Neetel Inside ニートノベル
表紙

ゆい☆ゆい
2話「ごめんなさいごめんなさいごめんなさい」

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パンツ盗撮、大食いが終わっても
彼 金城唯の奇行は続いていました

それは私たちが2年生になり、クラスが別々になっても
変わらなかったのです。

職員室でトランクス一丁で突入する
某ドラマの某赤毛の登場人物のモノマネをする、
逆立ちで校舎の屋上の手すりを往復するという無茶をやってのける
保健室のC先生のお着替えをのぞく・・・

そういう数々の伝説を残した金城唯
彼がある日を境に学校に来なくなったのです。
最初の内は私も気になったので、携帯と連絡をとりました。
本人は軽い風邪だけど、人に伝染すかもしれないからということで
お医者さんの指示があるまでは登校できないということでした。
私はその言葉を真に受け、彼の登校を待っていました。

1週間、2週間がすぎ、
1ヶ月、2ヶ月が過ぎていました。

ある日のことです


今まで 学校に来なくてもきっと元気でやっているだろう
彼が学校に登校する日を気長に待とうと思っていました。
そんな気楽な気持ちで過ごしていたんですが、
いくらなんでもこれは長すぎる・・・
軽い風邪にしては、2ヶ月という期間は
あまりにも長すぎるのではと思いました。

私は彼の携帯に電話をしてみました。
でも、電話をしても繋がらず、一度繋がったと思っても
無言のまま切れてしまうといったことが何度もありました。

金城くんは私のことを避けているのかなと思いました。
なんだかんだ言って彼とは
大声を張り上げるほど言い争ったし、
思わず手が出てしまったこともあったし、
きっと こんな私みたいな女の子とは口も聞きたくないと思っているのかと

私は泣きそうでした
私は彼になんにも恩返しが出来ていません。

1年の頃、引っ込み思案で友達のできなかった私と
最初に口を聞いてくれたのが彼でした。

ただ、開口一番が
「君のパンツの色、何色?」だったというのには
ドン引きしましたが 

あとは、そうですね
彼の奇行に思わず私が我慢できずに激しいツッコミをしたことがありました。
その途端、教室の皆が大爆笑しました。
後で、優子や樹里から聞いた話によると
「引っ込み思案の私からは想像も出来ないような激しいツッコミがツボだったわw」とのことで、
それ以来、優子たちが私に話しかけてくるようになり私には沢山の友達が出来ました。

もし、あの時の金城くんの奇行が無ければ
こんな友達に恵まれた生活を私は送ってなかったでしょう。

そう、金城くんは私の恩人なのです。
そんな恩人と音信不通だと言うのに、私はちっとも自分から
アプローチをすることなく2ヶ月という時間を無駄に過ごしていたのです。

思えば、金城くんと一緒に過ごした1年間は
一日一日がハードでため息が枯れ果てるほどため息を吐き尽くした壮絶さを極めるものでした。
金城くんのいない一日にはしゃいだ時期もありました。
しかし、今となってはあの金城くんに振り回されていたあの1年間が
とても懐かしく、またあの頃に戻りたいと思うほどになっていました。
「望郷」という気持ちに似ているのかもしれません

でも、それを取り戻すには金城くんに会わなければいけません。
金城くんの居ない2ヶ月が、私の心を後ろへと重く引っ張っているかのようでした。 
会いに行って断られたら、どうしよう
そう考えると泣きそうでした
でも、このまま、何もせずに金城くんと疎遠になるのか
それを考えると まだ拒絶されたり 断られる方がまだいいと思えました

さあ、あとは決心です。
私は金城くんの家に意を決して行くことにしたのです。
そんな時でした
お母さんから電話があったのは

「結衣、あんたぁ~ 病院ちゃんと行きや!
 どうせ、あんたのことやし 予約せんかったら
 直ぐ忘れる思たから予約しといたわ 
 球磨川病院 今日の午後4時半やから!」

私は金城くんのことばかり考えていたせいで、
ここ数日 病院に行くのを忘れていたのです。
私は、水泳部で苦手なバタフライの練習に励んでいたということもあってか
ここ数日 背中の疲れがとれず、勉強中も痛みに苦しんでいました。

流石に何度も何度も病院に行けと言われているのを
無視するのは、心配してくれている母親の好意を裏切ることになると
思ったので 私は病院に行ってから 金城くんの家に行くことにしました。

病院に着くと、私の診察をしてくださる予定だった
球磨川院長のご親族の方が危篤になり、代理で来られる予定の黒上先生の診察が
終わり次第、私の診察をするという状況だったため、
私は予定より2時間長く 診察室で待たされることになりました。
幸い、診察室には私の好きな偉人たちの伝記本が置いてあり、暇潰しにはなりました。
ただ、その殆どが昔にほとんど読破してしまったものだったので
ストックを使い果たしてしまいました。他は全部子供向けの本ばかりで
正直、私にとっては退屈以外の何ものでもありませんでした。

暇だなぁと思いつつ、診察室の近くにある黒豆茶の入った湯ポットまで行き、
お茶を飲もうとした時のことです

ふと、なぜか私は目線を上に上げました
そこには、点滴を腕に通した男の子の姿がありました。

白いニット帽を被り、病院の患者着の姿をしていた
その男の子の顔には見覚えがあったのです。

「かねしろ・・・くん?」

彼の名前を口にした瞬間にそれは確信へと変わりました。
どんなに姿が変わっていても、彼の目、耳、口、鼻を一瞥しただけで
不思議と私は彼を金城くんと認識できたのです。

「・・・金城くんだよね!?そうだよね!」

金城くんは、私の顔を見て一瞬驚いた様子でしたが
直ぐにいつも私に見せてくれていたあの顔になりました

「お~やおや!これはこれはパンツの色が紫色で
 欲求不満のオーラをチラチラとアピールしている
 結城結衣さんではないかぁ~」

「ちょ!! 人のパンツの色を勝手に改変して淫乱ビッチみたいな
 言い方するのやめてくれるかな!!
 わたしの今日のパンツは白だって!!」

相変わらずのふざけたボケに私の反射神経は思わず
ツッコミを入れていました

「お~や おや 結衣さんのパンツの色は白かぁ~」

「あ・・・ミスった」

私の激しいツッコミに周りの人たちは一斉に注目していました。
と同時に、パンツの色を大声でカミングアウトしてしまったために注がれる
見知らぬ男性たちからの獣のような視線に私は赤面しました

「ふふふ・・・相変わらずのツッコミだね 結衣さん
 元気そうでなにより」

金城くんのいつもの無邪気な笑顔を目にして、私は思わず安堵してしまいました

「もうっ! 金城くんったら 相変わらずエッチなんだから!」

私は金城くんのいなかった空白の2ヶ月を埋めるかのように話し込みました。
金城くんの作り上げた伝説、彼のいない学校、最近 優子に彼氏ができたこと
そういう会話をしました

黒上先生の診察の時間が来るまでの1時間半だけの会話でした
でも、私にとってはとても長く長く感じました。
もう5時間近く話していたかのような

「結城結衣さんー!」

受付のおばさんの声がして、私ははーいと返事をしました。

「もう私、行くね」

「うん、Good Luck!!」

金城君はそう言いながら中指を立てました

「金城くん、それGood LuckじゃなくてFuck Youだから・・・
 ってか、金城くん 女の子に向かって
 そんなことしたら普通 絶縁されちゃうよ?
 私だったからいいものの・・・」

私のツッコミを無視して、彼が指を変えないままだったので
私は無理やり彼の親指を押し広げて親指を立てさせようとしたものの、
今度は彼は人差し指と中指の間に親指をねじ込むという愚行に及んだため、
私はたまたま持っていた綾取りの糸で彼の親指以外の指を封じ、
親指を立てさせました。ざまあみろ。

そんな彼に相変わらず呆れながら、その場を後にしようとした時です。
彼が私の名を呼びました。

「結衣ちゃん」

「なに? 金城くん」

「お大事にね」

どこか悲しげな
でも 優しさに満ちあふれた瞳をした
彼の言葉が嬉しくて思わず、私はお礼を言いました

「ありがとう」

診察を受けながら、私は
金城君との話題に上げなかったことを考えていました

それは彼のニット帽についてでした
もみあげの横の髪の毛を一瞥した限りでは、
彼の髪は2か月前よりも減っているように思えました。
それを隠すかのように彼はニット帽を被っていたのかもしれません

(まさかね・・・)

医学に詳しくない私でも、こういう風貌の人が
どういった病を患っているのかおおかた予想はついていました。
でも、それを口にもしたくなく、心で思いたくもありませんでした
それを思うと、私は金城くんに会いたくないという気持ちが出てきました。
それは彼のその風貌が気持ち悪いというわけではありません。
何か、もしその風貌の奥に潜む真実を知ってしまったら
恐ろしい目に合いそうな気がして 今後 金城くんと会い続けていく内に
彼のあの風貌の理由をわかってしまう気がして

私は診察室から出ると、直ぐに病院から出ていきたい気持ちで
一杯になりました。

ようやく入口まで数メートルのところまで歩いた時、
後ろから金城くんの声がしたのです

「結衣ちゃん」

私は咄嗟に後ろを振り返りました
どこか寂しげな金城くんがあの風貌のまま立っていました
その瞬間、私の背筋に悪寒が走りました

「やれやれ 挨拶もなく帰ろうなんて
 冷たいじゃあないか・・・ どうしたんだい?
 さっきのセクハラフィンガーにご立腹かい?」

いやだ知りたくないあなたの抱えてる苦しみを知ってしまったら
きっと取り返しのつかないことになる
だから知らないままでいさせて お願いだから
私を傷つけないで

私は金城くんを振り切るかのように
入口へと走るように歩きました

「結衣ちゃん!待って!」

あの時の金城くんの悲しそうな声が耳から離れません
あの時、どうして振り返って
金城くんのもとへ行ってあげられなかったのか
もし、金城くんの元へと駆けつけ抱きしめてあげていたのなら
金城くんと過ごした時間が少しは長くなったのかもしれない
そう考えると 今も今も あの声が耳から離れません
耳を閉じても閉じても今もあの悲しそうな声が今も頭の中で響き続けます

「うっ・・・」

私の後ろで何かが倒れる音がしました
一瞬、私は心臓と背中を貫かれたような強烈な寒気を覚えました。
意を決して振り返った私の目の前にあったのは、
溢れる鼻血を必死で抑えようとする金城くんの姿でした

「かっ・・・金城くん!!!」

金城くんはそのまま膝から崩れ落ちるように
その場に倒れこみました。

私は激しい後悔の念に心を抉られそうな気持ちを
抱えながら、金城くんの手当てを待っていたのでした







       

表紙

脚本:バーボンハイム 先生に励ましのお便りを送ろう!!

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Neetsha