Neetel Inside ニートノベル
表紙

240cmくらいの平凡。
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地球が終わると予言された年を開けたある年の日、
俺はアルバイトをしている。

「いらっしゃいませー」

単にいえばコンビニの夜勤。
新卒切符を捨ててまで働いた黒会社よりは身動きが楽。
上司や同僚に恵まれ、地域の客層のおかげでとても働きやすく
前職より高給なのが嬉しかった。あまり良くないが平凡な毎日。

店長「おーうマサ坊、8時になったからあがってもいいぞー」

何より店長が母親の友人というのが難点でもあり利点でもあった。
少しぐらいはわがままを聞いてくれるし、少し身勝手なところもあるが優しい人だ。

「あざっす、じゃあ後はよろしくおなしゃす」
店長「あいよ、で、これからどうするつもりだい?一生フリーターじゃアレだろ」
「そっすねー、まぁ悪くならないよう努力してます」
店長「あたしゃ別にお前がどうなろうと困らんけど母ちゃん困らすのはやめなよ?」
「うぃ」

確かに、今のままでダラダラ余生を過ごすほど俺はクズではない。
したいことも特にないが再就職を考え適当に荷物をまとめ帰路につく。
仕事を辞めてから、1日の大半はネットか睡眠ばかりでバイト以外駄目人間そのものだ。

チラシ配り「クーポンどーぞー♪」
「(そういえば、近所に新しく出来たんだっけかファミレス)」
チラシ配り「ありがとうございまーす♪」

暇なときにでも話のネタがてら行くか。 そう思って受け取ったチラシを鞄へしまった。
帰宅し風呂に入った後、疲れたせいでそのまま寝てしまった。今晩はオフなのでゆっくりするとしよう。

―AM02:45―

「何時間寝てるんだ俺」
携帯の画面に表示された時刻を見て呆れる。
これではまるでNEETそのものだ。否定はしないが。
ふと、腹に違和感を覚える。空腹、丸一日何も口にしていないので無理もない。

「そういえばあのチラシに24時間営業って書いてあったな」

一人でファミレスとはいかに。 とは思うものの背に腹は変えられない。
適当に鍵と財布だけ持って寒々とした静かな町に足を踏み入れた。
歩道を歩く人も車道を走る車もなく、街は静寂な夜に眠っているように見える。

「やっぱり新しいと言ってもこの時間は人いないか」
10分程歩いて入った店内はとても明るく快適なものだった
窓も大きく外が見やすいが、あいにく、向かい側はバス停と何もない小山しか無い。
友人の一人でも誘えばよかったが、平日の深夜に誘いを受けるような奴はいない。

俺ってクズなのかなぁ とか思いつつ注文した飯を待ちながら水を飲む。
静かな街に再び目線を戻すと不思議なものを見た。

道の向こう側のバス停に誰かいる。 
仕事帰りにしちゃ遅すぎないか? 時計を見る。午前3時はゆうに過ぎている。おかしい。
「(終電乗り遅れたにしても変だなぁ)」 その程度にしか考えずその誰かを二度見する。
細い体、長い足、白いワンピースに露出が多い靴…サンダル?待て、上着は? 冬だぞ?

少しずつ事態の異常性が薄ボケた体にひしひしと伝わってくるのが分かる。
あれはまるで真夏の服装だ。部屋着にしてもこの時期ではおかしい。 しかも何であそこにいるんだ。

見れば見るほどその対象から目が離せず、ただ時間が過ぎる。
顔こそうつむいていたので見れないが、それは身動き一つせずただ立っていた。
ここでもう一つ変な疑問が湧く、服装や時間帯だけに気を取られ気付かなかった事。

「あの女。でかくね?」

口を付いて出てしまった。 無理もないおかしくもない。
その女性は隣に設置されているバス停の看板より頭一つ分くらい身長が高かった。
反して肩幅は異様に狭く体の1パーツ1パーツが“縦長”だった。
魅了されたとか一目惚れとかでは無いが目線が外せない。 好奇心?何かが違う。

窓際に置いた腕を見たときに自分の気持ちが分かった。
鳥肌が立っていた。寒くもないのに震えていた。  怖かった。
そうだ、確か、2chのオカルト板や動画サイトでも見たアレに似てるから…。

「(は、はは、そりゃねーよねーだろ?嘘だろ…)」
トントン…
「!?」
店員「お客様、お待たせいたしました。」
「え、あ、ども」
店員「はい、ごゆっくりどうぞ」
食事が運ばれてきた。それまで異世界にいたかのように思えた空間に現実が戻る。
店員にアレのことを聞こうかと思ったが、そんな勇気はないし、精神が持たない。
軽く会釈をして、箸を手に取り、俺はまた同じ場所を見た。

ポツンとバス停の時刻表の看板だけがそこにあった。
あの女の姿は無い。あれは幻か? できればそうであって欲しい。
温かい飯を頬張りながらそう願っていた自分がいる。
うまい。うまいが素直に喜べない。 腑に落ちない。あれはなんだ?

この街であんなのは当然見たことはない。もちろん噂も聞いたことがない。
異常だ。今起こったことは全て忘れたい。飲み込むように飯を食う。


一通り食べ終えたあと、水を飲み会計へ行く。
伝票を渡すとき、まだ手が震えていた。
神妙な顔つきで店員が顔を見てきたが、正直それどころではない。
今外に出てアレと生で鉢合わせしたらショック死する自信があったから。

震えた手で会計を済まし店を後にする
幸い運搬業のトラックが1台か2台、間隔を開けて走っていたので少し安心した。
とはいっても何かあったらどうしようもない。ただ人がいるだけで安心した。
早々と小走りで自宅マンションへ向かう、絶対振り向かないように。
イヤホンからは大好きな音楽を大音量で流し、ただ足を進ませる

見慣れたマンションが見えてきた、道中街灯が少なく薄暗いが気にならなかった。
早く帰って寝てしまおう。 追ってきている訳ではないだろうが嫌な気分だ。
あの自販機を過ぎて、角を曲がれば…。

ぽ、

流れていた曲が終わり、次の曲が流れるまでの静寂のなかで異音が聞こえた。

ぽぽっ

体力に自信がある訳ではないが、こんな距離小走り程度で息が上がる事はない。
が、何故か心臓が苦しい、汗も出る。心臓の音がやけに大きく早くなった。

恐る恐る、後ろを見た。チカチカと点滅する切れかけの街灯。
乗り捨てられた自転車、街路樹。 
自販機とマンションの外壁の間、数十cmの闇に目線を向けたとき、全身から力が抜けた。

「」
ぽぽっ、ぽ、ぽぽぽっ

膝が地面に落ちる、動かない。 逃げたいのに。
その闇に吸われるように意識が遠のいた。

     

―AM08:30―

ふと目が覚める、雨の降る音が聞こえる。
薄暗い部屋。寒い。 暖かい布団に顔をうずめようとしたときに気付いた。
「うぉあああああああああああああくぁwせdrftgyふじこlp!!?」

隣に何かいた。

もぞもぞ…
…ぽ、ぽぽ…zzz

あ、夢だ、夢に違いない。
日頃の行いが悪いせいで悪い夢でも見ているのであろう
「んーな訳あるかあああああ!?」

バサァ!

「…うぉっほおおおおおおおお!!」
「ハッ、ご、ごめん!見てねぇし!!悪くねぇし!!!」

不自然に盛り上がった布団をひっぺがしたときに見えたそれは
季節に似合わない光景だった。
小さな組立式ベッドからはみ出た体があらわになった、
19歳童貞の俺には耐えられない光景。

とっさに布団を被り床にヘッドスライディング、メジャーリーグさながらだ
強い刺激に悶える俺に影が忍び寄る

がしっと

「お、ぉおおおおおおおおお」

俺はこんなキャラだっけ?もっと省エネ人間だったはず…
それよりもなんだこの圧迫感、体全体が骨組みで囲まれてるような

ぽぽぽ、ぽ…

「(寒いのかな)…そうじゃなくて!」
「八尺様!?起きてください!?なんで裸なんですか!?kwsk!kwsk!!」

とっさに布団で巻き返した暴眠☆八尺様を揺さぶる。が、駄目。
噂に聞く「ぽぽぽ」という寝言とうざがる仕草だけで起きようとしない。
バカみたいにデカイ体と細身な所を除けば滅茶苦茶可愛いのだが。
いかんせん状況が読み込めない。そもそも何で居座ってるんだコイツは。

パチッ
「お。」
八尺様「ぽ…ぽぽ、ぽ?」
「起きた?ちょっと聞きたいことがあるんだけどもぉおお!?」ズッテーン!

突き飛ばされた。スゲェ力、細身から思いもよらない力で文字通り吹っ飛んだ。
「…!?…!?」
反転した視界に写った軽蔑した目の八尺様。やばいのはお前だろと。

「…とりあえず服来てください」
八尺様「…?」
「いや、服をですね…」
八尺様「…」

何を考えてか少し戸惑って俺の手を握ってきた、どこかへ行くのか?
「いや服は…」
連れて行かれた先はシャワー室前、干されたワンピースが一枚
「…あ、そうか、ごめんあの後」

忘れていた。あの後ゲロりながら地面に頭を強打して痙攣してる自分を、
わざわざ家まで担いでくれたようだった。施錠はしていたんだがどうやって開けたかは謎。
冷たい手に気付き自分の服(小さいだろうが)と大きめのバスタオルを腰に巻くように指示
どうやら悪い奴では無い、要介護お姉さんのようだ。

トッ…トッ…

とても大きな歩幅でゆっくりとどこかへ向かう八尺、キッチン?
お腹が減っているのか冷蔵庫を開けたり棚を開けたりしている。

「お腹がすいたのか?」
八尺様「ぽ…」コクコク

どうやら八尺様は言葉が話せないらしい。身振り手振りで会話する。
とりあえず温まるものとお茶を出す。口に合えばいいが。

チーン
「お、できたか」
適当飯過ぎるが、冷凍のご飯と味噌の鯖缶を温め
沸かしたお湯でレトルトの味噌汁を溶かす。

八尺様「~♪」ニコニコ
「(うーん、やっぱり話で聞いたほど恐ろしく無いな)」
八尺様「ハフハフ…ぽ、ぽふ」
「はいはい、食べながらしゃべらない」

あの時は深夜で雰囲気がアレだったからか? 
そう疑問に思うくらいに目の前の長身女は普通の人間に見える。

八尺様「…。」スッ
「ん?」
箸を渡された。 あぁ、これは。

八尺様「 」アーン
はいあーんって、舌なげぇ首下位まであるぞこれ。
やっぱり人じゃないのかと自己解釈しつつ食べさせる。

「」スッ
八尺様「アーン」パクッ
「」スッ
八尺様「アーン」パクッ
「(…あれ?俺リア充ってね?)」
八尺様「~♪」ウマー
「(あれ?コイツ可愛くね?)」

ついつい可愛くて俺が全部食べさせてしまった。
八尺様は食べさせてもらうのが好きなようだ。
人間の魂を食ったりしなくて良かったと心のどこかで安心する。

空いた食器を洗おうと下げたときに軽くおじぎをしてくれた。
ふと考えながら皿洗い、八尺様はこっちを見てじっとしている。

「(こうして考えるとやっぱり悪い奴じゃないんだな)」ジャー
「(何か目的があったりするのかね…)」ジャー
八尺様「・・・。」ゴソゴソ
「(まぁ、悪さしないようであれば少しの間そっとして…)」
「おうふ」
八尺様「・・・。」サワサワ
「やめなさい!」ゴン
八尺様「ぽっ!」
「(油断できないな)」

一通り洗い終わり、一息ついたところでインターホンが鳴る。
ドンドンドン! 「あのー!私だけどー!いるー!?」
「あー、いるよー」
週に二、三回、幼馴染が遊びに来る日がある。
親から頼まれてるのか生活指導という名目らしい。正直キツイ。

幼馴染「あけるねー」
ガチャ
「あ。待っ

八尺様「ぽ?」
幼馴染「…ド、ドモ、オ世話ッシタ。」フラッ…
バタンキュー

そりゃまぁ、玄関のドア開けてすぐに目の前にこいつがいたらこうなるわな。

       

表紙

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Neetsha