“われわれの存在は誰にも知られてはいけない。”
“なぜなら、われわれの存在が露見した時、われわれは無条件でこの学校を去らなければならない。”
パンチラ同好会とはとてもく小さな存在だった。
僕とタカシ氏とショウゴ氏の三人で作った小さな、小さな同好会。ただパンチラを追い求めては、それを得て喜ぶだけの小さな存在、決して盗撮やスカートめくりという邪道な事はしない清く正しい性少年たちの同好会――だった。
だけど、あの一枚の写真から僕達、いやタカシ氏は、あの大きな荒波に呑まれてしまったんだと思う。
タカシ氏の幼馴染であるユカリ氏は絵に描いたようなスポーツ少女と言った感じで、今でも尚、あの笑顔を鮮明に思い出すことができる。そんな彼女がある放課後、僕達、パンチラ同好会がその日の成果を発表しあっている時に一枚の写真、ユカリ氏のパンチラが盗撮された写真を一枚持ってきたと言う。と言うというのは、ユカリ氏の気配を感じた僕とショウゴ氏は、ユカリ氏が乗り込んでくる前にその教室から退散してしまったので、後日タカシ氏から訊かされた話を元に推測するしかなかったからだ。しかも、その盗撮写真が裏で売買されてると、訊かされた僕とショウゴ氏は、腸が煮えくり返るほどの怒りを抱いたのを覚えている。
タカシ氏から、この写真の出処を探してもらいたいという言葉を訊き、僕とショウゴ氏は、その話を承諾し、売買している奴を探すことにした。
探すと言っても、パンチラを観察するのと平行してその不届き者を探すという、ある意味、真逆のことをしていたわけだが……。
そんな僕達を前にタカシ氏は探しているような素振りを見せては、パンチラを追い求めることだけをしたいたように思える。
そんなタカシ氏にある日天罰が下る。
朝、学校に行くと、至る所に貼り付けられていた校内新聞のようなものが問題となっていた。その新聞には、タカシ氏が生徒会副会長のスカートの中をスライディングして見ている光景と、僕達三人が放課後の教室でパンチラ談笑をしている時の写真が飾られていた。もちろん、いろんな煽り文句もついてだ。
幸い、僕とショウゴ氏の顔は写っていなかったけど、タカシ氏の顔はもろに写っており、タカシ氏は停学となってしまった。
タカシ氏が僕達をかばってくれたのか、僕達が誰だったのかは結局分からなかったようで、僕とショウゴ氏は停学にならずに済んだ。
僕とショウゴ氏は、タカシ氏が停学中に僕達をハメた――ハメようとした人物を探すことにした。と言っても、結局僕が調べた所で何も情報が得られるわけもなく、途方に暮れていると、ある日ショウゴ氏から一通のメールが僕の手元にやってきた。
【タカシをハメたヤツが分かったぞ。写真部の奴らだ。】
【その情報をどこから?】
【あまりこういう手は使いたくなかったんだがな。オレは顔がいいからな。可愛い女子にちょっと頼んで、売り子をしていたという奴らをすこーしばかりたぶらかしてもらってな。それで訊き出したんだ】
ショウゴ氏は、中身は残念だったが、確実に学年一と言われても問題ないくらいイケメンだった。だけど女子を使って何かをするというのは、あまり本人も相手にも好ましくないことだと、前に言っていたのを思い出しながら、ショウゴ氏がどれだけ本気なのかを、僕はその時理解した。
【後は僕に任せて。写真部をハメる作戦は僕が考える。このくらいのことはさせてよ。】
【ああ、任せたぞカワサキ】
僕はタカシ氏が停学中の間、写真部を陥れる作戦を考え、そして停学明けのタカシ氏に作戦の一部だけを伝えし、作戦を実行した。
写真部よりも違法なことをしている実感はあった。でも、そんなことを言っている場合ではなかった。目には目を。誰にも言ったことがないけど、それが僕のポリシーである。
なんやかんやあったけど、作戦はうまく行った。少し同様癖のあるタカシ氏には最初から作戦の一部というよりも、タカシ氏がなす事だけを伝えておいたので、タカシ氏的には不安でしかたなかっただろうけど、盗聴と言う僕的には前代未聞の違法行為は実を結び、写真部の奴らは、僕達の通っていた高校から姿を消した。
夏休み明け、明らかにタカシ氏とユカリ氏の関係は変わっていた。でも、それに口を出すほど僕は愚かじゃなかったのでグッとこらえた。
でも、そんな夏休み明けで一番変わっていたのはタカシ氏だった。夏休み前のあの反撃以降、僕とショウゴ氏は、タカシ氏と連絡を取り合っていなかった。僕とショウゴ氏はそれなりに夏休み中にパンチラを見に行ったりしていたんだけど、タカシ氏には謎に話しかけ辛い何かがあったからだ。
そして、夏休み明け、さらに変わっていたのは校則だった。
タカシ氏の副会長スカート覗き事件や、写真部の一件などもあり、制服を正しく着ることが校則に追加され、具体的には、女子はスカートの丈を長くすること。男子は下げパンが禁止。というのが新しく盛り込まれた。しかも常習犯には停学、または退学と言った厳しい処罰を適用するという。
僕とショウゴ氏は絶望した。確かにこの高校の外、別の高校の女子のスカートを見れば問題ないんだろう。でも、名前も知らない相手のスカートの中を見るのと、名前の知っている相手のスカートの中を見るのでは、全く感覚が別だ。
僕とショウゴ氏は悩んだ。このままタカシ氏を僕達から遠ざけるのは簡単だ。お互いにお互いを見ないようにすればいい。でも、それでは何かが違う。僕達は三人でパンチラ同好会。それが一人でも欠けてしまったら、パンチラ同好会ではなく、なにか違う物になってしまう。
だから僕とショウゴ氏は、タカシ氏に連絡を取り、再びパンチラ同好会としての活動を始めようと呼びかけたが、タカシ氏の返事はなんとも言えない感じだった。だから、僕は、僕とショウゴ氏は新しい校則についての胸の内を語った。
そんな僕達の説得に答えてか、タカシ氏は、パンチラ同好会に復帰してくれた。
ロングスカートは敵。まさにそんな言葉が似合うほどにパンチラが見れなくなってしまった。しかもタカシ氏は顔が割れているだけあって、細心の注意を重ねてパンチラを狙ったようだったけど、確実に見れると言われていた非常階段を使っても見れないということが分かり、僕達の間になんとも言えない絶望感が漂ったのを覚えているが、残念ながらその絶望感を漂わせたのはタカシ氏だけで、僕とショウゴ氏はそれなりにパンチラを見れていたので、あまり問題はなかった。でも、なにより、こうやって三人でパンチラ雑談(いろいろありネット上になってしまったけど)が出来るのは素直に嬉し待った。
そんな久しぶりのパンチラ同好会の報告会の中で、タカシ氏は驚くべきことを言った。
「駄目だ。明日はパンチラ同好会の活動はしない」
生徒達がいろいろなことに敏感になっている今、こうやって、以前のように、毎日のように活動するのは危険だ。だから当面は活動を停止しよう。それが久々にパンチラ同好会として活動したあと直ぐに言われたことだけに、かなり衝撃的だったのを覚えているけど、タカシ氏の言うことは間違っていなかったので、その間一ヶ月間、僕達パンチラ同好会は活動を停止した。
でも、僕個人としてパンチラを見るのは問題ないだろうと思い、僕は陰ながらパンチラを覗きみたりしていたけど。と言ってもショウゴ氏もなんだかんだで見てたみたいだし、飽くまでパンチラ同好会としての活動は停止していたけど、個人的には見ていた、活動していた――ということになる。……今となっては、ただの方便な気がするけど。
そんな僕とショウゴ氏を影に、タカシ氏に季節違いの春が来ていると言う噂を耳にした僕は、タカシ氏にその真相を訊いてみたけど、そんなこと無いと本人は言っていたっけ。
そんな、パンチラ同好会の活動を停止していた一ヶ月の間に世間の流れは少しずつ変わっていっていた。僕達の通っていた高校がスカートの丈を長く、制服を正しく着るという、校則を作ったのを皮切りに、他の高校も同じようなことをし始めていた。
何かがオカシイ。それを感じ取った僕とショウゴ氏は、パンチラ同好会の活動が停止している一ヶ月間の間に、ロングスカート愛好会と言う謎の巨大組織があることを知った。まるでうちの高校のあの校則をトリガーとするように練られたロングスカート計画。その時の僕は、その真実に辿り着きながら、タカシ氏にそれを説明しながらも、自分の中では半信半疑だったのを覚えている。
後日、タカシ氏が、噂の相手である後輩がロングスカート愛好会の人間だったこと。更にはその後輩に告白されたこと。さらには生徒会役員の人間は全てロングスカート愛好会の人間だということをネット通話で訊かされた。
僕的にはロングスカート愛好会のことよりも、タカシ氏がどういう返事をしたのかが気になって気になってしかたがなかったのだけど、結局通話を切られてしまって、どういう返事をしたのかは今でも分かっていない。
そんな通話をした翌日、授業中にタカシ氏から一通のメールが送られてきた。
【これから大きな花火を上げるから、耳の穴掃除して待ってろよ!】
僕とショウゴ氏、二人に送られたメール。その時は、そのメールがタカシ氏との別れのあいさつになるなんて思ってもいなかったけど、その日の昼休みに事件は起きた。
パンチラ同好会であるタカシ氏と、生徒会会長でありロングスカート愛好会の生徒会長との通話が一斉に校内放送で放送された。
多分、例の後輩をロングスカート愛好会から脱出させるため、そしてロングスカート愛好会を混乱に陥れロングスカート計画に一矢報いるために、タカシ氏なりの精一杯の作戦だったんだろうけど……。
その事件を最後にタカシ氏は高校を辞め、何処かに消えてしまった。
タカシ氏の家に行ったけど、タカシ氏の父親と思われる男性が出てきて。「そんなヤツは、この家に居ない。もう家に来ないでくれ!」と門前払いをされてしまった。
タカシ氏の携帯にはつらがらないし、結局タカシ氏が今、どこで何をしているのか、は謎のままだ。
そういえばあの生徒会長も、あの事件のせいで学校を去ることになっただ。確か去り際に、なぜか僕とショウゴ氏の前にやってきて、こんなこと言っていたっけ。
「俺はタカシという男を見くびっていたよ。そして君達二人もね。でも、僕には功績がある。このロングスカート計画という波を作った功績が。でも、彼には何もない。――結局俺の勝ちだ」
「……そうですか」と僕は眼鏡をクイっと上げて。「話ってそれだけですか?」
「違う。いいことを教えて上げようと思ってね。われわれロングスカート愛好会の規約というか公約というか。これからの君達には必要になる言葉じゃないかな?」
「……なにが……いい……んだ?」
こんな時でもショウゴ氏の声は小さかった。
「われわれの存在は誰にも知られてはいけない。なぜなら、われわれの存在が露見した時、われわれは無条件でこの学校を去らなければならない」
「……それが何ですか」
「どうせ君達二人のことだ。タカシ君無しでも何かをしようとするだろう。僕はそれが楽しみで楽しみで仕方ない。だから君達にこの言葉を教えた。ってもロングスカート愛好会高校部の公約だけどね。要は、何かをする時は裏からするもだ。タカシ君みたいに、あんな表舞台に立って面白いことをしても意味が無いんだよ」生徒会長は何か懐かしいような顔で「それじゃあね」
生徒会長はそう言い残し、他の高校へと転入して行った。
残された僕とショウゴ氏は、それから普通に高校を卒業し、大学生、そして社会人へと階級を上げていた。
世間は、時代は、女子高生はカワイイのはミニスカートではなく、ロングスカート! と言うが今の風潮だ。だけど、それでは僕達パンチラが好きな人間は浮かばれない。だから僕とショウゴ氏はパンチラを見るべく、パンチラ同好会とは違う、新たな活動を開始することにした。
ネットを使い、仲間を集い、組織を作る。ネットを駆使したおかげか、ほんの数年で僕達の新しい組織は大きく成長した。
女子高生のスカートをロングスカートから、ミニスカートへ戻す。それが今の僕とショウゴ氏、そしてその後ろに居る大勢同士達の目的だ。
さあ、始めよう。復讐の時を。
さあ、始めよう。反撃の時を。
夢の残骸(処分場)
「パンチラ同好会 総」
本作は、パンチラ同好会(http://neetsha.jp/inside/comic.php?id=11891)の総集編及び、後日談となっております。