そこまで考えたところで、店員はハタと思い直した。
まともな者はいない――。
そうだ。
たった今遭遇した人物たちは、誰一人としてマトモではなかった。
店内で突然自慰を始め、二次元好きを声高に叫び、あげく魔法まで使える紳士。
サキュバスを名乗る女。
いきなり自分に告白して服を脱ぎ出す見ず知らずの女。
しゃべる殺人地蔵。
そして、人一人が死んだにもかかわらず、誰一人騒ぎも逃げもしなかった、ファミレスの客たち。
思い返せばおかしいことだらけだ。
そもそも……と彼は考える。
俺はなぜ、ファミレスにいた?
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
あの紳士に話しかける前の記憶が全くないのは何故だ?
数々の疑問が彼の頭を巡り、やがて一つの解答に帰結した。
こんなおかしなことは、現実世界ではありえない。
つまり――、これは夢だ。
ならば、恐れる必要はなにもない。
警察に捕まろうが、殺されようが、目が覚めれば自宅の布団の中。それで終わりだ。
安堵した店員は、物陰からゆっくりと身を乗り出し、自宅の前に張り込む警察官に近付いた。にこやかな笑顔を浮かべ、「警察官相手に大立ち回りをしてみるのも悪くない」などと思いつつ。
一人の警官と目が合った。
警官は仲間に目配せで合図をし、店員へと近付いてくる。
最初はゆっくりと。
徐々に早足に。
そして走り出す。
気が付けば店員は体を反転させ、全速力で駆け出していた。
なぜそうしたのか、店員自身も分からない。
ただ、彼の頭の中で、ネオンサインのように言葉が繰り返し閃いている。
"やつらに捕まってはならない"
"やつらに捕まると、この夢が終わる"
・・・・・・・・・・・・・
"そして、この夢は決して終わらせてはならない"
抗うにはあまりに強い、ほとんど本能的な警告。
それに引きずられるように、不気味に静まりかえった街を、彼はただひたすらに走り抜けていく。
文藝ニノベ短編作品・超激辛レビュー大賞
禁煙カフェ13/チンコレディブル大統領
そこまで考えたところで、店員はハタと思い直した。
まともな者はいない――。
そうだ。
たった今遭遇した人物たちは、誰一人としてマトモではなかった。
店内で突然自慰を始め、二次元好きを声高に叫び、あげく魔法まで使える紳士。
サキュバスを名乗る女。
いきなり自分に告白して服を脱ぎ出す見ず知らずの女。
しゃべる殺人地蔵。
そして、人一人が死んだにもかかわらず、誰一人騒ぎも逃げもしなかった、ファミレスの客たち。
思い返せばおかしいことだらけだ。
そもそも……と彼は考える。
そもそも俺はなぜ、ファミレスにいた?
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
あの紳士に話しかける前の記憶が全くないのは何故だ?
数々の疑問が彼の頭を巡り、やがて一つの解答に帰結した。
こんなおかしなことは、現実世界ではありえない。
つまり――これは夢だ。
ならば、恐れる必要はなにもない。
警察に捕まろうが、殺されようが、目が覚めれば自宅の布団の中。それで終わりだ。
安堵した店員は、物陰からゆっくりと身を乗り出し、自宅の前に張り込む警察官に近付いた。にこやかな笑顔を浮かべ、「警察官相手に大立ち回りをしてみるのも悪くない」などと思いつつ。
一人の警官と目が合った。
警官は仲間に目配せで合図をし、店員へと近付いてくる。
最初はゆっくりと。
徐々に早足に。
そして走り出す。
気が付けば店員は体を反転させ、全速力で駆け出していた。
なぜそうしたのか、店員自身も分からない。
ただ、彼の頭の中で、ネオンサインのように言葉が繰り返し閃いている。
"やつらに捕まってはならない"
"やつらに捕まると、この夢が終わる"
・・・・・・・・・・・・・
"そして、この夢は決して終わらせてはならない"
抗うにはあまりに強い、ほとんど本能的な警告。
それに引きずられるように、不気味に静まりかえった街を、彼はただひたすらに走り抜けていく。
まともな者はいない――。
そうだ。
たった今遭遇した人物たちは、誰一人としてマトモではなかった。
店内で突然自慰を始め、二次元好きを声高に叫び、あげく魔法まで使える紳士。
サキュバスを名乗る女。
いきなり自分に告白して服を脱ぎ出す見ず知らずの女。
しゃべる殺人地蔵。
そして、人一人が死んだにもかかわらず、誰一人騒ぎも逃げもしなかった、ファミレスの客たち。
思い返せばおかしいことだらけだ。
そもそも……と彼は考える。
そもそも俺はなぜ、ファミレスにいた?
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
あの紳士に話しかける前の記憶が全くないのは何故だ?
数々の疑問が彼の頭を巡り、やがて一つの解答に帰結した。
こんなおかしなことは、現実世界ではありえない。
つまり――これは夢だ。
ならば、恐れる必要はなにもない。
警察に捕まろうが、殺されようが、目が覚めれば自宅の布団の中。それで終わりだ。
安堵した店員は、物陰からゆっくりと身を乗り出し、自宅の前に張り込む警察官に近付いた。にこやかな笑顔を浮かべ、「警察官相手に大立ち回りをしてみるのも悪くない」などと思いつつ。
一人の警官と目が合った。
警官は仲間に目配せで合図をし、店員へと近付いてくる。
最初はゆっくりと。
徐々に早足に。
そして走り出す。
気が付けば店員は体を反転させ、全速力で駆け出していた。
なぜそうしたのか、店員自身も分からない。
ただ、彼の頭の中で、ネオンサインのように言葉が繰り返し閃いている。
"やつらに捕まってはならない"
"やつらに捕まると、この夢が終わる"
・・・・・・・・・・・・・
"そして、この夢は決して終わらせてはならない"
抗うにはあまりに強い、ほとんど本能的な警告。
それに引きずられるように、不気味に静まりかえった街を、彼はただひたすらに走り抜けていく。