Neetel Inside 文芸新都
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ポンチ短編集
女流武者 御剣桜華 第十六幕 山道を抜けて

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 虎雅の武士を倒し、丹波の小さな村を後にした桜華たちは、大和へと向けて馬を走らせていた。馬は草原を駆けぬけ、山道へとやってきた。
「山道に来たな…。この山を抜けると次の国だ。龍牙丸よ、急ぐぞ。虎雅の武士たちはもう丹波まで来ている。敵陣に向かわなければいずれ日本全土を支配されてしまう!!」
桜華は龍牙丸の体に鞭をうち、速度を上げて山道を駆け抜ける。桜華とその家臣たちを乗せた龍牙丸が山道の中間あたりに差し掛かったそのとき、川のほうでで何かを採っている人影が桜華の目に映った。桜華は馬から降り、人影のほうへと向かう。
 「この山道に人がいるということは…近くに村がありそうな予感だな。とりあえずあの人に話しかけてみよう。」
桜華は馬車を引きながらその人のほうに近づくと、その人が桜華のほうを振り向いてきた。
「ん…。お前は見たとおり虎雅の武士ではなさそうだな。その馬車に乗っている人たちもお前の家臣というわけだな。俺は今近くの川で魚を取っていた途中だ。もしよければ俺の村によってくれないか?」
村人らしき人がそう言うと、桜華は首を縦に振った。
 「わかった。では村に案内してくれぬか。馬車にいる家臣たちも腹をすかせているからね…。とりあえずは今夜はここで泊めさせてもらおう。」
桜華がそう言った後、桜華たちは村人の案内で山奥の村へと向かっていった。

 山奥の村へとやってきた桜華たちは、村人に連れられ、村長の家にやってきた。村長は桜華の姿を見て、悩んでいる表情でそう言った。
「客人よ、おぬしらがこの村に訪れた訳を聞かせてもらおう。それが終わってから話す。」
村長の言葉に、桜華は自分のことを話し始めた。
「私の名は御剣桜華と申します。私はふるさとの村を虎雅に襲われ、両親を失くした。だから私は両親の敵である虎雅を討つべく、家臣たちと共に旅をしています。村長殿、虎雅のことについて知っていることがあれば教えてくれ。」
桜華の話の後、村長は虎雅のことについて話し始めた。
 「桜華殿、おぬしのことはよく分かった。虎雅のいる大和は強国だ。この間瓦版を読んでいると和泉の国が滅ぼされ、虎雅領になったようだ。この山道を抜けると他の国よりも文化が栄えた国・山城(現在の京都府)にたどりつくだろう。奴の武士たちは力を蓄え、いずれこの丹波も…。」
桜華は頭を抱えて悩んでいる村長を宥めるため、村長の肩に手を当て、そう言った。
「虎雅なら私たちが倒します。今は両親の敵をとるために…これ以上悲しき者を出させないためにも、大和へ行き虎雅を倒すまでは、私は死ねない!!」
桜華の言葉で、村長の顔に少しだけ笑顔が戻ってきた。
 「そうか……おぬしたちにはもう何も言うまい。とりあえず今夜はこの村で休むがよい。村人よ、客人に食べ物を持ってくるのだ。」
村長の言葉で、村人たちが食べ物を桜華たちの目の前に持ってきた。桜華とその家臣たちは村人たちが持ってきた食べ物を見ると、魚がメインの料理であった。
「桜華殿、早く食事にしましょう。腹の虫が鳴りすぎて困っているのです。」
「こんなにうまそうな料理は久しぶりだな。村人に感謝しながら食べるとするか…。」
長時間なにも食べていなかった家臣たちの満腹度はもはや限界であった。播磨の辺境の村を出てから桜華と家臣たちはなにも食べ物を口にしていなかったのだ。
 「腹が減れば戦は出来ぬとはこのことだ。食事にしよう。」
桜華がそう言った瞬間、家臣たちは食べ物を手に取り、食べ始める。桜華は握り飯を食べながら、これからのことについて考えていた。
「うむ。この山道を抜けると山城にでるか。村長の言う話ではあそこは文化が栄えていると言っていたな。そこで売っている刀と鎧もかなり丈夫な物だろうな…。とりあえず山城の町についたら刀鍛冶の店によっていくとしよう。金ならこの間襲ってきた虎雅の武士から二百両あまり奪ったから全員分の鎧だけなら買えるだろう……。」
握り飯をほおばりながら、桜華は山道を越えた先にある山城についたら何をするかを考えていた。家臣たちの刀と鎧を買い換えなければ、これからの激戦に耐えられないのである。
「うまい!!この村で取れた魚はすごく美味い。」
「この村の川魚の料理はおいしいですね。」
家臣たちはこの村で取れた魚を使った料理に満足していた様子であった。桜華は魚料理を味わい、笑顔の表情であった。

 村長の家で食事を済ませた後、桜華たちは今日の疲れを癒すために、今夜はこの村の宿で眠ることにした。
「今夜は宿代の安い所に泊まれたな。いつもは一人当たり5両なのだが、ここの宿屋は一人2両とは安いものだ。明日は山城へと向かうぞ。みなの者よ、明日に備えて眠るぞ!」
桜華がそう言った後、家臣たちは宿で眠りにつくのであった。

 夜が更け、朝が訪れた。桜華たちは旅の準備を済ませ、村長の村へと向かい、旅立ちの挨拶をする。
「村長殿、昨日はお世話になった。私たちはこれから山城へと向かう。村長殿、そなたも元気でな。」
桜華がそう言った瞬間、村人が桜華を呼び止め、そう言う。
「待ってくれ…。言い忘れておったが、山城へと続く道には敵陣がいるという噂を聞いた。山城へと向かうときには十分注意するのだぞ。おぬしの活躍を期待しておるぞっ!」
村人の言葉を聞いた桜華たちは山城を目指すべく、馬車に乗って村を去っていった。

 山道を駆け抜けていく桜華の目に、遠くに数人の武士らしき人物が映った。どうやら村長の言っていた敵陣のようだ。桜華は甲冑の色を見ると、どうやら虎雅の武士であった。そのことを知った桜華は馬車にいる家臣たちにそう言う。
「敵陣発見だ。虎雅の武士たちが数十人いるようだ。どうやら山城へと続く道を監視しているようだ。なるべく音を立てないように移動するのが先決だな。」
桜華は慎重に馬車を駆り、虎雅の武士たちに気付かれないように進む。しかし、龍牙丸が木の棒を踏んでしまったため、虎雅の武士が物音に気付き、あたりを振り返る。
 「このへんで物音が聞こえたぞ!!俺はあちらを探す。おまえは別のほうを探せ!」
虎雅の武士たちは物音があったほうに移動を開始した。それが功を奏したのか、道をふさいでいた虎雅の武士たちがいなくなった。
「見つかると思っていたが、運がよかったようだな。さぁ、龍牙丸よ、一気に山道を抜けるぞっ!」
桜華は龍牙丸に鞭を振るい、虎雅の武士を振り切って一気に山道を抜け、草原へとやってきた。草原の向こうに、大きな町が見える。あれがきっと山城の町だ。
「あの町が山城か…。はやく山城に向かおう。家臣たちの刀と鎧を買わなければな…。」
桜華は山城へと向かうべく、馬車を走らせるのであった。

虎雅の武士たちを振り切り、ついに山城の近くの草原にやってきた。
文化が栄えた国、山城で桜華たちは何を見る!?

       

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