Neetel Inside 文芸新都
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パチンコ殲滅委員会
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静かな町の景観を無視するように聳え立つ醜悪な看板。
まるで虫をおびき寄せる街頭の火のように派手な光で明滅するそれは今の日本を堕落させた悪の象徴に見える。
パチンコ店「○犯」

真夏の駐車場に並ぶ車。その中の一つ締め切った車内から子供のうめき声が聞こえる。
「助けて・・・暑いよ・・・ママ・・・」
息も絶え絶えに母親を呼び続ける子供。しかし母親は来ない。なぜなら

母親はすでに、人間ではないからだ。
自ら火の中に飛び込み、快楽の炎に身を焼かれ思考を停止し機械的に一喜一憂するだけの魔物になってしまったから。

ふと、車の外に人の影が見えた。
「ママ?来てくれたの?」
人影を自分の母親だと思った子供はとっさに呼びかける。
しかし人影は返事をしない。
人影はゆっくりと車に近づいてくる。
それは真っ黒な影だった。

ガッ!

突如何かを打ち付ける音とともに子供の目の前の車の窓ガラスに蜘蛛の巣のようなひびが入る。
恐怖のあまり母親を呼び泣き叫ぶ子供。

やがて窓ガラスが割れ、人影の手が伸びて車のドラのロックを外した。
「大丈夫かい?今助けてあげるからな」

人影はそういうと子供を抱きかかえ上げて車外の日陰に降ろした。
朦朧とした意識の中で子供は人影を見上げる。
人影はプロレスラーのような覆面を被っていた。
真っ黒な生地に目の縁だけを真っ赤に染めた覆面。
そして真っ黒な影のように見えたのは全身を黒いスーツで覆っていたからだ。
子供の視線を感じ、覆面の男は右手に持っている物・・・先ほど窓ガラスを割る為に使っていた何かを腰の後ろに隠した。


「真夏の車内に長時間子供を置き去りにして・・・やはりパチンコをする人間は狂っている・・・!」
覆面の男はそういうとパチンコ店の方向を睨み付けた。

「ママは・・・おかしくなんか無いよ。いつも優しくて・・・」
そう、この子供の普段の母親は、どこにでもいるような普通の母親だった。

「ああ・・・そうだった。お母さんは悪くないね。君のお母さんも今すぐ助けてあげるよ」
覆面の男がそういった直後、女性のヒステリックな悲鳴が上がった。

「キャアアアアア!誘拐よ!うちの子に何するの!!!!」
店内から出てきたであろう母親だった。
「キィィイイイ!おまけに車の窓ガラスも割られているわ!車の修理代払いなさいよ!!!」
「きっと子供も恐怖でPTSDになったはずだわ!慰謝料いっぱいふんだくってやるから!パチンコ負けてムカついてたけど軍資金増えてらっきー!!!!ヒャハー!!!!」
興奮した母親は奇声を上げながら覆面の男に詰め寄る。

パンッ!

何かの破裂音とともに倒れる母親。
さっきまで狂ったようにしゃべり続けていたのにまるで壊れた人形のように動かない。

「ママ・・・?」子供の呼び声にも返事が無い。
倒れた母親の頭の部分から地面に赤いしみが広がる。
朦朧とした意識の中、事態が飲み込めずあっけにとられる子供に、覆面の男はゆっくりと告げた。

「さあ、これで母親の魂は救われた。魔物の呪縛からな」

覆面の男の右手には、真っ黒い拳銃が握られていた。
ふと気がつくと覆面の男の背後には無数の人影があった。
他の客が騒ぎに気づいたわけではない、その証拠に人影は全員覆面を付け真っ黒な服に身を包んでいた。

「さて、我々はこれから大勢の人間の魂を救いに行かなければならない。君を病院に運ぶのはそのあとだ。それまでお母さんと待っていなさい」

ゆっくりと、静かにそう告げ、覆面の男達は次々と店内に入っていった。




     

少女が目を覚ました場所は病院のベッドの上だった。
腕に軽い痛みを感じ、見ると点滴の針が刺さっていた。

ベッドに横になったまま辺りを見回すと、椅子に座ったまま仮眠を取っている一人の男の姿が目に入った。
娘が目を覚めたことに気づいたように、男は起き上がる。
「ああ、春香、おはよう。もう気持ち悪くは無いか?」

父親の問いかけに少女は答えた
「うん、平気だよ。でもなんで私病院で寝てるの?」


「そうか・・・昨日の事は覚えてないのか・・・熱中症で倒れてたところを誠二くんが見つけて病院まで運んでくれたんだ」

「誠二おにいちゃんが・・・?」

「ああ・・・病院から電話があったときはびっくりしたぞ」

ひとまず安心したのか父親は病室に掛けられた時計を見て呟いた
「もうお昼過ぎか・・・そろそろ行かないとな・・・じゃあ春香、あとでまたくるからな」
深いため息をつき春香の父親はなぜか逃げるように病室を出ようとした。

「あれ?そういえばパパ・・・?」

父親の動きが止まる。

「ママはどこに行ったの?」



パチンコ殲滅委員会

第二話「不幸は歩いてくるよ」


TVのワイドショーではいつものようにどうでもいい話題が交わされていた。

「ということで、最近の日本についてどうなんでしょうか?」


司会者の振りに芸能人のコメンテーターはこう答える
「だから、アニメやゲーム、インターネットは若者を堕落させるんですよ」

自称犯罪に詳しいコメンテーターがこう答える
「確かに、最近インターネットでの犯罪やアニメの影響で児童を殺害するなどの事件が急増していますね」

おばさんのコメンテーターがこう答える
「いたいけな児童を守る為に即刻規制すべきです!」

「あの~」黒ずくめのコメンテーターが口を開いた

「そんなものより真っ先に規制すべきなのはパチンコじゃないですかねぇ?」



会場が凍りついた。



「は・・・ははは、言ってる意味がよく分かりませんね・・・(あれぇ・・・こんなコメンテーターいたっけ?)」司会者の額からは脂汗が滲む。

黒尽くめのコメンテーターは冷静な口調で言った
「だから、パチンコを規制すれば日本はもっとよくなるんじゃないですかねぇ、って言ってるんです」


「パ、パチンコを規制するとか、な・・・なにを根拠に・・・パチンコはストレス解消に役立つことがあっても犯罪を助長することなど・・・(え・・・なんでこの人覆面被ってるの?覆面レスラー?)」
自称犯罪に詳しいコメンテーターが必死にその場を取り繕う。

「人間、生きてるんですからパチンコくらいやったっていいじゃないですか。何もかも規制したら北○鮮と一緒ですよ(ちょっとなんだよこれ、台本に無いぞ?)」
芸能人のコメンテーターも必死で擁護する。

「いたいけな児童を守る為に!アニメやゲームを即刻規制すべきです!」
おばさんは話を聞いていなかった。

周りの動揺をよそに黒尽くめの覆面コメンテーターは話を続ける
「そういえば昨日ちょっとした事件がありましたよね?テレビでは一切報道されていませんが・・・噂ではこの番組のスポンサー」

「カメラ止めろ!何やってんだ!こんなのリハーサルと違うぞ!」
別室で様子を見ていた番組ディレクターが痺れを切らし会場に怒鳴り込んできた。
「おい!撮影を中止しろ!」

ディレクターの声が聞こえていないのか、黒尽くめの覆面カメラマンはカメラを回し続ける。

「残念でした。この番組はわれわれが選挙した」
黒尽くめの覆面コメンテーターが手を上げると、
それを合図に黒尽くめの覆面観客達が一斉に立ち上がった。


「いたいけな児童を守る為に!アニメやゲームを即刻規制すべきです!」
あいかわらずおばさんは話を聞いていなかった。

     

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誠二の少年時代は、父親の愛情とはほぼ無縁だった。

仕事がある日も無い日も夜中の11時丁度に帰宅する。
それが誠二の父親の習性だった。

「おい、帰ったぞ~。開けろぉッ!」
安アパートの玄関を近所迷惑も省みずにドンドンと叩きつける父親。
「おい!きいてるのか!開けろ!」

玄関が開くと同時に誠二の母親の怒鳴り声が響く
「こんな時間に帰ってきて”あんたパチンコはもう辞めるってこの前私の両親の前で土下座して言ったわよね?あれはウソだったの!?」

「ば、ばか・・・大声出すな、近所迷惑だろ・・・・」
さっきまでの威勢とは裏腹に、急に誠二の父親は目の前の妻にすら聞き取りづらいほどの小声でひそひそと喋りだした
「あーわかったわかった・・・パチンコは今日で辞めるから、絶対に金輪際2度としませんから、さっさと家に入れてくれよ~」
いままで何度も聞いてきた言葉。
誠二の母は呆れ果てて「もう勝手にしな」と言い残し家を出て行ってそのまま帰ってこなかった。


その一年後、誠二の父親は多額の借金を苦にパチンコ店のトイレで首を吊って自殺した。


パチンコ殲滅委員会
第三話「だから後ろに退く(いく)んだね」


もうすぐ午後5時になろうとする頃、病院の待合室で春香の父親が数人の柄の悪い男達に取り囲まれていた。

男達は春香の父親を至近距離で睨みながら凄みを利かせる。あまりにも睨みを利かせすぎて寄り目になっているせいか皆顔面センターに見えた。
「さっさと借金返せやコノヤロー!」
「あんたの嫁が借りた5万円、利息と元金込みで105万いますぐ耳そろえて返せバカヤロー!」

顔面センター達に凄まれながら、春香の父親は言った
「そ・・そんなことをいわれても、私は保証人になった覚えもありませんし、第一5万借りて105万返せだなんてそんなむちゃくちゃな・・・それに嫁は昨日・・・」


顔面センターその1が言った
「うるせーこのやろー!闇金舐めるなバカヤロー!うちの業界じゃ親の借金は子のもん、嫁の借金は夫のもんじゃコノヤロー!」


顔面センターその2が言った
「コノヤロー!」

顔面センターその3が言った
「バカヤロー!」

「ここは病院ですよ。静かにしてください」
男の声が聞こえた。

顔面センターズと春香の父親が声のした方向を振り向くと、病院の入り口に一人の青年が立っていた。

「誠二君・・・!」
春香の父親がそう言うと青年はニッコリと微笑んでバッグから爆弾と書かれた大きな黒い包みを取り出した


「おにぎり食いませんか?どうせお昼食べて無いでしょ?」
誠二はにっこり笑いながらそう言った。

     

爆弾おにぎりをバクバクと頬張りながら誠二は言った
「そうですか、春香ちゃんが回復しましたか、よかったよかった」

「ええ・・・でも妻は・・・春香の母親は・・・拳銃で頭を撃ちぬかれて即死だったそうだ」
一口だけかじった爆弾おにぎりを手に持ったまま春香の父親はそう答えた



「ああやっぱり、そういえば春香のお母さん眉間から血を流したままピクリとも動きませんでしたね。僕ももうさすがにあれは死んでるだろって思いましたよ」
爆弾おにぎりをバクバクと頬張りながら無邪気に誠二はそう言った

「はは・・・相変わらず君は神経が図太いというか・・・私の目の前でそれを言うかな・・・」

春香の父親の言葉に一瞬首をかしげながらも、その意味に気づきオロオロしはじめた。

「ご、ごめんなさい!またいつもの癖で空気の読めない発言をしてしまって・・・!」

「いや・・いいんだよ。私もそれほど悲しくは無いんだ。自分の妻が死んだというのに・・・悲しいという感情がわかないんだ・・・むしろ妻に対する憎しみさえ湧き起こってる」
春香の父親は言葉を続けた
「妻が借金までしてパチンコにのめり込んでいたのは薄々気づいていた。しかしそんなことで妻が憎いんじゃないんだ・・・春香を蒸し風呂の車内に閉じ込めて自分は涼しげな所で享楽にふけっていた・・・それが許せないんだッツ・・・!!!」

院内に響き渡るほどに声を荒げる春香の父親を、誠二は優しくなだめる

「それは違いますよ・・・春香のお父さん、あなたが本当に憎いのは奥さんではなくて・・・」
まるで先ほどまでの大らかな口調とは一変し
まるで機械のように一字一句正確に言葉を続けた


「この国を ジワジワと蝕む パチンコという 悪魔なんだ」


誠二はゆっくりと、そう告げると、待合室の大型テレビのに目を向けた

「そんなことより面白そうな番組をやってますよ」

誠二はニッコリと微笑んだ。




パチンコ殲滅委員会
第三話「一日一歩、三日で三歩。三歩下がって、さらに二歩下がる」




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パチンコ殲滅委員会第五話「人生はひたすらリンチ」

母は逃げ、父は死に、誠二は親戚の伯父の家に引き取られることになった。

中学校までは通わせてもらえたが、中学卒業と同時に誠二は伯父の大工の仕事を手伝うこととなった。

大工見習いではなくあくまでもアルバイト。誠二は大工になることなどこれっぽっちも思っていなかった。

そして初めて給料日に親方である伯父から渡された封筒の中身はたったの1万円だけだった。

週6日一日10時間働いて得た月給が1万円。

誠二が不満を言うと伯父は
「工務店からお前に出た給料はそれだけだ。領収書にもそう書いてある。文句があるなら工務店に言ってみろ」と言った。

そう言われた誠二はすぐに工務店に電話で問い合わせた。
すると工務店から支払われた1万円は、工務店の掃除とゴミ燃やしに借り出された2日分の給料だった。
そして伯父の現場で働いた分は伯父から直接貰うように交渉しなさいと誠二は言われた。

そのことを誠二が問いただすと伯父は
「チッ、まさか本当に工務店に聞きにいくとはな・・・社長も社長だ、適当にごまかせばいいものを・・・しかたない、ほらよ」
といって自分の財布から誠二に5000円を手渡した。

誠二の表情がわずかに曇る。

それを察した伯父は
「俺だってもっとあげたいんだ。だけどな、お前を引き取ってからこっちも生活するだけでいっぱいいっぱいなんだ。だからこれで勘弁してくれ」となだめ

「じゃあな、俺はちょっと用事があるから、留守番頼むぞ誠二」
と言って出ていった。

伯父が帰宅したのは夜の11時過ぎだった。

「おでん買って来たぞ。誠二」
そう言って伯父は無造作に手に持った袋を放り投げた。
当然中身はひっくり返りぐちゃぐちゃ。
「腹ん中入れば同じだろ」と言って伯父は床に腰を下ろす。

「はぁ・・・ちくしょう・・・もうちょっとで勝てたんだけどなぁ・・・ちくしょう・・・はぁ・・・ちくしょう」

何度もため息を付きながら伯父は悪態をつく。

しばらくため息と悪態を繰り返していた伯父が誠二を見て申し訳なさそうにクチを開いた


「なあ・・・誠二、今持ってる金全部貸してくれ!必ず返すから!」

誠二は無言で1万5000円を伯父に手渡した。

     

パチンコ殲滅委員会第六話「汗かき、べそかき 全て嘘」

病院の待合室の大型TVにその番組は映っていた。

TVの中の光景は異様な光景だった。

なぜなら司会者やコメンテーター、そして観客を含むその場にいるすべての人間が全員覆面を被っていたからだ。

「今日はお昼のワイドショーを急遽延長、変更して、特別企画”第一回全員死ぬまでパチンコ討論会”をお送りしております」
黒い覆面を被った黒尽くめの司会者がそういうと画面の端の赤いしみにカメラが移動する。
そこには数時間前には番組本来の司会者であった青島平八の下半分が無造作に転がっていた。

「番組の司会進行を断固拒否していたのでうっかりわが組織特製の高性能ハナクソ型爆弾の一斉起爆で爆殺してしまいました。でもまあしかたないよね。パチンコに加担した連中はどうせ皆死ぬ運命にあるんだし」と言い
自分の頭を右手でこつんと叩き、カメラに向かいテヘッとしてみせた。

観客の笑い声が反響し会場が爆笑の渦に巻き込まれる。

「ではこのどうでもいい肉塊は無視して番組を続けましょう。今回のテーマは”マスゴミが報道しないパチンコの闇”についてです」


なんだこれは・・・悪趣味なB級映画かなにかか?
目の前に映し出される映像に春香の父親は怪訝な顔つきになる。

一方、誠二はおにぎりをほお張りながら、待合室の一番TVの観やすい位置に陣取り、薄ら笑いを浮かべながら、瞬きも忘れるほど番組に魅入っていた。


TVカメラが椅子に縛り付けられた一人の男を映し出す。

映し出されたのは覆面を被った自称犯罪に詳しいコメンテーター 沈矛 滑太郎(チンポコ ナメタロウ)だった。

カメラに映し出された瞬間、体をこわばらせる滑太郎。

その体には色とりどりの電極と顔や腕の数十箇所に転々とホクロ大の黒い物体が付けられていた。

「では滑太郎さん。パチンコと犯罪の因果関係についてどうお考えですか?」

黒い司会者の質問に即答する滑太郎。
「は、はい!パチンコのせいで起こる事件は少なからず存在すると思いますですハイ!」


「それにしてはメディアでの報道は一切されていませんね?これってどういうことですか?」

「そ・・それはですね」
言葉が詰まる滑太郎。

(もし本当のことを言ってしまえば仕事を完全に干される・・・し、しかしこのまま嘘を言えば・・・)
滑太郎はチラリと青島平八の死体を見る。
額に脂汗を垂らしながら滑太郎は恐る恐る言った
「じ、実は報道が一切されて無いというわけでは無いんですよ・・・た、ただ、そのまま全ての事実がありのまま報道されるというわけでは無くて・・・」

「ああ、そういえばありましたよね。これは犯罪では無いんですが、ある一家心中の事件で、本当は、パチンコに負けた自殺するしかない、という遺言を、お金がないからあとは死ぬしかない、と捏造されて報道されたことが・・・いわゆる偏向報道ってやつですね」

「え、ええ・・・それも氷山の一角で、実際に一日に報道される事件のうちの何割かはパチンコのせいで起きた事件であると考えた方がいいでしょうね・・・」
(ああ、もう仕事なんかよりも命の方が大事だ。洗いざらい本当のことを話そう・・・)
事前に受けた説明を思い出し、滑太郎はそう決心する。

体中に張り巡らされた電極に繋がる嘘発見器が嘘を一回感知した瞬間に体中に貼り付けられた小型の爆弾のうちの一個~全部がランダムで爆発する・・・
一つひとつの威力は爆竹程度の威力らしいが、運悪くまとめて爆発すると致命傷を受ける・・・

実際に青島平八の上半身は爆弾の一斉起爆で一瞬で千切れ飛んだ。

「そ、そうだ、昨日、街中での暴力団同士の抗争で大量の通行人が巻き添えで死亡したというニュ-スがありましたよね、あれも本当はパチンコ店で起こった爆破事件で犠牲者はパチンコ店の客と店員のみ、警察の上層部ではパチンコ店を標的としたテロ事件という見解だったんですよ。しかし実際の警察の記者発表では暴力団同士の抗争に差し替えられたと言うわけです」

滑太郎の暴露に黒い司会者は待ってましたと言わんばかりにこう答える。
「ああ、それ、私達の同志が起こした聖戦の狼煙なんですよ。この腐った国を浄化するためのね」
さらりと重大な事実を言った後、黒い司会者は何事も無かったように話を続けた
「まあそんなことは置いといて、つまりパチンコが関わる事件の隠蔽は警察も一枚絡んでいると・・・?」

「そ、そうなんですよ!大手スポンサーであるパチンコ業界のイメージダウンとなる報道は出来ないという一面もありますが、警察が報道規制をしているという側面もあるわけです!」
滑太郎は半ばヤケクソ気味になりながらも暴露話を続ける。

「ではなぜ警察がパチンコに関する事件の隠蔽を・・・?」

という黒い司会者の質問に、滑太郎ハニヤリと口元を歪める。


「それはですね・・・パチンコ業界そのものが警察の縄張りなんですよ」

     

パチンコ殲滅委員会第七話「お前のつけた足跡にゃ、汚い汚物が残るだろう」

誠二が18歳になる頃、父方の祖母(つまりは伯父の母親)が寝たきりになった。
そして伯父は大工の職を辞めて、祖母の介護をする為に実家に戻る事になった。

「誠二お前ももう立派な大人だ、一人でも生きていけるな」

こうして、伯父のパチンコ代を稼ぐ日々から、誠二は解放された。

それと同時に仕事と住む場所を失った誠二はホームレスとなった。

ホームレスになってから誠二はいろいろなことを学んだ。

「空き缶拾い中は油断すると空き缶の入った袋ごと奪われる」「へその垢を長時間取らないとうんこの匂いがする」「バッタはエビの尻尾の味がする」「タンポポは生でも美味しい」「冬の下水道は暖かいが長時間いると苦しくなる」

どれも社会に出て行く上であまり役に立つ知恵ではなかった。

しかし一番の発見は、「レストランの裏は食材の宝庫」だということだ。
レストランの裏に住めば食べることには事欠かない。常に新鮮な食料が捨てられている。
裏口の鍵の入れてある錠の暗証番号を盗み見れればなお良し、だ。
やがて誠二はゴミ箱から拾った具材でおにぎりを作ってホームレス仲間にただで配り歩くようになった。
これが大繁盛。たちまちホームレスの間で有名になった

ある日ホームレス仲間の一人が言った
「そういえばさぁ、この前パチンコ屋で玉拾いしてたんだけど、あそこの連中って食べる間も惜しんでパチンコ打ってるだろ。そういうやつらの元まで出向いていっておにぎり売ったら儲かるんじゃないのか?」

ナイスアイデアだと、誠二は思った。

そして次の日からそれを実行した。

誠二は喧騒の響く店内に堂々と入り、パチンコ客の元へと歩み寄り、パチンコの喧騒に負けない程の大声で叫んでみた。

「おにぎりいりませんかぁああ!!!」


 誠二は事務所に連れて行かれた。

事務所には強面の男達が待ち構えていた。

「なんじゃわれ?うちのシマで商売するたぁ、どこの組のもんじゃ?」パチンコ店の店長らしき男が凄んだ。

「B組です。3年B組」誠二は最終学歴の中学校の時の組を答えた

「おもしろいやっちゃのう。よし、気に入った!おにぎりを売るなりなんなり好きにせい」
組長は笑いながら誠二の肩を叩き笑った。

「しかし若頭、いいんですか?もし食中毒なんかでも起こしたら一大事ですぜ?」

「かまうことねえ!そん時はいつもの如くあの御方達がもみ消してくれるさ」

あの御方・・・?よくわからないがすごい偉い人なんだろう、と誠二は思った

こうして誠二は新たな道を歩み始めた。第一部完。


月日がたち、おにぎり屋も軌道に乗ってきた頃、親戚からの電話があった。

祖母が死んだ状態で発見された、と

死因は餓死、部屋の中は汚物で汚れ足の踏む場所もなかったそうだ。

祖母の面倒を一生見ると親族に豪語した伯父は、日頃から祖母に食事もろくに与えず、オムツも換えずに放置したまま、祖母の年金でパチンコに明け暮れる生活を送っていたらしい。

伯父は祖母の遺体が発見される数日前から行方が掴めず、噂では借金取りに捕まりマグロ漁船で日中夜働かされて体を壊し海に投げ捨てられマグロの餌になったらしい。

なんにせよ、誠二にはあまり関係の無い話だった。



     

パチンコ殲滅委員会第八話
見渡す限りの私有地の中心にまるで西洋の古城かと見間違うほどの豪邸を前に
バーベキュー大会が行われていた

片手に空のコップを持ったスーツを着た日本人が言う
「いやぁ、いつ来ても凄いところですね範さん。さすがは日本有数の大富豪だ」

「ははは、あなた達のおかげですよ。我を忘れて貢いでくれる国民達には感謝しないと」
範と呼ばれた男、本名範 雅助(のり まさすけ)はたった一代で大手パチンコ店○犯(マルオカ)を築いた男。
"戸籍"上はれっきとした日本人だ。

範は笑みを浮かべながら手に持った酒をグイっと飲み干した

「そんなことより双姦君も一杯、遠慮せずに飲みなさい。今日は日頃のお礼も兼ねての宴の席だ」そういうと範は甘い匂いのする酒をコップに注いだ


「ではお言葉に甘えて」
双姦 軽視(ふたよこしま かるみ)は徐に範から顔を背けると、コップから溢れんばかりの酒を口に近づけ、片方の手で口元を隠しながら一気に飲み干した

双姦が酒を飲む様子を見て、範は感嘆する。
「さすがですな、ちゃんと礼儀を心得ている・・・ところで」
範は急に改まって、しかし笑顔のまま言葉を続けた
「例の事件について、犯人の目処は立ったのかね?」

その質問に双姦はこう答えた
「いえ・・・現場の捜索や周辺聞き込みをしたのですが、犯人の遺留品は何も掴めず、死体も顔認証データベースと照合したところ、全員従業員と常連客でした。ただ・・事件発生直前にパチンコ店の敷地内の駐車場で一人の少女が倒れているところを付近の住民が発見し、病院に搬送していたことが分かりました」

範は憤慨した
「かわいそうに・・・大方夏の車の中に置き去りにされて熱中症を起こしたんだろう、まったく最近の親は・・・どうかしてる、で、その少女への尋問は終わったのかね?」

「いえ・・・まだ入院中ですので・・・」

静かな笑顔のまま範は
「そうか・・・大負けて逆恨みをした客の暴挙か、それとも北系列の同業者か・・・どちらにしても見せしめのために家族知人お隣さん共々鏖にしなければなるまい」
とつぶやき酒を飲み干した。

その直後だった。
バーベキュー会場に一人の警察官が自転車をこぎながら慌てた様子で駆けつけてきた。
「た・・・大変です・・・!」
警察官は息切れしながら慌てて報告を始めた

「今は祝いの席だぞ!無礼者が!」
双姦は警察官を一喝した。


「す・・すみません、し、しかし・・・急を要する事態なので・・・」

「わかった、報告を続けろ」

「テ・・・テレビ局が・・・パチンコ店爆破事件の犯人に電波ジャックされました」

「な、なんだってー!」

       

表紙

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