Neetel Inside ニートノベル
表紙

制服撲滅委員会
:強奪

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「作戦スタートだよ、アキラくん」
 小さな声で、俺を促すようにツバキは言った。
 やりたくない、本当はこんなことやりたくないと落胆してる俺の横でツバキは楽しげな表情で目標人物、いや、肥えた獲物をを見つめていた。

 
[:強奪]


 クラスは違うとは言え、同じ学校の、同じ学年の男子を後ろからつけ回すというのは、正直気持ちのいいものではない。
 これが女子ならば、俺は単なるストーカーしてる変態、犯罪者になるのだろうが、相手が男で俺も男という時点で話は更にややっこしくなる。
 しかも俺一人でだ。ツバキはツバキで、作戦が失敗した時の保険として、あたしは別行動するね。と言い残し、何処かえ消えてしまった。失敗した時の保険? 結局、俺は捨て駒なのか。あとにも先にも、失敗は許されない。あのカバンを強奪する以外にここまで来てしまった俺には未来がない。
 一歩一歩、足音すら立てずに静かに、静かに、相手の後ろを尾行する。不自然な雰囲気を出しては周りに白い目で見られるのはなんとなく分かっていたので、あくまで自然体でだ。
 人気のないところに行ったら、ダッシュしてカバンを奪い取る。人気のないところに行ったら、ダッシュしてカバンを奪い取る。人気のないところに行ったら、ダッシュしてカバンを奪い取る。
 同じ言葉を自分の中で何回も、何回も、こだまさせる。失敗しちゃダメだ。失敗しちゃダメだ。
 逃げるって手もある。でも、逃げた先には施設が待っている。性人として生まれ変われる施設がある。自分が自分でなくなってしまう施設がある。
 でも、あの盗撮の証拠を持ってるのはツバキだけだ。もしかしたら、ツバキをどうかすれば、俺は、自由になれるんじゃないか? 自由になれるんじゃないか?
 分からない。でも、俺はやるしか無い。逃げ道は、あのカバンを奪い取ることしかない。
 自分でも、自分がどれだけ混乱してるのかがよく分かったけど、分かったところで、冷静になれる環境に今いるわけでもないし、俺は――と、その時だった。調度良く、目標人物が裏路地に入っていった。
 確かあそこは、この時間帯なのに人気もなく、カバンを奪い取るには丁度いい場所かもしれない。
 体格差はあるとはいえ、あっちはただのデブだ。資料に持っていたことだが、運動の成績は随分悪く、さっきからつけていて思ったのだが、歩くのも遅いし、まだ春だというのに、度々ポケットからタオルを取り、額の汗を拭いていたところから見ると、俺でも勝てそうな気がする。
 息を整え、静かに裏路地に入った瞬間だった。今まで俺の目の前を歩いていたはずの目標人物がが消え失せていた。おかしい。ここは一本道なはずだ。走ってここを通り抜ける? あの短時間で二百メールはあろう、この道をあの巨体で走り抜ける? 無理だろ……。
 意味がわからない。何処へ消えた……何処へ……。
「あの……あなたですか?」
 後ろから声が聞こえた。滑舌の悪い、鼻息の洗い声。うろだろ……とゆっくりと後ろを振り向くと、さっきから俺が付け回していた目標人物がそこに立っていた。
「なんなんですか……あなた。僕の後ろをつけまわして……どういう趣味してるんですか……」
 言葉が出てこかなった。素直に意味がわからなかった。
 歩いている途中に考えていた有象無象も全て吹き飛んでいた。
 何故、この男は俺の後ろに立っているのだ? 何故だ? なぜ気づかなかった?
「その……なんだ……ええっと……」
 これもツバキの作戦なのか? いや違う。あいつは俺にカバンを奪ってくれとだけ言った。これが作戦? どういうことだ? 失敗も何も始まる前に終わっちまったじゃねーか……どうするんだよこれ……。
「なんなんですか? 僕になんかようなんですか?」
 目の前にして思ったが、でかい。とにかくでかい。横にも縦にもでかい。不意打ちでなら勝てそうな相手だが、正直、正面切ってだと俺に分が悪い。押しつぶされる。
「ようってわけでもないんだが……その……なんだ……」
 歯切れの悪い俺に苛ついてるのがすぐに解った。
「あのですね、僕は、いつも人から見られる、こういう体型ですからね。だから人の視線って言うものに僕は敏感なんです、それで、あなたは学校を出た時からこうやって一人で僕のことを追い掛け回してましたよね。同じ道を通ってるのに、あなたは気づきもしてないように僕のことを追い回してきましたよね……? 何が目的なんですか? お金、ですか? それとも、なんなんですか?」
 最初から気づかれていたのか。しかも同じ道を通っていたなんて気づきもしなかった。
 正直に話してしまおうか。俺は君のカバンを意味もわからず奪おうとしてたんだ。って。そのほうが楽になれる。そんな気がする。その後、こいつがどういう反応をするのか、それは分からないけど。そうだ、言ってしまおう。楽になろう……。
「そのだね――」と俺が口開いた瞬間だった。
「ねね、あなた、カバン空いてる……よって、なにこれ!?」
 巨漢、目標人物の後ろからツバキの声が聞こえてきたと、同時に巨漢の後ろからツバキが出てきて。片手に十八禁の本を持っていた。
「ねね、これ何? なんなの、これ?」
 みるみる内に巨漢の顔が青ざめて行くのが分かった。バレてしまったとかそういうレベルではない。まるで次に死ぬが自分だと分かっていても死ななくては行けない表情。あの時の俺もこんな表情をしていたのだろうか。
「それは……僕の……カバンから出てきた? 物なのか?」
 どうようしているのか、言葉が言葉になりきれてないまましゃべる巨漢。
「違う。きっと、それは僕の、本じゃない。あなたのホンだ。僕のカバンに、そんな変な、もの入ってるわけがない」
 その言葉を聞いて、ツバキが目を光らせた。
「ふぅーん? じゃあ、カバンの中見せて?」
「カバン? 誰のカバン? 僕のカバンじゃなくて、このホンは君が持っているということは、君が、君のカバンを見せてもらうのが一番いいんじゃ、ないのかな?」
「違う。この本はあなたのカバンに入っていたもの。カバンのチャックが空いてるでしょ? それを注意しようと思ったら、たまたま間から見えちゃってね。ゴメンね?」
「ごめんね? チャック空いてる? ありがとう。でも、これは僕のカバンに入っていたの?」
「そう。こいういものを免許なしで所持してる、しかも未成年ってことは、あたしは施設にこの事を通報しなくちゃいけない。国民の義務として」
「コクミンの、義務? それは、僕のホンでカバンは君の中のカバン?」
「そう。通報は国民の義務。世の中をより良くするため、アブノーマルの人達を淘汰し、世の中を良くするための義務」
 ツバキの顔は今までにないほどに無表情だった。何の感情もなく、まるで台詞をいやいや言っているだけの役者とでも言えばいいのだろうか。
「うるさい! うるさいうるさい!」
 瞬間のことだった。ツバキに一方的に言われ続けていた鬱憤と俺に付け回されていた鬱憤が爆発したのか、目の前に居たツバキを押し倒した巨漢。
「うるさい! 分かった! お前らグルなんだな! そうやって、俺の、大切なコレクション! を! 奪って! それで! 通報するとか脅して、俺から金を巻き上げようって言うんだな! 分かってんだよ! いつもそうだ! 見た目で、オタクとか言われて、金を巻き上げられる! どうして、なんだよ! どうして俺! なんだ! よ!」
 まるで今までの人生の中でためいた鬱憤をツバキの制服を破くことで発散しているかのように、ツバキの制服をビリビリにやぶきはじめた巨漢。
 しかし、ツバキはあの無表情のまま、低こすること無く制服を破られ続けた。何をするわけでもない、何を言うわけでもない。
「お、おい! なにしてるんだよ!」
 これ以上はヤバイ。これ以上、こいつを頬っておけば、ツバキが危ない。危ない? 別にいいじゃないか。俺はこいつに秘密を握られているんだぞ? 別にいいじゃないか。俺もこいつと一緒にやっちまえばいいじゃないか。そうだよ。いいんだよ。
 そんな考えをよそに、俺はこの巨漢を羽交い絞めにするが、力が強すぎてうまく決まらず、未だに暴れまわっていた。
「離せよ! 金だろ! 金なら後で出してやるよ! でも、この女だけはなんか、許せねない! だ!」と俺の方に顔を向け唾を飛ばし叫びぶ巨漢。
 体臭もさながら、口臭もかなりひどい。なんなんだこいつは……。
「やめ! ろ! 昔は、こんくらいの本! みんな、持ってた! だろ! ふざけるな、よ! ああ!」
 瞬間、下に押し倒されてるツバキが、巨漢の頬に手を当て。
「そうだね。昔はそうだったかもしれない。でも時代は変わった。こんな息苦しい時代に。だから――」

       

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