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SF、短編
食べるだけダイエット

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食べるだけダイエット


 人類はついに地球外生命体の存在を確認した。
 4千3百光年先の天体に棲むその生物は捕獲され、造船技術とワープ航法の革新によって、僅か数週間後に地球に到着した。そして、その生物の組成が調べられた。

 その結果は生物学者たちを騒然とさせた。

 地球上の生物の構造と比較して、全く違いが見つからなかったのだ。
 タンパク質を持ち、DNAで遺伝情報を保存した、細胞を持った生物だった。

 生物学者たちは、違う星で生まれたなら、当然違う構造を持っている筈だと思っていた。しかし現実は違った。うん千光年離れている星なのに、構造が全く同じだったのだ。
 つまりこの生物は、地球で生まれた生物と兄弟である、という可能性が出てきた。

『生命の起源は、宇宙全体で単一』

 長年謎だった生命の起源に対する冗談の様な仮説の一つ、『原初の地球にやって来た宇宙人が起源』という仮説が一気にブームになった。しかしブームは、続報によって直ぐに終息した。

『アミノ酸が全部D体でした』

 アミノ酸には形や性質は似ているが、構造の異なる二種類のアミノ酸が存在する。それがD体とL体だ。右手、左手の様に、形も性質も似ているが、絶対に同じものではない。地球に棲む生物はこの内のL体しか使っていない。
 この続報によって宇宙人やUFOのブームは一気に消えたが、新しいブームに火が点いた。

 地球生物はL体しか使えない。つまり、L体アミノ酸を摂取した所で、それはアミノ酸として認識されず、棄てられる。メンバーが全員右利きのチームが野球をやろうと思って、どんなに一杯グローブを買ってきても、右手用のグローブしかなかったら、誰もそのグローブが使えないのと同じだ。
 つまり、地球外生物を食べても、栄養にならないのだ。
 絶対に太らない。
 しかも、性質が似ているので、味に遜色はない!

『食べるだけダイエット』

 人類はついに、究極のダイエット食品を発見してしまった。

 地球外生命体は瞬く間に流通し、一大ブームとなった。大手食品メーカー各社は宇宙船の確保に躍起になり、数え切れない程の流通ラインが確保された。乱獲による絶滅を恐れて、国が現地惑星で養殖を奨励し、家畜化の為の遺伝子組み換えが行われた。しばらくするとその惑星は、地球の牧場惑星と化した。

 そうして、世界から肥満がなくなったが、人間の食欲は留まる所を知らない。

「もっと美味しいものを!」

 新たな牧場惑星が求められた。企業は利益の殆どを注ぎ込んで次なる牧場惑星を探索した。求めていた星は直ぐに見付かった。その星は数万光年離れていたが、人類の叡智の前では、その距離は障害ではなかった。
 こうして人類の食指は途方も無いスケールで伸びて行った。スペース・ワイドの時代だった。

 そして当然、宇宙へ頻繁に外出する様になった人類は、ついに地球外"知的"生命体と遭遇した。
 彼らはとても友好的で、温和な性格で、争いを好まなかった。両惑星間の交流は良好で、ある日彼らは惑星総出で地球に招かれた。

「いやぁ、こんな待遇を受けられるとは、全く恐縮ですな」
「はっはっは、ゆっくり地球の景観でも眺めながら寛いで下さい」
「くつろぐ? 馬鹿言っちゃいけないよ。私達は観光に来たんじゃないんだよ?」
「あれ? では、何をしにわざわざここまで?」

 宇宙人は地球人の柔らかそうな肌を眺めると、ペロリと舌なめずりをして、こう言った。

「ダイエットだよ」

       

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