やっつめのこと 私の話
宝くじで高額当選をするには途方もない運が必要です。わざわざお金を払って宝くじを買って、無駄なことをするなんて、なんて愚かなのだろう。そう思っていました。たとえそれが『夢』を見るためであっても、です。
私には友人がいました。彼は宝くじを買うのが趣味でした。人付き合いがよく、私ともよく遊びにいったり、お酒を飲みにいったりしていました。私が彼に「なぜ宝くじを買うのか」と尋ねたとき、彼も他の宝くじ購入者たちと同じように、自分は宝くじを買っているのではく、夢を買っているのと答えました。私はよく、安い夢だな、とからかっていました。彼はそういうとき、今に見てろよといって笑っていました。私も笑いました。しょうもない笑い話だから。
大学の卒業を前にして、彼との連絡がぷっつりと途絶えました。周りに聞いても、どうやら、彼らも同様に何も知らないようでした。明るい性格で、誰とでも仲の良かった人間だったので、みんな心配しました。電話をしみても一向に繋がりませんでした。風の噂で、彼が大学を辞めたという話がありました。理由は分かりませんでした。
卒業式の日が近づいてきました。結局、彼は卒業式に現れませんでした。大学の友人たちともバラバラになり、日が経つにつれ、彼らとも少しづつ疎遠になっていきました。
そんなある日、例の友人から電話がかかってきました。元気か、などのような当たり障りの無い挨拶を交わし、しばらく会話していました。
「大学やめたって聞いたんだけど、いまどうしてるの」私は尋ねました。
「ああ、辞めたよ。今さ、ブラジルから電話してるんだ」
「え?ブラジル?」
「そう、地球の裏側だよ」
「旅行してるの?」
「ああ。宝くじ当ったんだ、俺」
何かの冗談かと思いました。訊くと、彼は宝くじで一億円を当て、世界中を旅しているそうです。彼は一千万分の一の確立に当り、自分の夢を叶えました。私は宝くじを買う彼を馬鹿にしていつもからかっていましたが、本当に夢を叶えた彼を羨ましいと思いました。そんな事があってから、私も一枚だけ宝くじを買いました。
「宝くじ当ったの言いふらしていい?」
「駄目だって」
「だよね」
私の買った宝くじは、はずれでした。世の中そう上手くはいかないよな、と苦笑いし、今も世界のどこかを旅している私の友人に想いを馳せるのでした。