、どうやら呪術の一種だったようだ。
 1Kの部屋の中には、榊ともう1人、いや、もう1つが存在していた。白装束を纏った、160センチほどの人型の「何か」である。それを人間と言いきれないのは、その「何か」が浮かべる雰囲気のせいだろうか。心臓に直接氷水をぶちまけられたようないやな感覚が、その「何か」から漂っていた。
 表情が人間ならばこんなことにはならない。その「何か」の顔には何枚も何枚も、お札が貼り付けられていた。
 「リアル」。それが榊の呼んだものであった。

 「リアル」はガリガリに痩せこけた、枯れ枝のような腕をぬっと差し出す。榊は短く悲鳴を上げると、がくがくと身体を震わせて姿見に背を預けてへたり込んでしまった。
「く、あ、お、お、あ……!!」
 声にならない、ただ声帯を通り抜けるだけの息を漏らし、榊は今にも失禁せんばかりに震える。枯れ枝のような腕が、榊の肩を掴んだ。
「(ヤバい! やばいやばいやばい!! 何か分からんがマジでヤバい! 大学の単位だってまだ取ってないし今月分の家賃もまだ払ってない!!)」
 どこかこっけいにも思えるような思考を巡らせながら、榊は大真面目に対処法を考える。
 おそらく、この目の前の存在は「幽霊」なのだ。死の先を行く存在なのだ。だから、殺せない。倒せない。ならばどうするのだ?
 榊は肩を掴む腕に自らの手を重ねる。やけっぱちともいえる行動を、彼は思いついていた。
「なぁ、もっと楽しい事をしようぜ? 俺1人殺すだけじゃつまらねえだろ?」
 冷や汗をかきながら榊は言う。だが、既に小刻みな震えは収まっていた。
 「リアル」は困惑したように首をかしげ、その首の角度のまま、榊の顔を覗きこむような動きを行う。顔の間は指1本分、呼吸をするごとにお札がかさかさと揺れた。
「俺と組もうぜ? きっと楽しいぞ? きっと!」
 演劇のような口調で榊は言う。いつの間にか冷や汗も止まり、眼はどこか狂気をはらんでいた。
「……どぉして?」
「は?」
「ドーおしってどーおしっておどしてどうして?」
 排水溝から水が吹き上がるような音と不明瞭な発音に、たまらず榊の肌が粟立つ。その音は、「リアル」の声であった。たが、声を発しているのにお札が微塵も動いていないのは、やはりこの世の物ではないからだろうか。
「俺はまだ死にたくない。お前は俺を殺すことで何かメリットでもあんの?」
 榊の問いかけに、「リアル」は風が吹きぬけるように笑った。
「良い。組もう」
 今度は明瞭な発音で、「リアル」は答えた。いつの間にか榊を取り巻いていた雰囲気は霧散したようだ。
「決まりだ」
 榊は口元を吊り上げてにぃ、と笑った。どうしようもなく愉快な日常になるという確信にも似た予感が、榊をつつんでいた。

       

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