プロローグ
「あんたのこと、嫌いじゃない」
――――なら、そのナイフ、向けないでよ。
声は掠れ、水分を要求。体内の水分だけじゃ満足できないそうです。頭の中は知恵を、もっとくれと頼んでいる。こんなバカな頭じゃ、嫌みたい。手足は、がくがく震え、恐怖を強調。その場の空気を、私の体は読み取り、感じているらしい。
「わ……しも、嫌い…………じゃな、い」
「ありがとう」
震えて、悲鳴のような声は、彼女にきちんと届いた。でも、実際殺そうとしている人に、お礼なんて言わないよ。多分……。
私も、彼女も、冷静になんていられない。死にたくないし。まだ、未練だってある。でも、私は過去に、彼女を傷つけるような行為をしたらしい。思い出せませんが。
「で、も……」
薄暗いコンクリートの一室で、私の声は響く。
「死にたく、ない」
それは、一瞬のこと。涙は出なかったけど、今の行為には、結構後悔している。