ぎゃんぶる。
7.ババ抜き7並べ(2)
◆前回までのあらすじ
藤吉、百合子、里緒菜の三人は友情破壊ゲーで有名な7並べを変則ルールですることになった。
ルールはこんな感じ。
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* ババ抜き7並べ *
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* 用意するもの:トランプ52枚+ジョーカー1枚 *
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* 1.各スートの7を並べる(これを場とする) *
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* 2.トランプ47枚を5枚ずつ、人数分配る *
* (5枚でなくても問題はない。これを手札とする) *
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* 3.配り終えたら、残ったトランプにジョーカーを混ぜてシャッフルする *
* (これを山札とする) *
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* 4.以降は7並べのルールでゲームは進行する(ローカルルールはご自由に) *
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* 5.手札からカードが出せない場合、パスではなく山札からカードを引く *
* そのカードが場に出せなければ手札に加える *
* なお、引いたカードは他プレイヤーに開示しなければならない *
* 引いたカードがジョーカーの場合、そのプレイヤーは負けとなる *
* その後、敗者の手札とジョーカーを山札に戻してシャッフルする *
* (引く枚数はある程度自由にすればギャンブル性が増す) *
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一位が最下位に命令をする、という罰ゲーム付き。人間関係崩壊も視野に入れなければならない。
プレイヤーの情報はこんな感じ。
◇藤吉
百合子を一位にさせないことが目的。勝ちたいわけではないので、それほど困難な目的ではない。
今回の肝となるジョーカーに印をつけているので最有力。得てして主人公ポジションは勝ちやすいのがギャンブル作品の特徴。
◇百合子
人生ゲームぶっちぎりの最下位の腹いせで今回のゲームを提案した人。
自分が一位に、藤吉を最下位にさせるという高難易度の目的を抱く。
愚直なほどに真っ向勝負だが、付き合いの長い里緒菜に対してはアドバンテージを得ている。
◇里緒菜
出る作品を間違えている人物。めだかボックスに出てきそうなインフレキャラ。
今回は勝ち負けには興味はないので気楽なもの(勝てればいいな、ぐらい)。
相手のカードが把握、すり替えなどのイカサマが可能、そして藤吉がつけたジョーカーの印にも気づきそうな観察力もあるので勝ち馬確定なのだが、7並べのルールを知らない危機的状況。
藤吉から配られた5枚のカードを手に取り、里緒菜はじっくりとそれらを見つめた。
5枚のうち、スペードの6とダイヤの8があるため、少なくとも二巡は手札から出せる(ジョーカーによる敗北の心配がない)のだが、ルールを知らない里緒菜にはその優位性に気づけるはずもない。
(そもそも、このゲームはどうやってスタートするんだろう。まずゲームの名前から考えてみよう。元は7並べというゲームだ、そこから思うに、きっと7のカードを並べるゲームに違いない)
――ちらり(里緒菜、場に置かれた4枚の7を見る)
(……そう思っていた時期が俺にもありました。てっきり配られたカードの中から7のカードを早出しするもんだと思っていたのに。でも、そうなると山札の意味がわからないよなぁ。出せなくなったら引く……そういうゲームもあるけど、山札が一つだけだから違う気がする)
里緒菜は改めてルールを思い返した。
(さっきの説明で気づいたけど、今回、通常の7並べと比べて異なる点がある。それが『山札』だ。本来は山札の代わりにパスがある、これが正規ルールらしい。そこから推測するに、出せなくなったら山札を引く→出せなくなったらパスをする、ということだ。なので7並べは、おそらく神経衰弱のように順番制なのだろう)
「さー、始めようかー。誰からするー?」
内心ヒヤヒヤしながら里緒菜は言ったが、二人の様子に変化はない。推測した順番制は正解だったようで、ほっと胸を撫で下ろした。
(問題はここからだ。まだゲーム開始後のルールについて確信を得ていない。せめて手札の良し悪しがわかればいいんだけど……ここは二人の様子を見てルールを把握する!)
「里緒菜はこのゲームは初めてだから、先手を譲ってやろう」(7並べは先行に優しくないゲームだが、もちろん知らないよなぁ?)
「ふぁっ!?」
(まてまてまて、ちょっと待ってよお姉ちゃん。それはマズい、ぜったいボロが出る。……いや、もしかして!? 7並べって先手が有利なのか!? 譲る、て言うぐらいだし!)
「えー、何だか申し訳ないよぉ。お兄ちゃん、したら?」
「ん、僕? あ、じゃあさっきの人生ゲームの順位の順番でしようか。たしか里緒菜ちゃん、僕、百合子さんだし、それで」(これで僕の次の百合子さんになった。勝ちパターン入ったな)
「ふぁ、ふぁっ」
(ダメだ、これ以上の反論は不審に思われる……これはもう、一巡目は切り抜けるしかない。考えろ、考えるんだ……!)
里緒菜は手に持っていたカードをトントンとまとめ、改めて扇型にする。何度見ても手札の意味がわからない。
(手札はこの際、捨てる。意味はもちろんわからないし、そもそも手札と場の関係がわからない。あの7に対して何をするのか、あるいは7を手札にどうにかするのか、まったく不明だ。だから、今わかっているルール……そう、パスの代わりに山札を引く、だ。これが光明なのだ!)
「3枚引きまーす」
「初手からか、運がないな」(なるほど、誤魔化してきたか)
「そういうこともあるよね」(この子のことだ、出せるカードがあっても貯め込んでいる可能性もあるな。やっぱり警戒すべきは里緒菜ちゃんか)
山札から3枚引き、それらを表向きに並べた。スペードの9、ダイヤの9と10。その内容に藤吉と百合子は戦慄する。
「じゃあ、次は僕だね」(手札潤ってるなぁ。まあ、注意がそっちに向いて僕的にはありがたいけど)
「そろそろ出していこうじゃないか」(私の勝利が遠のく……が、ルールがわからない以上それは絵に描いた餅だ)
「……」(出していこう……なるほど、手札からカードを出すのか)
続いて、藤吉の番。
「さて、僕も山札から引こうかな」(ほんとに出せるカードがない。トップにジョーカーがあったら終わってたな)
藤吉は山札に手を伸ばし、1枚引いて、テーブルに置く。
「まずは1枚。あちゃ、絵札だ」
続けてもう1枚。
「また絵札だ」
そして、もう1枚。
「クローバーの4。誰か、5と6出してよ」(里緒菜ちゃんみたいに3枚一気に引いちゃうと、その中にジョーカーがあったらそこでアウト。なので一枚ずつ引いて、それを三回繰り返す。そうすると一枚ずつ確認できる上に、不自然でもない。これでジョーカーがトップに来るまで引き続ける!)
「なんだなんだ、誰も出さないのか」(クローバーの5と6は持っている。これは私に勝利の女神……同性だから微妙な気分だが、微笑みかけているのだろう。もちろんこれらは止める……が、出せるのはクローバーの6しかない。里緒菜にヒントを与えることになるが、これはしかたない)
百合子はクローバーの6を場に出した。それは里緒菜にとって大きな情報だった。
「じゃあ、二巡目行くねー」(動き始めたぜ、ゲームが! ビビっと来たぜぇこれは! クローバーの7の隣に6が置かれた! つまりこれは『隣接する同じスートに続く数のカードを置く』ってやつじゃないのかぁ!? ……が、だが、だがだ。6は置けたが、逆の8はどうなる? もう置けるのか? あるいは、何らかの縛りルールがあるから置けないのか? まさか、クローバーの6が置かれたから、他のスートは置けない、ということは……)
もう一度パスをする、という手もある。だが、山札の残り枚数は28枚、3枚引けば単純に考えれば約九分の一でジョーカーを引き当てることになる。圧倒的な身体能力を持ちながら、同時に慎重さ、臆病さも持つ里緒菜には、この確率は少し怖かった。
「んー、なら、これ!」
里緒菜は恐る恐る、スペードの6を出した。ダイヤの8は、他のスートの8が出されるまで待ち、という結論だった。
スペードの6に対して、藤吉と百合子は落胆した様子を見せた(通常ではわからないぐらいの変化だが、里緒菜の観察眼にはそれらをとらえることができた)。
「やっと7並べっぽくなってきたな」(やはりルールを知られたか)
「僕の番だね」(まだ出せるカードがない。僕もいちいち綱渡りだなー)
まずは一枚。続けてもう一枚引いて、藤吉は手を止めた。
「今回は二枚にしよう」
「出せるカードはないようだが?」
「出せるカードがない、なんて言ったっけ?」
藤吉の言葉に百合子はむっと表情を歪めた。出せるカードがあったのに出していないなんて――と、そんな心の声が予想できた。
だが、藤吉の手札に出せるカードがないというのは事実である。それなのに今回は二枚で止めたことには理由があった。
(……次のカードが、ジョーカーだ)
こっそりとカードの隅につけた印が見えていた。つまり、次に山札を引く=敗北なのだ。
(でも、同時に僕もピンチだ。これから二人が、後に続くようなカードを出してくれなければ僕の負けだ。初手がブタだったのは運がなかった。でも、勝機を見出すにはそれぐらいの覚悟は必要……!)
引けば即敗北、という条件の中、順番の回ってきた百合子は悩んでいた。
(今出せるカードはクローバーの5のみ。しかしこれを出すと藤吉くんの持つクローバーの4が出される。ここはパスとして山札を引く、というのもあるけれど……)
百合子はクローバーの5を場に出した。
(私が出し惜しみしても、里緒菜が出してそこから続いたらあまり意味がない。ジョーカーというリスクを犯す必要はないな)
狙っていた百合子がジョーカーを回避したが、藤吉はさして気にすることはなかった。それはクローバーの4が出せる状況になったことと、ジョーカーに印がついている限りはチャンスはあり続けるからだ。
そして三巡目。里緒菜は追い詰められていた。
(ダイヤの8……8って出していいのだろうか。もう6以下の数字で出せるカードがない。しかし、いきなり8を出すような度胸はない。誰かが出すまで待っていたい……)
ようやくルールを知らないことが仇になった。里緒菜は山札に手を伸ばし――トップのカードに触れた。
・・・つづく