Neetel Inside ニートノベル
表紙

黄金決闘
第2話 速さと強さ

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 本日、4月5日。全国的に高校(というか学校)の始業式。
 そんな中で、神之上高校も当然始業式を迎えていた。新入生298名を加え、全校生徒は815名。
 校長先生の話に眠気を掻き立てられ、新入生代表の言葉に眠気を掻き立てられ、生徒会長の激励に眠気を掻き立てられ、職員の諸注意に眠気を掻き立てられ、長々と続いた始業式は終わりを迎えた。
 その時点で時刻は12時。各自、家に帰るなり、食堂を利用するなり、用意しておいた弁当を食べるなりして食事をとる。
 そして午後1時半。部活動勧誘の時間が始まった。
「おーい、クロくーん。こっちでーす」
 新入生、早川璃奈は1学年先輩の転入生、白神玄を発見し親しげに手を振る。
「おう、今朝ぶり」
 今朝、約半月ぶりに校門で漫画や小説やドラマのように劇的でも激的でもない偶然の再開を果たした2人。現在、決闘部の部室前にて遭遇した。
「ここが決闘部の部室ですか。思ってたよりも普通ですね」
 普段は空き部屋として使用されている決闘部の部室は、生徒たちが授業を行う教室との外見の差異は全くない。実際に外見も内見も差などなく、完全に同じものなのだが。
「中に入るか」
 コンコンコン、ノックして扉を横に開ける。2度のノックはトイレの時、ということは知っていたがこういう場合何度ノックするべきか分からず適当に3度ノックした。
「失礼しまーっす」
 玄が無遠慮気味に中へとずかずかと入ると、窓際に一人の女子生徒を発見する。窓のほうを向いてて顔は分からないが、身長はかなり低い。薄めの茶色い長髪は、日の光に透けて軽く赤色に見えた。
「あら? 入部希望者?」
 振り返った女子生徒の顔立ちは、その低身長に見合った幼いものだった。それを見て玄は気づかれないように隣にいる璃奈に小声で話しかけえた。
(なぁ璃奈。あれ、どうみても小学生だよな)
(いやでも、あの胸につけてるリボン見てください。黄色ですよ)
 神之上高校の制服は、男子ならネクタイ、女子ならリボンの色で学年が分かるようになっている。赤なら1年生。青なら2年生。黄色なら3年生だ。つまり、窓際に立っているあの少女は、璃奈よりも玄よりも年上の3年生ということになる。
(あれは……ほら、あれだよ。きっと3年生の姉を持つ小学生が遊びに来て姉の制服を借りてるとかそんなんだよきっと)
(2回も「きっと」って言いましたね……)
「何をこそこそ話してるの? 入部希望者……よね?」
 しかし口ぶりからするに明らかに3年生。しかも決闘部に所属しているということになる。
「ええ、はい。そうなんですけど……あなたは」
 璃奈が恐る恐る口を開く。
「ああ、自己紹介がまだだったわね。私は決闘部の副部長を務めてる、辻垣内真子(つじがいとまこ)よ。よろしくね」
(年上だったー!!)
(しかも副部長さんでしたー!!)
 心の中で猛省する2人。人は見かけによらないとはまさにこのことなのだと思った。
「せっかく来てくれたところ悪いんだけど、入部試験の会場はここじゃないのよ」
 神之上高校決闘部には毎年100人近い入部希望者が現れるため、必ず入部試験を行い数を絞る。そのことは2人とも知っていたが、ここで行うものとばかり思っていた。よく考えれば100人程度の人間をこの1室に収めることなど不可能なのだが。
「じゃあどこで?」
「第三体育館」


 と、いうわけで2人は小さな副部長、真子に言われるがまま第三体育館へと向かった。
 神之上高校には3つの体育館が存在する。第一、第二体育館は主に体育会系の部活動が使用することとなっており、第三体育館は集会や特別な行事など多目的用途の体育館である。全校生徒約800人が体育座りしても窮屈に思わない程度の大きさがあり、現在そこには決闘部に入部しようという生徒達が山のように集まっていた。
「すごい人ですね。1年生から3年生までいるみたいですけど」
 辺り一面、人、人、人、人、人。そのすべてがデュエルディスクを腕に付けていた。これが全て入部希望者なのだから、ここの決闘部がどれだけすごいのかということが伝わってくる。
「今数えてみたけど、だいたい120人くらいだな。しっかし、これ全部入部希望者なんだろ? この内何人が入部出来るんだ?」
「知り合いの部員さん曰く、今は3人だけらしいですよ。去年までは卒業していった先輩方もいたそうですけど、それでも5人だったそうです」
 少数精鋭らしいです、と璃奈は最後に付け加えた。
「ってことは今年も入部できるのは3~4人程度って考えたほうがよさそうだな。いやそれよりも、3人だけでどうやってこの人数を絞りきるんだ?」
「……それもそうですよね。去年までとかはどうしてたんでしょうか?」
 1人1人審査するのは時間がかかりすぎる。トーナメント戦を開くのも良いかもしれないが、やはり時間がかかる。
 と、副部長である小さな先輩、辻垣内真子がいつの間にか壇上に立っている。その右手にはマイクが握られていた。
『あーあー、ただ今マイクのテスト中ー。うん、良好ね。はーい、みなさんお待たせしました』
「おっ、ようやく始まるっぽいな」
「ようやくと言うほど待ってもいませんけどね」
 玄たちがここに集められてからまだ10分程度。待ったと言うほどではない。
『えー、これより神之上高校決闘びゅっ……』
「「…………」」
 沈黙。
「おい、今噛んだぞ」
「言わないであげましょうよ」
 入部希望者たちの反対方向を向いて、ぷるぷると震えながら口を押えている。相当痛かったのだろう。
 数十秒後。
『……みなさんお待たせしました。これより、神之上高校、決闘部、入部試験を開始します!』
(区切ってしゃべっりましたね……)
 台詞を噛んだことがよほど気に食わなかったのか、それとも単純に痛かったせいなのかは分からないが、涙目になりつつ若干の苛立ちを見せながらも入部試験開始の合図が出る。
『えーっと、これからみなさんにはとりあえずデュエルしまくってもらいます。特別なルールは一切なし。とにかく会場内の生徒とテキトーにデュエルして下さい。あ、私とか現部員はなしで』
「なーんだ、部員に挑めないのかよ。残念」
(挑むつもりだったんですか……チャレンジャーですね)
 璃奈は玄ほどチャレンジャーにはなれない。
『その様子を見て、私たちがテキトーにストップをかけるので、それまでデュエルし続けて下さい。一定時間経過した時点で、私たち部員が何人か見込みのあるデュエリストを選別し、そうなれば一応合格。それ以外のデュエリストは全員不合格となります』
 つまりは見込みのある物を選別するために、全ての生徒にある程度のアピールタイムを用意するということ。これなら少人数でも大勢の審査をすることが可能だ。
『当然ですけど、なるべく多くデュエルして、なるべく多く勝った方評価はよくなります』
 多くデュエルして、多く勝つ。言うのは簡単だが、やるのは難しい。
「なんだか適当な説明ですね……」
「まぁ、シンプルで分かりやすくはあるけどな」
 単純だが難しく、変哲もないが当事者からすれば厳しいルール。
『あ、それと私がストップかけるまでデッキを変えたりするのは違反行為なので、見つけた瞬間失格です』
「デッキチェンジはなしか……」
「私は1つしか持ってきてませんから、関係ないですけどね」
『説明終わりっ、それでは始めまーす。位置についてー、よーい、どんっ!!』
 全ての生徒が一斉に、近くにいる人間にデュエルを申し込む。
「それじゃ、クロくん。お互いにがんばりま……あれ?」
 さっきまで璃奈の隣にいたはずの玄が姿を消した。影も形もありはしない。
「クロくーん? こですかー?」
 きょろきょろと辺りを見まわしてみるが見つからない。少し動いてみるが、それでも姿が見えない。諦めかけていた時、なんとなく振り返ると。

「《コアキメイル・ガーディアン》を通常召喚! バトル、守備モンスターを攻撃!」
「《ライトロード・ハンター ライコウ》の効果を発動!」
「《コアキメイル・ガーディアン》をリリースし、発動を無効! さらに《リビングデッドの呼び声》で《コアキメイル・ガーディアン》を蘇生! バトル続行だ!《コアキメイル・ガーディアン》と《ゴゴゴゴーレム》でダイレクトアタック!」
「ぐあああああああああああああ!!」

 いつの間にか男子生徒とデュエルしてた。そして勝っていた。
(はやっ!)
 小さな副部長の「開始」の言葉を聞いてから3分程度しか経っていないが、白神玄、すでに1勝していた。
「クロくん流石ですね……よーっし、私も! あっ、そこの人、デュエルしましょう!!」
 そこで丁度よくデュエルしていない女子生徒を発見。早速デュエルを申し込む。


 そして、約1時間半後。
「ふぅ……勝ちました」
 これまで6デュエル。璃奈は今のところ全勝中だが……まだ終わらない。璃奈だけじゃなく周りの参加者も疲れ始めてる。
「あと何時間続けるつもりなんでしょうか……」
 丁度その時、璃奈は目の前にデュエルしていない男子生徒を発見。それとほぼ同時にあちらも璃奈を発見し視線がぶつかる。どちらとなく近づいていき、声が届く範囲にまで距離を詰める。
「デュエルを挑みたいんだが、いいか」
「はい、もちろん」
 そして璃奈が目の前にいる男子生徒のネクタイを見ると、璃奈と同じ赤。同じ1年生のようだ。ちなみに、璃奈が1年生とデュエルするのはこれで今日4回目となる。
「よろしくお願いします。早川璃奈です」
「ああ、鷹崎透(たかさきとおる)だ」
 鷹崎と名乗る男子生徒はやや無愛想に返事をすると、デュエルの構えを取った。今日だけで既に何度も行った動作を繰り返し、デュエルの準備を整える。
 その時、ふと璃奈があることに気付いた。
(この人……全然疲れてない?)
 男女関わらずほぼ全ての人間が疲弊しきってる中で、息切れはおろか、汗ひとつかいていない。全く疲れが見えなかった。
(まぁ、あんまり関係ないよね……?)
 そうこうしている内に、互いに準備が完了した。
「いくぞ」
「はい」

「「デュエル!!」」

 璃奈のデュエルディスクのターンランプが点滅。先攻は璃奈。
「私のターン、ドロー」
(なかなかの手札ですね。まずは下準備を)
 手札から一枚のカードを引き抜き場に出す。
「《E・HERO プリズマー》通常召喚。エクストラデッキの《E・HERO エアー・ネオス》直すに記された融合素材の《E・HERO ネオス》選択してデッキから墓地へ送って、効果を発動。このターンのエンドフェイズまでこのカードをカード名は《E・HERO ネオス》になります」
 璃奈のデッキ、【ネオスビート】の中核である《E・HERO ネオス》をさっそく墓地へ送った。璃奈はそのまま1枚のカードを伏せ、ターンを終了する。

第1ターン
璃奈
LP:8000
手札:4
《E・HERO プリズマー》、SS

鷹崎
LP:8000
手札:5
無し

「《E・HERO プリズマー》に《E・HERO ネオス》。【ネオスビート】か……いいデッキではあるが、いかんせん「速さ」と「強さ」が足りねぇなぁ」
(「速さ」と「強さ」? 【ネオスビート】は両方に十分優れてると思いますけど……)
「見せてやるよ……「速い」と言う事と、「強い」と言う事を!俺のターン!」
 鷹崎は勢いよくドローすると、手札から1枚のカードを発動させた。
「永続魔法発動、《未来融合-フューチャー・フュージョン》! エクストラデッキより《F・G・D》を選択し、その融合素材であるドラゴン族モンスター5体を墓地へ送る」
 慣れた手つきでデッキからモンスターを5体選択する。
「俺は、《伝説の白石》3体と、《エクリプス・ワイバーン》2体を墓地へ! このモンスターたちは墓地へ行くことで効果を発動する。《伝説の白石》の効果で手札で《青眼の白龍》3体を手札に、《エクリプス・ワイバーン》の効果で《聖刻龍-ウシルドラゴン》2体をゲームから除外!」
 一瞬でデッキから10枚のカードを削る。しかし、鷹崎のデッキ圧縮はまだまだ続く。
「そして《青眼の白龍》を墓地へ送り、《トレード・イン》を発動。デッキから2枚ドロー。さらにもう1度《トレード・イン》を発動。2枚ドロー」
 さらに4枚の圧縮をし手札交換も行う。
(そろそろ来ますか……!)
「《召集の聖刻印》で《聖刻龍-ドラゴンヌート》を手札に加え、通常召喚。さらに《エクリプス・ワイバーン》を墓地から除外し、《モンスター・スロット》を発動」
 フィールドのモンスター1体を選択し、選択したモンスターと同レベルのモンスター墓地から除外し、カードを1枚ドローする。そのカードが除外したモンスターと同じレベルならばフィールドに特殊召喚される。
「そして、その効果にチェーンして《聖刻龍-ドラゴンヌート》の効果が発動する」
 《聖刻龍-ドラゴンヌート》がカードがモンスター効果、魔法、罠の効果対象に選択された時、デッキ、手札、墓地よりドラゴン族・通常モンスターを攻守0にして特殊召喚ができる。
「デッキより《アレキサンドライドラゴン》を特殊召喚! さらに《モンスター・スロット》の効果によってドロー! ドローカードは《聖刻龍-ドラゴンゲイヴ》! 《エクリプス・ワイバーン》、《聖刻龍-ドラゴンヌート》と同じレベル4のモンスターだ、当然特殊召喚! さらにその処理終了後、《エクリプス・ワイバーン》の効果が発動。除外した《聖刻龍-ウシルドラゴン》が手札に加わる」
(レベル4のドラゴンが3体……)
「俺は、レベル4のモンスター3体でオーバーレイ! エクシーズ召喚! 光の聖龍より生れし三つ首の闇龍よ、その姿を顕現させよ! 《ヴェルズ・ウロボロス》!!」
 三つ首の龍。その首の数と同じだけ、《ヴェルズ・ウロボロス》には効果が存在する。
「《ヴェルズ・ウロボロス》の効果、オーバーレイユニットを取り外し、3つの効果の内1つを発動する!」

《ヴェルズ・ウロボロス》 ORU:3→2

 相手のカードを1枚手札にバウンスさせる効果。手札を1枚ハンデスする効果。そして。
「俺は墓地のカードを除外する効果を選択。お前の墓地の《E・HERO ネオス》をゲームから除外する!」
「……っ! リバース罠、《リビングデッドの呼び声》を発動! 墓地の《E・HERO ネオス》を蘇生させます!」
 【ネオスビート】が墓地から《E・HERO ネオス》を失うのは相当な痛手。無理にでも回避する必要がある。それを璃奈は蘇生によって墓地の対象を不在にすることで回避に成功した。
「かわされたか……だが、まだ終わらないぞ! 墓地の《エクリプス・ワイバーン》と《ヴェルズ・ウロボロス》のオーバーレイユニットとして墓地へ行った《アレキサンドライドラゴン》をゲームから除外し、《聖刻龍-ウシルドラゴン》を特殊召喚!」
 墓地の光属性・ドラゴン族とドラゴン族・通常モンスターをゲームから除外することで特殊召喚できる上級ドラゴン族。そして再び《エクリプス・ワイバーン》が除外されたことで、2枚目の《聖刻龍-ウシルドラゴン》が鷹崎の手札に加わる。
「そして、《伝説の白石》と《青眼の白龍》をゲームから除外し、《聖刻龍-ウシルドラゴン》を特殊召喚!」
(一気に最上級のドラゴンが3体!? 太刀打ちできませんよ!?)
「バトルだ。《聖刻龍-ウシルドラゴン》2体で《E・HERO プリズマー》と《E・HERO ネオス》に攻撃!」
「うぅっ……!」

璃奈 LP:8000→7100→7000

 そして璃奈のフィールドには1枚のカードも残ってはいない。
「《ヴェルズ・ウロボロス》でダイレクトアタック!!」
「きゃあ……っ!!」

璃奈 LP:7000→4250

「カードを1枚伏せ、ターンエンド」
(まだ2ターン目なのにもうライフを半分削られてしまいました。これがさっき言ってた「速さ」と「強さ」って事ですか。でも)

第2ターン
璃奈
LP:4250
手札:4
無し

鷹崎
LP:8000
手札:5
《ヴェルズ・ウロボロス》、《聖刻龍-ウシルドラゴン》×2、《未来融合-フューチャー・フュージョン》、SS

「私のターン、ドロー」
(でも、クロくんの放つ威圧感に比べれば、まだまだ、全然大丈夫です!)
「《E-エマージェンシーコール》を発動。デッキから《E・HERO エアーマン》を手札に加えてそのまま召喚です。その効果で《E・HERO アナザー・ネオス》をサーチ。そして《O-オーバーソウル》を発動! 墓地から《E・HERO ネオス》を特殊召喚です!!」
 懲りずに再度《E・HERO ネオス》を特殊召喚。璃奈はここで攻めに転じる気だ。
「《R-ライトジャスティス》! 私のフィールドの「E・HERO」の分だけ魔法・罠を破壊します! 《未来融合-フューチャー・フュージョン》と伏せカードを破壊です!」
 鷹崎のフィールドの《未来融合-フューチャー・フュージョン》と伏せられていた《聖なるバリア-ミラーフォース-》が破壊される。これで鷹崎には防御手段は無くなってしまった。
「チッ……!」
「まだ行きますよ。もう1枚、魔法カードを発動します。手札の《E・HERO アナザー・ネオス》を墓地へ送って――」

 Lightning Vortex!!

 《ライトニング・ボルテックス》。相手の表側モンスターを全て焼き尽くす大型魔法。鷹崎は魔法・罠ゾーンだけでなく、モンスターゾーンも空となった。
「俺のドラゴンたちが……」
「仕返しです。《E・HERO ネオス》と《E・HERO エアーマン》でダイレクトアタック!!」
「ふんっ……!」

鷹崎 LP:8000→5500→3700

 璃奈、ここで一気に逆転。3ターン目の攻防とは思えないハイスピードなデュエルだ。
「どうです? 私のヒーローもなかなかでしょう?」
「はっ……! 少し見誤ってたかもなぁ」
「私はカードを1枚伏せて、ターン終了です」

第3ターン
璃奈
LP:4250
手札:0
《E・HERO エアーマン》、《E・HERO ネオス》、SS

鷹崎
LP:3700
手札:5
なし

「俺のターン」
(ちょっと危なかったですけど、今度はこっちが流れを持っていかせてもらいますよ)
「魔法カード、《手札抹殺》を発動。お互いすべての手札を捨て、同じ枚数ドロー」
 璃奈の手札は0のため鷹崎が5枚の手札を交換する。
「ここで5枚ドロー……デッキ枚数とか大丈夫ですか?」
 すでに鷹崎は24枚のカードをデッキから圧縮している。普通ならデッキの大半がなくなっているところだが……。
「俺のデッキは枚数が普通より多いからな。このデッキは50枚だ。まだデッキに種は大量に残ってる」
(50枚……それでもデッキって回るものなんですね)
 本来ならばデッキ枚数は40枚がベスト。デッキを構築するにあたって最も少ないデッキ枚数だ。デッキ枚数が少なければそれだけキーカードをドローする確率が大きくなるからである。
 だが、デュエルというものはそう単純ではない。デッキ枚数がある決まった数字のほうが回りやすいこともあれば、先攻後攻どちらになるかでも動きに善し悪しが出ることもある。デュエルとは理論だけでは測れない。
「俺は《バイス・ドラゴン》を特殊召喚」
 相手フィールドにのみモンスターが存在する場合に、攻守を半減させて特殊召喚ができる上級ドラゴン。

《バイス・ドラゴン》 ATK:2000→1000 DEF:2400→1200

「リリース。アドバンス召喚、《ストロング・ウィンド・ドラゴン》!!」
 リリースしたドラゴン族の元々の攻撃力の半分の数値分攻撃力が上がる上級ドラゴン族。しかし。
「させませんよ。罠カード、《奈落の落とし穴》!」
 攻撃力1500以上の召喚モンスターを問答無用で破壊し除外する罠カード。《ストロング・ウィンド・ドラゴン》はあっけなく除外される。
「ダメか。ならカードを1枚伏せ、ターンエンド」
 速度が下がる。璃奈としては一気に攻めたいところだが。
(あの伏せカード、防御系のカードか蘇生系のカードですよね、多分。うかつには攻めれませんけど……)

第4ターン
璃奈
LP:4250
手札:0
《E・HERO エアーマン》、《E・HERO ネオス》

鷹崎
LP:3700
手札:2
SS

「私のターン、ドロー」
(ここで攻めなければ勝ちにつなげられませんよね)
 メインフェイズを飛ばし、一気にバトルフェイズに入る。
「《E・HERO エアーマン》で攻撃!」
「通す」

鷹崎 LP:3700→1900

「《E・HERO ネオス》で止めです!!」
「そっちは通さねぇよ! 《ガード・ブロック》!ダメージを0にし1枚ドロー!」
「メインフェイズ2。カードを1枚伏せて、ターン終了です。このデュエル、このまま勝たせてもらいますよ」
「させるかよ。このデュエルをもらうのは俺だ」

第4ターン
璃奈
LP:4250
手札:0
《E・HERO エアーマン》、《E・HERO ネオス》、SS

鷹崎
LP:3700
手札:3
無し

「俺のターン。魔法カード、《救援光》を発動。ライフを800支払い、ゲームから除外されている《青眼の白龍》を手札に回収」

鷹崎 LP:3700→2900

「さらに、《闇の量産工場》を発動。墓地の《青眼の白龍》を2体回収する」
 2枚カードで3枚の《青眼の白龍》を回収。
(手札に《青眼の白龍》が3枚……まさか!)
「《融合》を発動! 手札の《青眼の白龍》3体を融合し、現れろ!!」

Blue-Eyes Ultimate Dragon!!!

 《青眼の究極竜》――レベル12、光属性、ドラゴン族、攻撃力4500、守備力3800の超ヘヴィー級融合モンスター。
「バトル!! 《青眼の究極竜》で《E・HERO ネオス》に攻撃!!」
「ここです! 罠カード、《次元幽閉》!! 攻撃モンスター、《青眼の究極竜》をゲームから除外します!!」
 《青眼の究極竜》がいかに超高攻撃力のモンスターとはいえ、耐性を持たないモンスター。もちろん《次元幽閉》の効果も受けてしまう。
「だがな、別に俺の目的は《青眼の究極竜》を出すことじゃねぇんだよ! 速攻魔法、《融合解除》!!」
「うっ……《融合解除》!?」
 《融合解除》は融合モンスター1体をエクストラデッキへ戻し、その融合素材であるモンスターを墓地よりよみがえらせるカード。《青眼の究極竜》の素材である《青眼の白龍》3体がフィールドに現れる。その攻撃力は《青眼の究極竜》に及ばずながらも3000。通常モンスター最強の攻撃力を誇る。
「終わりだ……喰らえ!」

滅びのバーストストリーム!! 3連打ァ!!

「きゃあああああああっ!!」

璃奈 LP:4250→3050→2550→0

《青眼の白龍》3体による連続攻撃という美しいゲームエンド。速く、強く、荒々しくも美しい。そんな決着で2人のデュエルは終了した。


「はぁ~、負けてしまいました」
 ここで璃奈、初の黒星。とは言え7戦6勝。勝率86パーセントである。
「しかし、お前のデッキも中々に速く、強かったな。正直あの《ライトニング・ボルテックス》は結構堪えた」
 そしてこの時、鷹崎は全勝中。9戦9勝である。
「うんうん、いやー中々いいデュエルだったな」
 ついでのようだが、この時玄も全勝中。しかし数が違う。15戦15勝中だ。
 と。
「「うわぁっ!!」」
 驚く2人。白神玄はそんな2人に驚く。
「おいおいどうした。びっくりさせるな」
「びっくりしたのはこっちのほうですよ! クロくんいつの間に!?」
「お前らのデュエルを、デュエルしながら横目で見てた。で、さっき終わってこっちも終わったようだから来てみた」
 当たり前のように言うが、横目で見ながらデュエルをするなど普通はできない。相当な実力差がなければ不可能だろう。
「あんた、確か試験スタート時に最速で白星を取ってた……」
 そこで鷹崎も玄の正体に気付く。あの最速勝利は誰から見ても印象的だったようだ。
「鷹崎くんもクロくんのデュエル見てたんですか?」
「まぁな、自分が最速かと思って周りを見てみれば、俺より先に1勝してる生徒がいた……デュエルをすぐに終わらせ追いかけたんだが、見失ってな」
 速さと強さにこだわる鷹崎としては、玄の存在は気になって仕方がなかったのだろう。
「白神玄だ。気さくに気軽に気兼ねなく、親しげに呼んでくれ」
 出来れば先輩は付けないでくれ、と最後に付ける。
「お前は確か、鷹崎とか言ってたよな。ここで一つデュエルしようじゃないか」
「……もちろん。あんたとは最初からやりたいと思ってたんだよ。あんたは中々速そうだし、強そうだ。少しばかり競い合おうじゃねぇか」
 互いにすでにやる気十分。既に位置についてデッキをデュエルディスクにセットしている。鷹崎にとっては10度目の、玄にとっては16度目の動作だ。
 そして、声を重ねて一言。

「「デュエル!!」」

(2人ともとデュエルした私としては、クロくんの方に分があると思いますけど……そうは言っても、鷹崎くんの爆発力も相当なものですし、目が離せませんね)
 目を離せないとは言うが、このルールならば誰かがデュエルを挑んでくるのが常。しかしもはや積極的にデュエルを続けることのできるプレイヤー数は少ない。璃奈が2人の決闘に集中するだけの余裕はあるだろう。
 そして2人のデュエルは始まった。
「先攻は俺だな。ドロー」
 先攻は玄。カードを1枚ドローする。
「俺は……カードを1枚セットし、ターンエンドだ」
 たった1枚のセットカードでターンを終了。先日の璃奈との1戦からは考えられない程薄い壁である。
「さぁて、楽しく行こうぜ」


To be continue

     



【前回のあらすじ(?)】
 神之上高校に転入および入学した玄と璃奈。2人は決闘部に入部しようと奮起(?)する。そんな中、小柄で小さくミニマムでどこからどう見ても小学生にしか見えない神之上高校決闘部副部長、辻垣外真子が突きつける凶悪(?)な入部試験内容。順調に勝利を手にしていく2人だが、そこで璃奈の前に現れたのは同じ新入生の鷹崎透。接戦の末、屈辱的(?)な敗北した璃奈。その様子を見ていた玄は璃奈の雪辱(?)を晴らそうと鷹崎に挑む。果たして玄は璃奈の仇(?)を討つことができるのか!(?)



「俺は……カードを1枚セットし、ターンエンドだ」
(先攻1ターン目でセットカード1枚のみ? 舐めてる……ってわけじゃないだろうが。明らかに怪しい、何を狙ってやがる)
「さぁて、楽しく行こうぜ」
 そう言って玄はターンを終了。フィールドには魔法・罠が1枚伏せられているだけ。璃奈とデュエルの時とは一変し、今度は薄い装甲だ。

第1ターン

LP:8000
手札:5
SS

鷹崎
LP:8000
手札:5
無し

「俺のターン、ドロー」
(焦るな。俺はいつも通りやればいいだけだ)
「まずは、《召集の聖刻印》を発動」
 その効果で「聖刻」と名のついたモンスター1体をサーチ。鷹崎は《聖刻龍-ドラゴンヌート》を手札に加え、そのまま通常召喚する。
「さらに《聖刻龍-ドラゴンヌート》を対象に、通常魔法発動、《ライトニング・チューン》!」
 対象となったことで《聖刻龍-ドラゴンヌート》の効果が発動。デッキよりドラゴン族・通常モンスター1体を攻守0の状態で特殊召喚。
「俺は《アレキサンドライドラゴン》を特殊召喚! そして、《ライトニング・チューン》の効果で《聖刻龍-ドラゴンヌート》はチューナーとなる」
 これでチューナーとチューナー以外のモンスターがフィールドに並んだ。その合計レベルは8。当然目的はシンクロ召喚だ。
「俺は、レベル4の《アレキサンドライドラゴン》に、レベル4の《聖刻龍-ドラゴンヌート》をチューニング! 疾風烈風その身に纏いて、星屑と共に現れろ! シンクロ召喚! 飛翔せよ、《スターダスト・ドラゴン》!」
 破壊無効効果を持った代表的なシンクロモンスターの1体。
(流石は鷹崎くん。早速レベル8のシンクロモンスターを出してきましたね)
 ここで何故、数あるレベル8シンクロモンスターの選択肢の中から《スターダスト・ドラゴン》が選ばれたのか。それは玄の受けの体勢が問題となった。伏せカード1枚のみでターンを終了。終盤で手札がなくなっているのならばよくあることかもしれないが、今は最序盤。多くの選択肢があるはずにも関わらず、魔法・罠カードを1枚伏せただけ。よほどの手札事故を起こしたのか、またはたった1枚の伏せカードによほどの自信があるのか。ならば警戒すべきは迎撃系の破壊カード。よって、選択肢の中から鷹崎は《スターダスト・ドラゴン》を選んだ。
(破壊に対してはめっぽう強い《スターダスト・ドラゴン》だ。可能性としては除外系の罠、《次元幽閉》なんかの可能性もあるが、ここは攻める!)
 低い可能性を常に気にしながらも、最良であろう選択肢を選ぶ。攻撃するか否か、その成否によってデュエルの結末というものは大きく変わってくるものなのだ。
「バトル、《スターダスト・ドラゴン》でダイレクトアタックだ!!」
 鷹崎が攻撃を宣言したその瞬間、璃奈はなんとなく、あくまでなんとなくではあるが「危ない」と思った。あの時――璃奈が玄とのデュエルで《メタモルポット》に2度目の攻撃を加えようとした時――と同じ感覚だった。この攻撃は、鷹崎を不利にするものだ、と彼女は直感的に感じ取っていた。
 そしてその直感は見事的中することとなる。
「攻撃の瞬間、速攻魔法発動。《禁じられた聖杯》! モンスター1体の攻撃力を400ポイントアップさせ、その効果を無効化する!」
「!?」
 対象となるモンスターは1体しかいない。フィールドには、《スターダスト・ドラゴン》が1体のみだ。間違いなく、どこを見てもそれ1体。
 この行動には流石の鷹崎も驚きを禁じ得ない。何か来ると感じ取っていた璃奈ですら驚きを隠せなかった。全くちっとも少しも全然かけらたりとも一切合財完膚なきまでに徹頭徹尾なんの意味も無く、玄は《スターダスト・ドラゴン》の攻撃力を上げた。
 玄にどんな思惑があったとしても、少なくとも周りから見れば意味のない行為だ。

《スターダスト・ドラゴン》 ATK:2500→2900

「そしてバトルは続行される」
 1度攻撃宣言をしたモンスターは、モンスターが新たにフィールドに現れでもしない限りその攻撃を中断することはできない。この攻撃は鷹崎の意思によって止めることは不可能だ。
「……っは、しまった!」
 このとき鷹崎はすぐに玄の意図に気が付いた。ほんの少し遅れたが、璃奈もその思惑に気が付く。そう、今彼のフィールドにはカードが1枚も存在しないのだ。

皇貴 LP:8000→5100

 玄のライフが削られたその瞬間、フィールドには冥府から訪れた大刀を持った闇の使者。同じく大刀を持った光の使者が遅れてやってきた。
「《冥府の使者ゴーズ》、《冥府の使者カイエントークン》……っ! わざわざ《冥府の使者カイエントークン》の攻撃力上げるために《スターダスト・ドラゴン》の攻撃を上げてまでモロに喰らったってのか!?」
 自分フィールドが空の時にダメージを受けることで特殊召喚出来る悪魔族最上級モンスター、《冥府の使者ゴーズ》。その強力な効果からすぐに制限カードとなったカードの1枚。そして、《冥府の使者ゴーズ》の効果で現れたのは、受けたダメージに比例して強くなる《冥府の使者カイエントークン》。
(くそっ……伏せ1枚なら《冥府の使者ゴーズ》の可能性は十分にあっただろうが。気付かないうちに焦ってたのか、俺は)
(私の時は壁にしかならなかったけど……流石クロくん。完璧なタイミングでの《冥府の使者ゴーズ》です)
「さぁ、なんとかして見せろよ」
 右手の人差し指をくいくいっと折り曲げ、鷹崎を挑発する。
(出来たらとっくにしてるっての)
「チッ、カードを伏せて、ターンエンドだ」
 そしてこのエンドフェイズに《禁じられた聖杯》の効果が消え、《スターダスト・ドラゴン》の攻撃力は元々の数値に戻る。

《スターダスト・ドラゴン》 ATK:2900→2500

第2ターン

LP:5100
手札:4
《冥府の使者ゴーズ》、《冥府の使者カイエントークン》

高崎
LP:8000
手札:3
《スターダスト・ドラゴン》、SS

「俺のターン、ドロー」
 玄は手札の《コアキメイル・サンドマン》を通常召喚し、即座にバトルフェイズに入る。
「《冥府の使者カイエントークン》で《スターダスト・ドラゴン》に攻撃!」
「くっ、《聖なるバリア-ミラーフォース-》を発動!」
「サンドマンをリリースし、無効にする!」
 岩石族「コアキメイル」に代表される3体のモンスター。
 モンスター効果を止める《コアキメイル・ガーディアン》。魔法を止める《コアキメイル・ウォール》。そして玄が場に出したばかりの《コアキメイル・サンドマン》は罠を止める。それぞれ自身をリリースすることでカードの発動を無効にし破壊する効果を持つ、【岩石族】の代表的なアタッカー。その効果は有名であり、当然鷹崎も《聖なるバリア-ミラーフォース-》が無効にされることぐらい分かってはいる。だが、1度に大幅にライフを持っていかれることを懸念し、またフィールドに残しておくのも危険だと感じて《コアキメイル・サンドマン》の効果を使わせ潰したのだ。
 結果、《聖なるバリア-ミラーフォース-》は無効となり、攻撃は続行となる。攻撃力2900の《冥府の使者カイエントークン》が攻撃力2500の《スターダスト・ドラゴン》に剣を振りかざす。敢え無くやられ、その攻撃力差400ポイントが鷹崎のライフから削られる。

鷹崎 LP:8000→7600

「さらに、《冥府の使者ゴーズ》でダイレクトアタックだ!」
 今度はゴーズの攻撃。再び剣は振り下ろされる。だが今度の相手はプレイヤー、鷹崎だ。
「ぐっ……!」

鷹崎 LP:7600→4900

「メインフェイズ2、カードを1枚セットしターンエンド」
 淡々とターンを進め、黙々とカードを操る。デュエルの流れはすでに玄が手にしていた。

第3ターン

LP:5100
手札:3
《冥府の使者ゴーズ》、《冥府の使者カイエントークン》、SS

鷹崎
LP:4900
手札:3
無し

「俺のターン、ドロー! 手札の《青眼の白龍》をコストに《トレード・イン》を発動し、2枚ドロー!」
 2枚のドローを確認し、内1枚をそのままデュエルディスクに叩きつける。
「このモンスターは、自分フィールドにモンスターが存在せず、相手のフィールドにモンスターが存在するとき、攻守を半分にすることで特殊召喚ができる! 《バイス・ドラゴン》!」

《バイス・ドラゴン》 ATK:2000→1000 DFE:2400→1200

「そしてチューナーモンスター、《ドレッド・ドラゴン》を通常召喚」
 場にはシンクロの準備が整う。2ターン連続でのシンクロ召喚だ。
「レベル5の《バイス・ドラゴン》に、レベル2の《ドレッド・ドラゴン》をチューニング! 王者の熱風ここに轟き、弱者を蹴散らし力を示せ! シンクロ召喚!燃え上がれ、《エクスプロード・ウィング・ドラゴン》!!」
 自身の攻撃力以下のモンスターと戦闘する場合、ダメージ計算を行わずに相手モンスターを破壊し、そのモンスターのフィールドでの攻撃力分のダメージを相手に与えるシンクロモンスター。だが。
「《エクスプロード・ウィング・ドラゴン》の攻撃力は2400。攻撃力が2700の《冥府の使者ゴーズ》と2900の《冥府の使者カイエントークン》は倒せないぞ」
「んなこたぁ分かってんだよ。永続魔法、《一族の結束》を発動!」
 種族統一デッキにおける全体強化型の永続魔法。墓地のモンスターはドラゴン族のみ……よって鷹崎のフィールドのドラゴン族モンスターの攻撃力はすべて800ポイントアップする。
「当然《エクスプロード・ウィング・ドラゴン》の攻撃力もアップだ!」

《エクスプロード・ウィング・ドラゴン》 ATK:2400→3200

(すごいっ……! これで《エクスプロード・ウィング・ドラゴン》の攻撃力がクロくんのフィールドのモンスターの攻撃力を超えた! 私のデュエルの時もそうだったけど、大型モンスターを出した次のターンでも全く息切れを見せない……みんなが疲れ切ってる中で鷹崎くんだけが疲労してるように見えなかったのはこのすさまじい「体力」から来てるんですね)
 ソリッドビジョンシステムはデュエリストに体感的に衝撃を与えるシステムである。直接プレイヤーにダメージを与えるカード効果や、ダイレクトアタックなどではその衝撃が大きく、貧弱な肉体では1撃食らうだけで相当な負担となる。
 ここまで璃奈は6回のデュエル、鷹崎は9回、玄は15回のデュエルをこなしているが、当然その間にもダイレクトアタックを少なからず受けているだろう。そしてそのダメージは肉体に蓄積し段々とプレイングを鈍らせる。
 本来ならば、一般的なデュエリストはデュエルディスクを使用してのデュエルを、1日平均10~15回程度行うことができるとされている。各個人の限界を超えると判断能力が低下し、まともなデュエルが行えなくなる。事実、璃奈は1日に11戦程度が限度である。しかし、鷹崎の限度デュエル数はなんと25回。普通のデュエリストの2倍~2.5倍もの体力を有しているということになる。これは鷹崎の天性の異常体力のなせる業であるといえる。
(デッキ枚数が50枚なのも、息切れをしないためのものですか……)
 故に、鷹崎透のデュエルは衰えない。常にトップスピードで動くことができる。
「バトルフェイズだ。《エクスプロード・ウィング・ドラゴン》で《冥府の使者カイエントークン》を攻撃! キング・ストーム!!」
 攻撃力で劣っている《冥府の使者カイエントークン》は成す術もなく、《エクスプロード・ウィング・ドラゴン》の吐く業火に焼かれる。そして、その効果によって2900のダメージが玄を襲う。
 だが、ただでダメージを受ける玄ではない。
「ライフにダメージを与える効果が発動した時、手札より《アチャチャチャンバラー》を特殊召喚!そして400のダメージを相手に与える!」
「なにっ!?」

鷹崎 LP:4900→4500

玄 LP:5100→2200

「……はっ、一瞬何事かと思ったが、俺のライフにかすり傷を付けただけじゃねぇか。そんな程度じゃライフ差を多少埋める程度にしかならねぇ」
「そうかもな」
 大ダメージを受けたにもかかわらず、余裕の表情を浮かべる玄。やせ我慢なのか、何か策があるのか、また別の何かか。どちらにせよ、鷹崎は易々と「追い詰めた」という気分にはなれなかった。
(何を考えてやがるのかは知らねぇが、そう簡単に覆せる状況でもねぇはずだ。このまま次のターンが回ってくれば俺の勝ち。焦る必要はねぇ)
「カードを1枚伏せ、ターンエンド」
「そこだ」
 ターンエンドの宣言を確認し、そのタイミングで玄が動き始める。
「リバース罠、《岩投げアタック》! コストとしてデッキから岩石族モンスター、《ゴゴゴゴーレム》を墓地へ送る。さらに、罠カードが発動したことで、その効果の発動にチェーンして《ナチュル・ロック》の効果発動!」
 罠カードの発動時にデッキトップを墓地へ送ることで特殊召喚することができる岩石族モンスター。
「そして、《岩投げアタック》の効果で500ダメージ」

鷹崎 LP:4500→4000

「……分からねぇな。そんなちまちまとダメージを与えてどうなる。そんなんじゃ俺を倒すどころか、《エクスプロード・ウィング・ドラゴン》の1体も倒せやしねぇぞ」
「何事にも準備ってのは必要なんだよ。嵐の前の静けさ……とはちょっと違うが、そんな感じのものだと思っておけよ」
 長かったエンドフェイズが終わり、玄のターンへ。

第4ターン

LP:2200
手札:1
《冥府の使者ゴーズ》、《アチャチャチャンバラー》、《ナチュル・ロック》

鷹崎
LP:4000
手札:0
《エクスプロード・ウィング・ドラゴン》、《一族の結束》、SS

「俺のターン、ドロー」
 ドローカードを確認し、手札に加える。そして元々持っていたもう1枚の手札をモンスターゾーンへと置く。
「《ゴゴゴジャイアント》を通常召喚し、その効果で《ゴゴゴゴーレム》を蘇生する」
 玄のフィールドが5体のモンスターに埋め尽くされる。
「俺はレベル4の《ゴゴゴジャイアント》と《ゴゴゴゴーレム》でオーバーレイ! エクシーズ召喚! 《妖精王 アルヴェルド》!」
 その名の通り妖精の王。玉座に座りどっしりと構えている姿は、王の名に相応しいものだった。
「オーバレイユニットを1つ取り外し、効果発動! フィールドの地属性以外のモンスター全ての攻撃力を500ポイントダウン!」

《妖精王 アルヴェルド》 ORU:2→1

《冥府の使者ゴーズ》 ATK:2700→2200

《アチャチャチャンバラー》 ATK:1400→900

《エクスプロード・ウィング・ドラゴン》 ATK:3200→2700

(自分のモンスターごとパワーダウンさせやがっただと!?)
 しかも合計数値は玄のモンスターのほうが低下している。これではより《エクスプロード・ウィング・ドラゴン》を倒すのがより困難となったように見えるが。
「さらに、レベル3の《アチャチャチャンバラー》と《ナチュル・ロック》でオーバーレイ! エクシーズ召喚! 《No.30 破滅のアシッドゴーレム》!!」
 ランク3ながらもその攻撃力は3000ポイント。いくつかのデメリット効果を持っているが、その爆発力はすさまじい。そして、これで攻撃力の下がった《エクスプロード・ウィング・ドラゴン》を倒せるモンスターの召喚に成功した。
(レベル3のモンスターを展開したのはこいつを出すためか……)
「バトルフェイズだ! 《No.30 破滅のアシッドゴーレム》で《エクスプロード・ウィング・ドラゴン》を攻撃!」
(だがっ!)
「軽率な攻撃だったな! リバースカード発動! 《収縮》!! 《No.30 破滅のアシッドゴーレム》の攻撃力を元々の半分にする!」
 これで《No.30 破滅のアシッドゴーレム》の攻撃力は1500まで落ち、《エクスプロード・ウィング・ドラゴン》に劣ってしまう。さらに、《エクスプロード・ウィング・ドラゴン》の効果で玄は致命的なダメージを受けることとなる。
「この勝負、俺がもらった!!」
「いいや、俺の勝ちだ。手札から速攻魔法をチェーン発動! 《禁じられた聖槍》!」
 《禁じられた聖槍》は対象モンスター1体の攻撃力を800下げる。さらに、対象にしたモンスターはそのターン魔法・罠の効果を受けなくなる。対象は《エクスプロード・ウィング・ドラゴン》。つまり。
「《エクスプロード・ウィング・ドラゴン》の攻撃力は800ダウンし、《一族の結束》の効果を受けなくなる」
「なにぃっ!!」

《No.30 破滅のアシッドゴーレム》 ATK:3000→1500

《エクスプロード・ウィング・ドラゴン》 ATK:2700→1100

 さっきまで3200あった《エクスプロード・ウィング・ドラゴン》の攻撃力も3分の1程度にまで低下。これで攻撃力は再び逆転。そして《No.30 破滅のアシッドゴーレム》の振り下ろされた酸まみれの剛腕は、止まるということを知らないかのように《エクスプロード・ウィング・ドラゴン》を吹き飛ばす。
「ぐっ……!」

鷹崎 LP:4000→3600

 モンスターも、伏せられたカードも、手札も、墓地誘発もありはしない。
「さて、ネタ切れのようだし、止めだ。《冥府の使者ゴーズ》と《妖精王 アルヴェルド》でダイレクトアタック!」
「ぐあああああああっ!!」

鷹崎 LP:3600→1400→0

「「速さ」も「強さ」も、1人でどうにかしようとすには少しばかり苦労がいる。なら相手を利用することを考えればいい。ただ攻めるだけなら誰にでもできる。相手の慢心と油断を突いて攻めろ」
 相手から力を利用して《冥府の使者ゴーズ》を召喚し、それをサポートする形で《冥府の使者カイエントークン》を強化。相手のダメージ効果を利用して《アチャチャチャンバラー》を特殊召喚。伏せカードがあることからくる慢心と油断を利用して攻撃を通す。それが、白神玄の決闘だった。


「ちくしょう。なんなんだよ、あんた」
 敗北した鷹崎が最初に口にしたのはそんな言葉だった。
「見ての通りだ」
「いや、何がだよ」
(こいつ……白神玄は、俺よりも数段強い。何度やってもいつ勝てるか……。だが)
「次は……なんて自惚れたことは言わねぇが、いつか……いつか必ず勝ってやるよ」
「そうか。だけど残念ながら次だろうといつかだろうと、いつまでも俺が勝ってやるよ」
 目の前にできた新たな目標を胸に、鷹崎透は拳を握りしめた。
 と、そこに璃奈も駆けつける。
「すごいデュエルでしたね! 2人ともすごかったです!」
 主にクロくんのほうが!特にクロくんのほうが!と最後に付け加えなければいい台詞だった。グサッと鷹崎の胸に言葉が突き刺さる。
「早川……お前、俺に負けた腹いせかよ」
「何がですか?」
 自覚的な悪意よりも、無自覚的な善意のほうが人を気づ付けることがある。鷹崎透が今日得た教訓だった。
 そこで、キィーーーーン!!っと大きな音が体育館に響き渡る。館内の生徒全員が驚き、音のしたほうへ振り返ると、スピーカー。マイクの電源を入れた音のようだ。
『うっさいわねぇ。ちゃんとマイクの手入れしてるのかしらここの教師は……あ、それはさておき、みなさん手を止めて下さい。デュエル中の人は速やかに終わらせてくださーい!』
 さっきと同じく、小柄な副部長、真子が壇上に立っている。入部希望者たちは、言われるがまま手を止める。僅かにしか残っていなかったデュエル中の者も、デュエル終盤だったようで、すぐに決着が付いた。そうしてすべてのデュエルが終わったことを確認すると、真子は口を開いた。
『えー、これにて、神之上高校、決闘部、入部試験を、終了します』
(噛まないように気を付けましたね……)
『えー今から呼ばれる人たち以外はさっさと帰りなさい。邪魔のなので』
(辛辣ですっ!)
 周りからは予想通り驚きの声ばかり。態度がひどい。
『はーい、静かにしてくださーい。それでは発表します』
 会場全体がピリピリとした空気に包まれる。
『えーっとぉ……1-B、鷹崎透くん。1-E、早川璃奈さん。それと2-A、白生徒たちは神玄くん。以上です』
「へ」
 と、間の抜けた声を出したのは璃奈。
「……ふん」
 と、当然のように鼻を鳴らしたのは鷹崎。
「へーい」
 と、適当に返事をしたのが玄。
 ちょうどここにいる3人が呼ばれる。
『はい、それではその3人以外は帰って下さい。興味ないです。1年間悔し涙で枕を濡らして下さい』
(より辛辣っ!)
 周りからは学年、性別関わらず抗議の声が聞こえる。あんな言い方されれば、当然と言えば当然。
『うるさい。帰らないと先生呼ぶわよ』
「小学生か、あの副部長とやらは」
 そう鷹崎が呟く。
「見た目はどうみても小学生だけどな」
 玄もそれに対して呟く。
「副部長さんの前では言わないほうがいいと思いますよ……それ」
 と各々呟いてる間に、いつの間にか副部長VS入部希望者たちの口論は激しさを増していた。
 それから10分ほど経過し決着。結果は、権力と圧力を盛大に振るった真子の勝利だった。止めの一言、「私、校長先生と仲がいいのよ」の一撃によって入部希望者たちは黙り、愚痴をこぼしながらトボトボと体育館の出口の方へと歩いていく。
(なんだか、申し訳ない気分になってきますね……)
 そこで壇上を見ると、真子が手招きしている。当然その相手は玄たちだ。
『鷹崎くん、早川さん、白神くん。こっちこっちぃ』
「なんか呼ばれてるし、行くか」
「そうだな」
(そうです……申し訳なくなってる場合じゃありませんでした。私はまだまだ弱いから、2人みたいに強くなれるように頑張らないと!)
「待ってくださーい!」
 少し遅れて玄と鷹崎の後をついていき、壇上を上っていく。
 この時、璃奈は少しだけいやの予感がした。入部が決まり喜ばしいはずなのに、何故か、何故かよくないことが起きる気がした。
(気にしなくても大丈夫……ですよね?)
 気にしておけばよかった、と璃奈はすぐに後悔することとなる。



 時計の針を少しばかり戻そう。
 決闘部副部長、辻垣内真子(つじがいとまこ)が入部希望者たちを体育館から追い払う数分前。体育館の上手袖には3人の生徒がいた。その全員が決闘部の面々だ。
「それで、2人はどう思うー?」
 最初に口を開いたのは真子。残りの2人に話しかける。
「そういう真子先輩はどうなの?」
 次に口を開いたのは2年生の女子生徒。真子に問いを投げ返す。
「私はあなたが言ってた女の子が結構いいと思うんだけど。何ていうか、叩けば伸びそうな感じにポテンシャルは高さそうな、叩いたらそのまま潰れてしまいそうな、そんな感じが気に入ったわ」
 うきうきとした顔で話を進めていく真子。再び2年女子生徒が口を開く。
「なるほど。確かに真子先輩が好きそうなタイプかもしれないね」
 納得したような顔でうなずく女子生徒。
「私はその子と一緒にいた男の子かな。嫌でも目につくよ、始まって3分で1人倒してたし」
 そこで最後の一人――3年生の男子生徒――が発言する順番となった。
「僕はあのやたらと速い1年生かな。光る点が多いね。安定性が高いとは言い難いけど、むらがなくなればかなりの実力者になると思う」
 彼のポテンシャルも相当なものだと思うよ、と付け加える。
 3人全員の発言が終わると、真子がパンッと胸の前で手を叩いた。
「それじゃ決定ね、あの3人で。ちょーど2人が推してる子たちがデュエルしてるみたいだから、それが終わったら終了にしましょうか」
「うん」
「そうだね」
 真子の提案に2人は何の不満もなく賛成の意を表す。
 丁度このタイミングが、とある転入生がとある新入生のライフを0にした瞬間だった。
 そして、ここから時計の針は少し進み、白神玄、早川璃奈、鷹崎透。3名が真子に手招きされるがまま体育館の壇上へと登る。
「さてさて、始めましょうかね。本当の入部試験を」
 そう呟いた真子の顔は、まだうきうきとした様子だった。

       

表紙

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Neetsha