Neetel Inside 文芸新都
表紙

ぼっち企画
低俗高次元/和田 駄々

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「うっす。神です。これから生物滅亡させますんで、よろしくお願いします。
 まあね、急に言われても納得いかないっつか、何言ってんだこいつ、みたいになるとは思うけど、これ最初で最後の僕らからのメッセージになるから出来るだけマジに聞いてくれ。
 箱庭思想とかインテリジェントデザインとか言う人もいるんだけど、この宇宙があって、まあ地球があって、ほんで人類がいて、みたいなのを、途方も無い誰か、知性とか神とかね、そういうのが全部考えて作ってんじゃないか、みたいな考え方が、まあ、ありますよ。信じる人も信じない人もいますけど、確かめようがないから、まあ結局そこは、そういう可能性もあるんちゃう? みたいな話で大抵終わっちゃうんですけど、えーとまあ、率直に言うとそれ、正解って事なんですね。
 僕ら宇宙作りまして、色々とこう、わじゃっとやりまして、生物が誕生する条件を満たした地球出来まして、よっしゃこれでしばらく遊ぼうかーってノリで、今は人類の方々がメインで住んでいてもらってるんですけども、それも今日までという事でね。こうして挨拶の方をさせていただいてる訳です。
 実はこれまでも何度か、似たような知的生命体は僕ら取り扱ってきたんですけども、あ、地球以外でもね。やっぱり大体みんな賢くなってきて、世代重ねていくと、気づいちゃう奴が出てくるんですね。あ、これ誰かに支配されてんな、って。まあでも大概は別にそれで滅亡どうのっていう風にはならないんですけども、たまーに、宇宙レベルでたまーにね、ドンピシャで当てる奴がいるんですよ。
 例えばね、さっきから気になってる人もいると思うんすけど、お前本当に神か? 神がそんなくだけた喋り方するんか? って、まあ普通思いますよね。でもこれ別に僕らの素の喋りって訳じゃなくて、その国のみんなに伝わりやすいように、あえて低レベルな言葉遣いを選んで、こうして訴えかけている訳で、あんまりこう、難しい言葉遣いすると分からない人も出てくるじゃないですか。そういうのを避ける為にあえてしてるんですよ。だって僕ら普段言葉なんて使わないですから。そんでこういう習性っつか、こうしてくるだろう的な事も含めて、いわゆる宇宙の外にいる僕らの見た目的なね、まあ分かりやすく言うと神の姿。そういう物をぴったし当ててくる奴が出てきてしまうと。ある程度時間が経つとね。
 それで僕らルール作りまして、もうそういう当ててきちゃう子が出てきたら、まあ、もう、終わらせようかって。何せ神の知性に到達した訳ですから、もうそれ以上の発展は別に面白くないじゃないですか。一旦滅ぼして、次にいこうかって話し合いで決めたんですよ。ここまで分かります?
 だから別に本当は、こんな案内とかいらないんですけどね、まあ一応。まあ一応、言っといた方が印象良いだろうし、最後の1日楽しんでくれや的な事で、こうして挨拶の方させてもらいました。えー、ありがとうございます。
 現状、全ての生物が絶滅した後の地球に関しては、その後しばらくしてクリーニング作業入って、もう1回到達する奴が出てくるまでとりあえず地球回してみて、みたいなノリでいきますんで、心配はいらないっす。あ、そうそうこれ言い忘れてた。その到達した奴ってのは、僕らの仲間になりますんで、人類捨てたもんじゃねえなって思いながら皆さん死んでいってください。
 それじゃ今回は、どうしようかな。前回水ぶっかけて大洪水だったから、今回煙でいきましょうか。うい、じゃあバルサン用意してー。さよなら、またね、ばいばーい」


 全世界で電波がジャックされ、テレビ、ラジオ、携帯電話から無線に至るまで乗っ取られ、以上のような音声が流れた。眠った人には夢でも流された。耳が聞こえない人には字幕で伝えられた。どんなマイナーな言語にも訳されていたらしく、おそらく人間以外の動物にも、この何とも間抜けな告知は伝えられていたようだ。
 その後、太平洋沖に突如として出現した円筒状の巨大な物体は、黒い煙を延々と噴出し、それに触れた生物は死体すら残さずこの世から消滅した。どういう原理なのかは全く不明だが、自称神の発言は冗談でも何でも無かった。某国が核ミサイルを撃ち込んだものの効果はなく、シェルターに逃げ込んだ人も、煙はあらゆる物体を貫通する性質を持っており、殺された。本当に滅亡するんだ、と皆が実感し、宇宙に脱出しようと試みる人間もいたが、混乱の中での打ち上げは大抵失敗に終わったらしい。そもそも宇宙へと飛び出した所で、近くに人類の住める星が無い以上、少しの延命にしかならないというのは誰にでも分かっていた。
 神からの啓示より24時間の後、黒い煙は地球全体を覆い、生物は完全に死滅した。偉大で謎で全能の、超適当で無責任な糞野郎である神の手により、確かに、人類は滅亡したはずだった。
 にも関わらず俺は生き残ったのだ。
「えっ、なんで!?」
 会社はもう無いのに設定はそのままだった目覚ましで、いつもの時間に起きた俺の第一声はこれだった。前日は実家に帰ろうとしたものの、あらゆる交通機関が麻痺していて不可能だったので、会社の同僚や近所の人、その手の繋がりでパーティーを催し、歌って騒いで踊ってそのまま疲れてぐっすりと眠っている内に……と怖がりな俺は希望したのだが、朝になっても俺はまだ地球にいた。皆で手探りながら作った歪なピザや寿司も、食べ残しがそのままある。
「誰か、誰かいませんかー?」
 その後はこの台詞一本で1日を過ごしが、街は完全に沈黙し、市民サイズの終末は俺に少しの希望も与えなかった。世界を覆った黒い煙はすっかりと晴れ、いつもの街はそのままに、生き物の気配だけを取り除いてぞんざいに置き去りだった。時折、最後の日に暴徒によって破壊された建物や、炎上し続けている車もあったが、概ねは平常通りで、とりあえず俺は前から一度だけやってみたかったスクランブル交差点のど真ん中で仰向けに寝るという行為をしてみたが、思っていたよりも意外と気持ちよくなかった。何せそれを自慢出来る相手がいないのだ。
 生命維持に関しては、とりあえず当分の間は心配ないように思えた。ありったけの食料を集め、自家発電機に繋げた大きな冷凍庫の中に入れ、そうしてまずは食べ物を確保した。死んだ生物は当然生きているとは認められなかったらしく、食料はどこにでも転がっていた。つまり俺はある日突然、最高級の松坂牛を1頭丸々食べる権利を俺は無料でもらったという訳だ。ただそれを調理するシェフがいないのが問題だった。
 俺はポルシェを拝借し、罰当たりな事に助手席に食料と一応護身用の武器を詰め込み、そして都会から離れ、田舎の方にも足を伸ばしてみたが、状況はあまり変わらなかった。あらゆる生き物がいない。畑を耕す人がいなければ、畑を荒らす厄介な昆虫もいない。そもそも畑自体にが作物がなく、元々腐って死んでいたのであろう物だけが横たわり、夜になっても蛙の声1つ聞こえなかった。木が無くなって丸裸になった山は実に不気味な風景で、雨が降る日は盆地から離れる必要があった。
 半年ほどかけて、俺は日本中を放浪した。実家にも帰ってみたが、当然誰もいなかった。都合良く両親や兄弟だけが生き残っている事を期待するほどの馬鹿ではなかったが、いなくなった事を実感しても、いまいち涙が1つも出なかったのは俺が薄情なせいか、それとも未だこの状況に納得出来ていないのか、とにかく本州に人が1人も残っていない事を確認した頃には、色々と諦めもついてきた。


 それにしても不思議なのは、何故俺だけが生き残ったのか、という事だった。たまたま偶然煙に対して耐性があったのか、これがいわゆる生物学における淘汰という物なのか、だとしたら雌の1匹でも用意しておいてもらわないと、DNAはちゃんと機能していない事になるのではないか。あるいはこれは罰の一種なのだろうか、これまでしてきた人類の悪行を俺一人に背負わせて、世界の終わりを丸投げする悪ノリなのかもしれない。それにしたって何故俺なのか。
 俺はしがないサラリーマンで、元も子もない言い方をすれば、地元に仕事がないから上京してきたというだけの人間だ。少し前までは彼女もいたが、結婚までは行かずにあっさりと別れた。これといって人に誇れる特技はなく、かといって前科もない。ごくごく普通の一般的な、有り体人間と評されても反論の1つもない。
 地球最後の日、といって良いかどうかは微妙だがあの日。様々な指導者が、「自分こそが選ばれた人間である」と主張していた。一国の大統領、宗教家、哲学者、皆一様に助かる手段があると唱え、人を落ち着かせたり、その反対に最後の最後まで儲けを考えてるとしか思えない行動の者もいたが、今の所、生き残りを宣言した人間と、実際に生き残ってしまった俺は出会っていない。もともと俺も信じてはいなかったが、かといって俺に彼ら以上の素質があるとも思えなかった。
 俺の知る限り、俺は神の姿を当てた者ではないと思う。これまで1度も、そういった漠然とした空想を考えた事がない、といえばそれは嘘になるが、少なくともあの日の前一週間はただただ仕事に追われ、毎日の夜飯を考えるのに精一杯で、1日が終わればぐっすり眠っていた。予知夢的な物を見た訳でもなく、何か突然の思いつきがあった訳でもない。
 そして俺がそういった特別性を持って生き残ったのではない事を証明するように、何も起きないまま1年が経過した。ここに来ると俺はもう随分と割り切って、地球1人暮らしを出来得る限り満喫する事に決めていた。
 1人っきりの映画館で大好きな映画をゆっくり見たり。
 米軍から拝借した機関銃を思う存分に街中でぶっ放したり。
 自分以外は誰も足跡のつけないゲレンデをソリで堪能したり。
 アトラクションの待ち時間オール0分の夢の国貸切もしてみたり。
 あえて自宅に篭り、時間が無くて積んでいたゲームと本を消化したり。
 とにかく大抵の物は、人がいなくても電気さえあれば楽しめるように出来ているので、発電所の動かし方を1度学んだら可能性は無限に広がった。もしもある日突然全人類が戻ってきたら、俺に莫大な請求が来るのだろうかと若干不安に思いながらも、かといって暇は腐るほどにあるし、今までやりたいけど様々な障害があってやれなかった事も山ほどあった。毎日を別のホテルで寝泊りし、高級食材をふんだんに使った料理も少しずつうまくなってきた。冷凍された物ばかりで採れたて新鮮な物が手に入らないのはやや痛かったが、給料3ヶ月分の肉を食べ残してそのまま捨てるなんて事、普通に生きていたら実現不可能な事だったはずだ。しかし俺を罰する者は誰もいない。今や司法立法行政の三権は全て俺の手中にある。


 やがて俺の視線は自然と海外に向いた。国内はほぼ味わいつくしたし、もしかしたらもしかすると、海外になら俺のような生き残りが1人か2人いるかもしれない。そんな淡い期待を胸に、俺は図書館で船舶の勉強をして、どうにか大きめのヨットを動かせるようになった。航海術も勉強して、最新装備を完璧に揃え、俺は大海原に飛び出したのだ。
 これが無人島からの自作イカダでの出発であれば、俺にも不安と期待があっただろう。しかし俺は守られた冒険家だった。そして地球広しといえども、既に国内には1人もいない人間がいると本気で信じている訳でもなかった。航海は約1週間ほどで何のトラブルもなく終わり、俺は憧れのアメリカ大陸へと到着した。
 まずは観光を大いに楽しんだ。俺は英語を喋れないが、今となってはそんな事は関係ない。世界の共通言語は日本語に統一されたのだ。万が一の事も考えて一応日常英会話の本をポケットに忍ばせておいたが、アメリカ大陸を横断しても縦断してもそれが役に立つ場面は訪れなかった。
 観光ガイドを片手に4WDで各地を回った。変わり果てた風景もあったが、砂漠や荒野などはほとんどそのままで、ナイアガラの滝は森が無くなったせいかむしろ勢いを増して更に大迫力だった。自由の女神と記念撮影し、ハリウッドスターのお宅を拝見し、ウォール街で市場を自在に操作し、ブロードウェイで1人踊った。
 それから約10年、俺は世界を放浪した。1人乗りの宇宙船となった地球号は、何のトラブルもなく運行を続け、俺は思いつく限りの旅をした。植物を失った大地は、そのほとんどが荒れ果ててしまったが、人間の作った物は風化しつつもしばらくは残る。おそらく俺が死ぬくらいまでは。
 夜寝る前、ふと思うに、あのいい加減な神は、俺に気づいているのではないだろうか。どういう偶然か難を逃れたのがいると分かっていつつ、それでも、1人なら問題ないだろう。どうせすぐに死ぬはずだ。と高をくくっているのではないだろうか。確かに、人は1人では生きていけないと聞く。命を維持するという意味ではなく、群れて暮らす動物であるが故の。だからこそ俺は生きたいと思った。寿命までせいぜいやれる限り面白おかしく暮らしてやろうと、それがせめてもの報いる一矢だ。
 日常は続く。俺は一言も喋らない。それは伝える誰かがいないからではなく、亡くなった70億人への黙祷のつもりだった。
 そんなある日、奇妙な現象が起きた。
 空を眺めながら、何の気なしに方位磁石を見ると、ありえない事が起きていた。俺は時計を確認する。次に理科の教科書も探して確かめ、そして途方にくれる。
 太陽が、西から昇っていたのだ。まるでバカボンの歌みたいに、そして東に沈んでいったのだ。
 その時、昔で言う中国あたりに滞在していた俺は、次の日、久しぶりに目覚ましをかけて早起きし、再度きちんと確認する。やはり間違いはないようだ。記録をつけ、それを検証し、孤独で頭がおかしくなった訳ではないかと自分も疑う。しかしどうやら本当に、太陽は西から昇って東に沈んでいた。
 もしや、と思い、天体観測を始めると、1週間ほどで俺はガリレオもマジギレの世紀の大発見をする。
 時間が逆に進んでいる。おそらく、地球の自転は北極から見て時計回りに変わり、確実に公転も逆周りになっている。太陽や他の星々も同様だろう。このような変化はおそらく人類史上、というより地球史上類を見ないはずだ。俺しかいないので、世界は大混乱に陥った、という言い方も出来るかもしれない。しかし俺の生活は驚くほどに変化がなく、この言い方が正しいか分からないが、更に時間が経過した。
 しかし折り返してからの約10年は、俺は待ちわびるように日々を過ごした。時間が逆戻りしているというのなら、いずれは滅ぶ前の世界が戻ってくる事になる。世界が突然黒い煙に覆われ、それがあの円筒状の物質に吸い込まれ、全ての生物が生き返る日がその内必ず来る。


 もしかしたら、その時は逆に俺が死ぬのではないだろうかという心配もあったが、それは杞憂に終わる。俺は日本に戻り、ついにその日を迎えた。
 人々は、確かに生き返った。自然も戻った。世界は本来の姿を取り戻した。
 しかしその全てが逆回りだった。
 ちょうど映像を逆再生した様子を思い浮かべれば分かりやすいだろう。人は後ろに向かって歩き、ゆっくりと足から転んで勢い良く立ち上がる。地面に寝そべっていた人が急にビルの屋上まで飛んでいき、空中の飛沫を鼻と口で吸い込むようにくしゃみをする。
 全てが巻き戻っていった。バラバラになった石材が建物を作り、爆発は一点に向かって収束する。枯れた花が満開になって蕾に戻り、全ての映画はスタッフロールから始まる。
 そんな奇妙な世界を、俺だけが、世界中でたった1人俺だけが、まるでこの世とは関係のない存在であるかのように、元の進行方向に向かって生きていた。いや、こうなってはむしろ間違っているのは俺なのかもしれない。
 俺は神の言葉を思い出す。生物を絶滅させた後、地球はしばらくしてクリーニング作業に入ると言っていた。この時間の逆転現象が神の言うクリーニング作業だと言うならば、やはり俺は一体何なのか。尋ねてみても答えてくれる者はいない。
 逆行する人々に俺の声は届かない。
 触れる事も出来ず、触れられる事もない。
 視界にすら入っていないようで、気づく素振りもない。
 気づくと俺は幽霊のような存在になっていたという訳だ。世界で1番生きていた人間から、世界で1番死んでいる人間に。価値観のとっくに麻痺していた俺はもう笑うしかなかった。
 巻き戻る世界も、そうと割り切れば楽しめなくはなかった。何せ滅亡後の世界とは違って変化がある。ニュースで取り上げられた事件が起きた現場に向かって、しばらくするとその事件が目の前で逆再生される。音楽が全て奇妙になってしまったのは残念だったが、人が必死に隠している秘密を垣間見る行為には、えも言われぬ快感があった。
 しかしそれを誰かと共有する事は出来ない。
 俺のこれまでの往復20年が孤独だとするならば、たった今感じているこの感覚は一体何なのか? 1人である事に変わりはない。なまじ人の姿が見られるだけに、なぜだか無性の慟哭が沸く。世界が俺を無視している。前までは俺だけを見ていた世界がだ。それは今世紀最大の手のひら返しだった。この感情をどう伝えようか、伝える相手もいないのに。
 俺は唐突に思いついて、ある男の元を訪ねた。
 その男はやりたい事を我慢して、時間がないと本とゲームを積み、毎日を仕事に追われながら、夜飯で何食べるかを真剣に悩み、愛してるのたった一言が言えずに彼女と別れた不甲斐なさを持ち、高い牛肉を残すなんてもったいない真似はせず、スクランブル交差点のど真ん中で寝た事もない男だった。
 彼は巻き戻しを生きつつ、日々若くなっていった。俺の顔にはすっかり皺が刻まれている。彼を見るのは辛い事だったが、目を離す事は出来なかった。目の前にいる俺は人と関わっている。俺にもその記憶がある。それが、それだけが今、俺にとって唯一この世に命を繋ぎ止めている理由だった。
 20年が経った。滅亡後からの往復20年と、逆戻りの20年、合わせて40年で俺の肉体はもう随分とくたびれた。時間を戻る俺は会社に入社して、大学を卒業して、彼女が出来て、上京して、高校を卒業して、部活に明け暮れ、中学を卒業して、初恋の女の子に振られ、小学校を卒業して、運動会で活躍して、幼稚園を卒園して、両親に見守られていた。俺は俺の成長過程を、毎日毎日、同じだけの時間をかけて、1番近くで眺めていた。究極のナルシストと言えるかもしれない。至高のエゴイズムとも言えるかもしれない。しかしそれ以外に俺が世界と関わる手段は無かった。俺は俺がいる事を確認せずにはいられなかった。
 幼い頃の俺が、クレヨンを持って紙に何かを書きなぐっている。円筒状の物体、煙、世界を乗っ取った電波。そして、神の姿。
 俺はようやくここで始めて気づく。というよりも思い出す。遥か何十年も前のまだ怪しげな記憶。漠然と俺は思ったのだ。そしてその思いつきを表現したのだ。遠すぎて遠すぎて忘れていた。
「……迎えに来るのが遅すぎますよ」
「いやほら、僕らさ、時間の概念って物がいまいちよく分かんないからね。じゃあまあ、そろそろいこっか」
 呼吸を止めると、138億年が経過した。


 終

       

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Neetsha