Neetel Inside ニートノベル
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ソーダーとオンライン
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 例えば一つしかゲームを持っていないとして。それがプレイするだけ損をしている錯覚に見舞われるほどのクソゲーだったとしよう。他のソフトを遊びたいが、生憎手持ちはそれ一つ。なので仕方なくゴミのようなデータを延々と眺めてきたものの、どうしようもなく飽きが来た。
 どうするか。惰性で遊ぶか。それは苦行だ。人類は、感情のために生きている。食べるのもそうだし、寝ることもそうだし、殺すこともそうだ。楽しくなければ意味がない。
 だから、僕は放り出すことにした。これはそういう話だ。


 人生はソーダによって膨らむ。
「すると何か、僕らはホットケーキか何かなのか」
 ホワイトボードに書かれた横向きの文章を眺めながらの質問は、それでも放課後の空き教室によく通る。
「なるほど、興味深いな」
 長机を挟んで、やたら背の高い、やたらよろしい姿勢の女性が端正な唇を開く。
「悩むばかりでは成長しないが、無闇に急げば外見を立派に装うだけで、中身は生焼けが関の山だろう。加減を弁えていなければ燃えカスだ。焼かない方がまだマシですらある。なるほど、客観的で思慮深い。流石は部長に相応しい方の言及だと、感服を禁じ得ない」
「流れを持っていこうとするな。僕は部長なんて御免だからな」
 ホワイトボードをノックする音。二人の意識を引き付けた先には、目つきの悪い、少年窃盗団のナンバー2を努めていそうな男が無言で立っている。彼は口に含んだ生ぬるい砂糖水を飲み下し、
「静粛になるがいい。つまりだな」
 文章の「ソーダ」周辺を黒ペンでぐるぐる巻きに強調しながら、自信たっぷりに彼は言い張る。
「ソーダを利用することによって、お前らの退屈極まる学生生活は、刺激に溢れたブツに変貌するんだよ!」
「な、なんだってー」
 彼女の生返事らしい棒読みからは、慈悲と皮肉のどちらを汲み取るべきだろう。そんな下らないことを考えながら窓の外に目を向ける。遠くには家路を急ぐカラスがいて、黄昏のむなしさに拍車をかけていた。
いいよな、あいつらは。自由に世界を探索できて。2Dより幾分か楽しそうだ。死にたい。
「人はそれをソーダーと称えるだろう。いいかお前ら、新進気鋭たるこの部に入ったからにはお前らもソーダー一味としての自覚を持ち、清く飲料水と付き合うように。それで、差し当たっては雑務処理兼部長を決定したい」
 彼女はホワイトボードを眺めたまま硬直していて、僕は机に張り付いている。
 吹奏楽部のトロンボーンが窓越しに届く。彼が炭酸を口に含む。
「では、私がやろう。面倒な役回りを被るのは、いつだって私のような非力な女性なのだ」
 彼女がおもむろに手を挙げる。予想外の挙動に目をやると、後でアクエリ驕ってやるから、との小声と合わせてアイコンタクトを送られる。意味が分からず沈黙したのは数瞬のことで、損得を二秒で勘定した僕は、彼女の願望を聞き届けることにした。
「いいや、僕がやるよ。ソーダーが日和見なんて、らしくないし」
 二人の視線がホワイトボード横を捉えた後に、ようやく彼は口内のそれを胃に流し、そして逡巡する。
 その有無を言わさぬ視線は、無駄な行動を許さない。
「じゃ……じゃあ俺がやるよ……」
 うってかわって弱気な声音を発する彼を、譲り合いの精神が襲う。
 本日は晴れ。世界はやっぱり退屈だ。

       

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