僕ね、お父ちゃんとお母ちゃんのために頑張るよ・・・
毎日のように自分に言い聞かせてきた言葉・・・
毎日のように働いた・・・
僕の仕事は畑仕事、野菜売り、飯作りで1日が終わる。
別に僕のうちは裕福ではなかったが、酷く貧乏してもいなかった。
ごく普通の生活であった。
野菜が売れなくば売れるまで売って、どうしても売れなくて家に帰れば「何しとるか
!はよお晩飯のしたくしろ!!」「準之助!まあた!売れなかったんか!文無しで帰ってきよって!」とお父ちゃんとお母ちゃんに酷く怒られる。
もっとも酷い時は、暴力を振るわれる。
お父ちゃんとお母ちゃんはいつもゴロリゴロリとねっころがりぐ~たらと1日が終わる。
それでも僕はお父ちゃんのためお母ちゃんのため、喜んでもらうために毎日毎日働いた。
「この野菜が全て売れたら、お父ちゃんとお母ちゃんたいそう喜ぶろうに・・・銭こたくさん稼いで家族みんな幸せになれるだろうに・・・たんせい込めて育てたんじゃきっと全部売れる日が来るだろう・・・」
準之助「お父ちゃん、お母ちゃん。行って来るよお。銭こ沢山稼いで来るかんな。」
準之助は野菜の入ったかごを背負い込むと、町まで歩いて行った。
「おい!準之助!」
準「あ、秋介。綿女。久しぶりじゃの」
野原から幼き女と男が準之助の前に飛び出した。大体準之助と同じぐらいの歳。
男の子はざんばら頭で紺色のおべべと女の子はおかっぱで華柄のおべべを着ていた。
秋介と綿女と準之助はとても仲の良い友であった。
準「どうしたんか?僕をびっくりさせようといたずらしかけとったな?」
秋「準之助、またお父ちゃんお母ちゃんに頬ぶたれたんか?」
準「ああ、でも僕が悪いんで。お父ちゃん母ちゃんを怒らせた僕が悪いんで。・・・・稼ぎも最近悪うなったもんだから、しょうもないもんだ。」
綿「・・・あんた、大丈夫なん?」
準「大丈夫って・・・なんで?」
秋「俺達、お前の事すごく心配してるんだよ。お前、親からぶたれるって、そのうち準之助、お前が死ぬんじゃないかって・・・・」
準「へ?死ぬ?誰が?僕が?そんなことあるわけないだろ?」
綿「あるかもしれぬから、言うのだぞ!?」
秋「おい、準之助。お前を夜迎えに行くから」
準「なんで?」
綿「なんでって・・・逃げるに決まってるでしょ!?」
準「逃げる?なぜに?逃げたらお父ちゃんお母ちゃんが悲しむ。」
秋「お前、甘い考えはよしておけ。それこそ死を招くことになるんだろが。」
綿「そうだよ。秋介の言うとおりさ。準之助。あんたは金儲けさせるだけのために利用されてるに違いないだろう!?」
準「ははあ・・・綿女、秋介。お前らまた、僕を騙そうとしとるな?いくら、お前達の頭の良さに負けたとも・・・もう、騙されんぞ」
秋「騙しておらん!」
綿「お前が騙されとるんじゃ!準之助!」
「そこの幼子達、何を争っている?」
綿「何用・・・あ・・・!」
秋「綿女?・・・・あ!!」
綿女と秋介の顔が凍りついた。
「ん?・・・野菜売りかい?かわいいねえ。」
真っ赤なはおりものにきつねの首巻、銀色の光る髪、吸い込まれそうな赤い目、なんとも貴高そうな老婆が準之助と目線が丁度会うくらいに腰を低く下ろした。
準「そこのお方、僕が一生懸命育てた野菜買おてくれませぬか?」
「ほお?お前さんが育てたのかえ?そんな小さな体で、さぞかし大変だったのだろう?」
準「はい、肥料を撒くにも体力を使いますし、水を撒くにも一苦労でございました。ですが、たんせい込めて作りました。しかし、あまり売れないのです。売れなくば、お父ちゃんとお母ちゃんにこっぴどく叱られまする。」
「叱られる・・・とな?」
準「はい。親に楽させとおございまして。」
老婆はニコリと笑みをこぼした。
「それは、良いことじゃが無理をせぬようにな。しかし、毎日このような仕事をしておると見たな。大変顔色があまりよくないぞ。頬も少し腫れ上がっておるが・・・」
準之助は急いで頬の腫れを隠すようにし、
準「ああ、これは・・・少々壁にぶつかってしあいまして・・・」
「壁?」
準「はい。ちょいとドジをはずしまして・・・」
「ほほう。だが、壁にぶつかったぐらいで頬が腫れるのか?」
準「へへえ、奇跡みたいなもんで、変なぶつかり方をしたのでしょう」
「でしょう?」
準「そこまで覚えてなくて、なんせ3歩あるけばケガしたことなんぞ忘れてしまうもんで」
老婆は甲高い声で大笑いを始めた。準之助も綿女も秋介もびっくりして飛び上がりそうになった。
「お前さん、なかなか面白いのお。おっと、商売の途中であったな。長話をついついしてしまった。私の悪い癖でな。お詫びとして、そのかごの中にある野菜を私に全部売ってくれぬか?」
準「え、ええ!!?ぜ、全部!!?」
「駄目か?」
準「い、いえ!!うれしゅうございます!!!ありがたい!ありがたい!」
準之助はうれし涙をこぼしながらおもいっきりの笑みを浮かべた。
「そういえば、そちの名をまだ聞いてなかった。名はなんと言う?」
準「へえ!準之助って申します!」
「ほお、準之助・・・・よい名だ・・・」
準「そういってもらえると僕もうれしいもんです!僕も気に入ってるんで!」
「そうか・・・・」
老婆はなにか悲しそうな目を浮かべていたがすぐに我に戻った。
「お、そろそろもどらなくば・・・」
「ありがとうございました!」
老婆は準之助にお金を渡すと大量の野菜を背負って小走りで去っていった。
準「・・・・こんなうれしいこともあるもんだね」
綿「まさか、統領の白銀様にお会いできるとは・・・」
秋「ああ、俺達すげえな・・・」
準「へ?統領?」
秋「は!?お前知らないのか!!!???白銀様を!」
綿「あのねえ、白銀様はこの村、この国つまり和国全体をおさめてるお偉い人だよ!」
準「え・・・・ええええええ!!?」
秋「そんなお偉い人を話してるお前もすごいよな。」
綿「誰にでも自慢できちまうよ!白銀様と話ししたなんて!!」
準「お父ちゃん、お母ちゃんに話してもすごいかな・・・僕」
秋「そりゃそうだぜ!これで、お前のこと見直すかも知れねえゼ!」
準「そ、そっかあ」