Neetel Inside 文芸新都
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趣味の領域
一人の部屋

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 男は孤独だった
 金銭的余裕はあるものの容姿が醜いため自分に自信が持てず一歩も部屋から出ることはなかった
 人に会うのも宅配の業者が来たときだけ
 生活に必要な物は全てネットで購入し、人生の全てをオンラインゲームに捧げていた
 
 いつものようにゲームをやっていると、長年一緒にやってきたギルドメンバーが引退したいという
 抜けられては困るとメンバーは引き止めるが引退するの一点張り
 理由を聞けば、彼女が出来たのだという
 それを聞いたメンバーは怒り狂った
 「俺はギルドの為に仕事を辞めた」「俺なんて離婚した」などから始まり「住所を特定し殺す」と言うものまでいた
 怯えた男は一言だけ残しゲームから去った
 「俺はここで理想の彼女が出来た。興味あるやつは電話しろ。俺はこれで消える。アディオス」
 怒りをぶつける対象が消え、少し冷静になった男はその番号に電話をかける――

 「お電話ありがとうございます。シアワセ堂でございます。本日はどの商品をお求めですか?」
 「友達がここで理想の彼女が出来たって言ってたんですが…」
 「I彼女ですね。ただいま一か月無料キャンペーン中の商品でございます」
 色々と疑問に思いながらも無料なら、と購入した

 ――数日後、男の部屋に木箱が届いた
 中には小さなマネキン、おへその奥にボタンがついている
 説明書もなく、とりあえずボタンを押してみると男の理想の容姿に変わった
 容姿だけでなく話し方、仕草など全てがまさに理想だった
 男はゲームのことなどすっかり忘れ彼女との生活を楽しんでいたのだが、ふとログインしてみると引退したはずの男がログインしている
 理由を聞くと
 「I彼女が届いて一か月たつと無料キャンペーン終了の電話がかかってきたんだ。それで今後も使用するなら一か月百万円って言われてね。とても払える金額じゃないから泣く泣くお別れしたよ……」
 男は「残念だね」と言いつつ意気揚々としていた
 金だけはあるのだ
 たかだか月百万円で理想の彼女が手に入るなら安いものだ

 男は毎日が楽しかった
 そして彼女が届いて一か月
 電話は鳴らなかった――
 


 男はその後も部屋から出ることはなかった
 変わったのは空になった口座と来なくなった宅配だけ
 今も一人で暮らしている

       

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