Neetel Inside ニートノベル
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制服撲滅委員会
:対話

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「アキラ先輩ですよね?」
 面識が全くないはずの一年生。なんだかツバキと初めて会った時を思い出す。
「話があります。上の音楽室に行きませんか? ここじゃまずいので……」

[:対話]

 見知らぬ一年生の後ろを歩き、音楽室へと向かう。
 本当ならこれから例の同好会の集会があの理科室で行われるはずだったのに、こんなことをしていて本当にいいのか俺は?
 音楽室の扉の鍵は開いているようで、一年生が何の躊躇もなく扉に手を掛けて「どうぞ、先輩」と俺を招いた。
「あ、ああ……」
 疑心暗鬼のまま、音楽室に入り、扉の横で俺が入るのを待っていた一年生が扉を閉じた。
「で、なんなんだ? こんなところに俺を呼び出して」
「そんな疑ったような目で見つめないでくださいよ」失笑しながら一年生は続けた。「別にここで先輩の性癖を提示して、同好会に入らない? なんて勧誘はしません。むしろ先輩を助けに来ました」
 どういうことだ? なんなんだ? 何故知っているんだこいつは? 誰なんだ? もしかしてツバキと同じような目的を持ってて俺を付け回していたのか?
 慌てふためく俺を見て、一年生は再び失笑し。
「だから、そんな疑いの目を向けないでくださいって、アキラ先輩。僕は知っています。アキラ先輩がツバキさんに脅され、そして変な同好会に無理矢理加入させられていることも。全部知っています」
「お前……なんなんだよ?」
 瞬間、その一年生は目をキリっとさせ。「とりあえず座りましょう。立ちっぱなしで話すのも疲れるし。どうぞ」と手を椅子のほうに差し伸べたので、俺は差し伸べられた先の椅子に座った。
「自己紹介がまだでしたね。僕はサメジマ。一年生のサメジマっていいます。よろしくお願いします」
「俺の名前は……もちろん知ってるよな」
「ええ」
「で、単刀直入に訊く。目的はなんだ? これ異常面倒なことに巻き込まれるのは正直厄介だ」
 サメジマは口を隠すように頬杖をして。
「先輩はツバキさんのことどう思ってるのですか?」
 これはもしかして、こいつ、ツバキのことが好きなのか? 中学の時の後輩か何かで、俺がツバキの周りにいるのが面倒で、俺のことを調べあげて……まさか……ツバキのストーカーか?
「どうもこうも……別に」
「別に?」
「友達だと思っているが?」
「友達……ですか……本当ですか? 僕が見る限り、先輩はツバキさんに脅されていやいや同好会の設立を手伝わされた。それなのに時折見せつツバキさんの素顔に心惹かれている。違いますか?」
 何故こいつはここまで知っているのだ? ツバキのストーカーというよりも、これじゃ、俺のストーカーじゃないか。なんなんだこいつは?
「言葉にしないってことは、ドンピシャってことですね」サメジマは背もたれに体重をかけて背筋を伸ばして。「安心してくだしい。別に僕はツバキさんのことが好きとかそういうわけではありません。ツバキさんの目的を阻止することが僕達の目的です」
 今頃とぼけても仕方ない。こいつは全部知っている。その上で俺は訊いた。
「目的? あの同好会のことか?」
「そうです。でも、あの同好会はたんなる目的に達するための手段でしかありません」
「手段? 一体何を言ってるんだ?」
 サメジマは頬杖をしながら。
「考えてもみてください。あんな同好会どう考えてもおかしいでしょう。周りに知られてしまったら即施設に送られるような、そんな超秘匿的性癖を晒して心を解放しましょう。なんて」
 少し違う。ツバキは心を解放しましょうなどとは言っていない。痴態を共有し合おうとしているだけだ。
「そうか。それでなんなんだ?」
「僕は先輩に警告――と言うよりも、先輩を救済しにきました。晒し者にされないための」
「どういうことだ?」
「詳しくは今言えませんが、先輩はツバキさんに利用されています。そのことは先輩もわかっているはずです」
「あぁ……」
「何故利用されているのか、よく分かっていない。同好会内での心の解放。それがツバキさんの最終的な目標だと多分、先輩はツバキさんから言われていると思いますが、それは先程も言いましたがツバキさんが目指す最終目標のための経過でしかならない。言い換えれば単なる途中式でしかない」
 さっきから同じようなことを言い返して、確信を言わない男だなこいつは……少しイライラしてきた。何故一年にこんなこと言われなければならないのだ? 逃げ道が無くなったとはいえ、一応、俺は俺の意志でツバキと一緒にいるんだぞ? こいつはそれを分かっているのか?
「先輩が言いたいことはわかります。こんな一年坊主になんでこんなこと言われなくちゃいけないのかって。しかも俺は自分の意志でツバキさんについているんだぞと。こんな初対面の奴に口出しされたくないって。でも先輩。分かっていると思いますが、先輩の秘密を握っているのはツバキさんだけじゃない。僕も知っていますよ。先輩が盗撮してること」
 こいつ……まさかツバキと同じ手口で俺を脅そうってわけなのか? さっきはそんなことしない的なことを言っていたのに、結局これかよ……第一なんで知ってるんだよ、なんなんだよこいつ……。
「先輩、僕は別に脅すつもりはない。ただ、これから一ヶ月間、先輩は僕の言われた通りの行動をすればいい。それで何もなければ僕のことをツバキさんに言うといい。ただ、一ヶ月間、先輩の時間を貸してください。その上で、判断してください。僕か、ツバキさん、どっちが正しかったのか」
 またか、結局逃げ道はないのか。
「分かった。で、俺は何をすればいいんだ?」
「一ヶ月間、同好会の集会には出ないでください」
「なっ」
「それと、あたかもツバキさんと付き合っているような素振りをして、周りに事実上のカップルとして周知されるように動いてください。それだけでいいです。あ。あと、一ヶ月間僕と接触したってことは誰にも話さないでください。それだけでいいです」
 さらりととんでもなく難しいことを言っていた気がするのだが?
 サメジマは頬杖をしながら俺のことを見つめ、笑っていた。

       

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