紅魔館の完全で瀟洒なメイド、十六夜咲夜は家事が苦手だった。
今日も時を止め、洗濯物を干す作業が始まる。
咲夜は一つ一つ落とさないように注意しながら洗濯物を干し始めた。
お世辞にも手際がいいとは言えない。当たり前だ。
彼女が完全で瀟洒なメイドでいられるのはただ一つ、時を操る程度の能力のおかげなのだから。
どんなにドジでノロマな人間でも、時を止めることさえできれば一瞬で完璧に家事をこなすことができる。
それは誰にも言えない咲夜の秘密だった。
「あっ……」
うっかりタオルを一つ落としてしまった。
しかし一つだけなら何食わぬ顔で洗濯カゴに入れておけばいい。
先日は洗い終わった洗濯物をカゴごとぶちまけてしまい、もう一度洗濯する羽目になった。
それでも全てが彼女の止まった時の中で終わったので、何も問題はなかった。誰も気づくことすらない。
(この秘密は守り通さなければ。何としても)
元々騙すつもりはなかった。
ただ自分の家事能力の低さは自覚していたので、他の能力――時を止める能力でそれを補っていただけだ。
ほんの少しやりすぎて、いつの間にか「完全で瀟洒なメイド」などと言われるようになってしまっただけ。
しかしもう後には引けなかった。
(……干し終わったら、少し休憩しよう)
もちろん時は止めたまま。
洗濯物を干し終わってしばらく休んだ後、時は動き出した。
ふと門の方を見ると美鈴が寝ていた。立ったまま。
ついさっきまで自分も決して誰にもバレない休憩をしていたことを考えると少し胸が痛んだが、ここはメイド長として叱らなければならない。
「美鈴。起きなさい」
起きない。
美鈴は呑気に寝息を立てていた。
きっと美鈴は悪夢なんて見ないのだろう。
少なくとも、誰かが「時を止めれば完璧に家事ができるのは当たり前だ」ということに気づいてそれを指摘し、咲夜を完璧なメイドだと信じているレミリアがそれに憤慨して「咲夜、時を止めずに家事をしなさい」と言い出して窮地に陥るような悪夢は。
(あーあ。私も最初から美鈴みたいなキャラでいけば良かった)
どうして無理に完璧超人を演じたりしたのだろう。
もっとも、背伸びしなければメイド長にはなっていなかったかもしれないが。
八つ当たりだと分かっていても無性に腹が立って、寝ている美鈴にナイフをぶっ刺した。
おわり
新都社漫画でパロ小説
東方虹都杜
細かい設定は気にしない
空の上から弾幕ごっこらしき光を発見した射命丸文はすぐさまそちらへ向かった。
何か面白い事件かもしれない。
が、すぐに期待外れであろうと気付く。
見慣れた巫女や妖怪や神々のそれと比べれば、目の前の光は弾幕と呼ぶことすらためらわれる。
端的に言うとショボかった。
それでも一応弾幕ごっこをしている二人が視認できる場所まで飛んだ。
「ふむ……」
人間だ。
どう見てもただの人間だ。
飛ぶことすらできない、ただの人間二人が弾幕ごっこを展開している。
写真に撮る価値すらないと思われた。
しかし何かが引っかかる。
違和感の正体にはすぐに気付いた。弾幕初心者の練習ですらないのだ。交互に決まった通りの弾幕を展開し、それを避けている。まるで劇の練習か何かのように。
そこまで分かると彼らの意図に気付くのも早かった。
思ったよりも記事になりそうだ、と文がカメラを向けた瞬間。
グシャッ。ピチューン。
弾幕劇に興じていた人間二人は潰されていた。
潰れた二人の傍らには八雲紫の式、八雲藍。
「ひどいですねえ、シャッターチャンスを逃がしてしまいましたよ」
「それは良かった。こんな事が人間に広まるのは困る」
「確かに、文々。新聞の記事になれば幻想郷中に広まりますからね。……ところで、後何回か殺すおつもりですか?」
そのセリフが言い終わらない内に潰れた人間たちが元通りの形へと戻っていく。そして完全に元に戻った瞬間に再び藍に潰された。
グシャッ。ピチューン。
「もちろん。仲間内のくだらん弾幕ごっこで増やした残機分は潰させてもらう。何もこんなことをしなくても里で普通に暮らしていればそうそう残機が減ることはなかろうに」
「ふふ、人間というのは面白いことを考えますね」
さして強くもない人間が己の命を守るためには、残機が多いに越したことはない。ましてやそれが仲間との示し合わせた弾幕ごっこにより簡単に手に入るのであれば。
もっとも人間たちがこぞって残機を増やし始めれば妖怪への畏れがなくなり、いずれ幻想郷は外の世界の二の舞になってしまう。なればこそ八雲藍が横槍を入れに来たのだろう。後は藍が増やした残機分を減らすだけだ。
こうなってしまっては記事にもできない。諦めて文は飛び立った。愚かな人間たちのピチューン音を聞きながら。
幻想郷の人間の存在意義は、妖怪を畏れることだけだというのに。
おわり
空の上から弾幕ごっこらしき光を発見した射命丸文はすぐさまそちらへ向かった。
何か面白い事件かもしれない。
が、すぐに期待外れであろうと気付く。
見慣れた巫女や妖怪や神々のそれと比べれば、目の前の光は弾幕と呼ぶことすらためらわれる。
端的に言うとショボかった。
それでも一応弾幕ごっこをしている二人が視認できる場所まで飛んだ。
「ふむ……」
人間だ。
どう見てもただの人間だ。
飛ぶことすらできない、ただの人間二人が弾幕ごっこを展開している。
写真に撮る価値すらないと思われた。
しかし何かが引っかかる。
違和感の正体にはすぐに気付いた。弾幕初心者の練習ですらないのだ。交互に決まった通りの弾幕を展開し、それを避けている。まるで劇の練習か何かのように。
そこまで分かると彼らの意図に気付くのも早かった。
思ったよりも記事になりそうだ、と文がカメラを向けた瞬間。
グシャッ。ピチューン。
弾幕劇に興じていた人間二人は潰されていた。
潰れた二人の傍らには八雲紫の式、八雲藍。
「ひどいですねえ、シャッターチャンスを逃がしてしまいましたよ」
「それは良かった。こんな事が人間に広まるのは困る」
「確かに、文々。新聞の記事になれば幻想郷中に広まりますからね。……ところで、後何回か殺すおつもりですか?」
そのセリフが言い終わらない内に潰れた人間たちが元通りの形へと戻っていく。そして完全に元に戻った瞬間に再び藍に潰された。
グシャッ。ピチューン。
「もちろん。仲間内のくだらん弾幕ごっこで増やした残機分は潰させてもらう。何もこんなことをしなくても里で普通に暮らしていればそうそう残機が減ることはなかろうに」
「ふふ、人間というのは面白いことを考えますね」
さして強くもない人間が己の命を守るためには、残機が多いに越したことはない。ましてやそれが仲間との示し合わせた弾幕ごっこにより簡単に手に入るのであれば。
もっとも人間たちがこぞって残機を増やし始めれば妖怪への畏れがなくなり、いずれ幻想郷は外の世界の二の舞になってしまう。なればこそ八雲藍が横槍を入れに来たのだろう。後は藍が増やした残機分を減らすだけだ。
こうなってしまっては記事にもできない。諦めて文は飛び立った。愚かな人間たちのピチューン音を聞きながら。
幻想郷の人間の存在意義は、妖怪を畏れることだけだというのに。
おわり