清純派アイドルはセックスの夢を見るか
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時は2014年。
アイドル界はハイパーインフレ状態にあった。
1グループ300人を超える集団やアイドルとは思えないような圧倒的パフォーマンスで全米を震撼させた学生集団、最低年齢がどんどん下がりついに3歳が加入した古株集団…
もはやただのアイドルは何の価値も見出されなくなっていた。
そんな中、一つのアイドルグループが産声を上げた。
今までの清純派というアイドルの共通点を覆す、ヤリマン系アイドルグループ。
――ザ・ビッチ
「今ヤレるアイドル」をコンセプトに活動を開始した3人組。もちろん本当にヤレる事はないのだがその新しい着眼点は多くの人々の心を掴んだ。
宝石のように光るブロンドの髪がかかる巨乳が魅力、リーダーのサナエ。
モデルのような長身痩躯に腰まで伸びた綺麗な黒髪、お姉様気質のアカリ。
違和感のない桃色ショートヘアをふわりと揺らしてステージを縦横無尽、ロリ属性担当のリョーコ。
プロモーションも上手くいってファーストシングルの売り上げも上々だった。
しかしそんなザ・ビッチも発足して早速大きな問題に直面していた。
「リーダーの私がまだ処女って事だ…。」
私は小声で呟いた。
「サナエ、何か言った?」
アカリが私の声に気づいたようだ。
「え、な、何も言ってないよ!」
私は万能の切り替えしをして、いくらトイレの個室でも独り言は極力抑えるように学んだ。
レギュラーの仕事をいただいている深夜番組の今日の収録を終えて家路についた。
家に着くまでしばらく時間がかかりそうなので私の事を少し話すとしよう。
私、サナエは日本人の父とスイス人の母の間に生まれたハーフである。この金髪も地毛だ。
私がこの歳にて処女に至るまでにはさまざまな紆余曲折がなかった。全くなかった。
生まれてこの方18年間何もなかったのだ。
友達は多いほうであったが、周りの友達でも早い子は中学時代、ほとんどが高校時代に処女を捧げていた。
そんな中でも18歳にもなってキスすらした事がないのは私だけであった。
その私がヤリマン系アイドルグループのリーダーなのだ。
もしこれが世間に知れてしまってはヤリマン系という新感覚が築き上げたグループの価値は一気に崩落してしまう。
全て私の責任である。
というのも私がこんなコンセプトのグループに抜擢されることになったのも、私の見栄っぱりな一面が原因であった。
見栄っぱりな性格は昔から様々な場面で遺憾なく発揮されてきた。
家族で外食に行けば高い物を頼み、友達がパックの紅茶を飲んでいる横で好きでもないペリエを飲んでいた。
思い出したくもないがきっちりコーティングしたメッキが剥がれて大恥をかいた事も何度もある。
そしてまだ新米のプロデューサーに「外国人っぽい性におおらかなイメージがハマる」と頭を下げられ、そこでも見栄を張った私はグループへの所属を快諾してしまったのである。
私もアカリもリョーコもアイドルになりたかったからこのグループにいるのだ。
もしせっかく掴んだ夢を私の見栄が原因で不意にしてしまうことがあればアカリとリョーコは私を許さないだろう。
きっとヤリマン流の落とし前の付け方…そう、例えば二人の前で全裸に縛られてこぶし大の大きな玩具で私の処女を
と、恥ずかしい妄想が始まったところで私は一人暮らしをしているアパートの自室に到着した。
これからシャワーを浴びることにするが、私は読者の方々にシャワーを見られるなんていうのは恥ずかしくて堪えられないのでいくらか今後の展望として考えている事をお話ししようと思う。
さしあたって与えられた選択肢は二つ、処女を失うか否かである。
しかし後者は出来る限り避けたい所だ。経験があるのとないのでは月とスッポンポンの差であり、いつボロが出てしまうか私ですらハラハラドキドキなのである。
とはいえ前者の選択も簡単ではない。心の準備的な問題もあるし、何よりアイドルというデリケートな立場にある分なかなか行動に移しにくい。
ヤリマン系ということでパパラッチに見つかっても髪を剃って泣いて謝罪する様子を動画サイトに投稿するような事態にはならないと思うがスキャンダルはスキャンダルなのである。
ここで私が偶然出会った男の子に役作りのため恋人役を頼むような事があれば人気少年誌でも連載がいただける程のフラグになるのかもしれないが、事実は小説より地味なりと私はよく言ったもので私の視界の先には立てるフラグも折るフラグも刺さっていないのだった。
結局私が選んだ結論は「どちらにしろこの時間から行動には移せないから」という理由で先延ばしにする事だった。
シャワーを終えた私は髪の毛を乾かし、美容のためヨーグルトを顔にパックしてパソコンを開いた。
「サナエたんハァハァ。俺の童貞サナエたんにブチ壊されたい。一晩でヤリチンに仕上げてほしいお。」
「そんなに性病ほしいのかよ。安い風俗行ったほうが早いぞ。」
「アンチは帰って、どうぞ」
「アカリの綺麗な髪の毛いいにおいクンカクンカして鼻の奥に溜めて俺の部屋で吐き出してアカリのにおいで満たしたい!」
「リョーコリョーコリョーコぉおぉぉぉお」
インターネットの掲示板はいつもこんな風に盛り上っている。
私は今日もそんな書き込みに少し良心をいためながらも、面白半分でこんな事を書き込んでみる。
「でもサナエ処女だよ」
レスが書かれるまで動画サイトで音楽を聴いたりして過ごした。
30分ほど時間を潰してから掲示板を確認してみるといつもどおりの返答が返ってきていた。
「またお前か」
「そこらのクズアイドルと一緒にするな。サナエはヤリマンだから。」
「AVデビューも噂されてる奴が処女なんてねーよ」
女としては喜んでいいのか悲しむべきなのか、微妙な心境になりながらも私は明日の仕事に備えて眠りにつく事にした。
アイドル界はハイパーインフレ状態にあった。
1グループ300人を超える集団やアイドルとは思えないような圧倒的パフォーマンスで全米を震撼させた学生集団、最低年齢がどんどん下がりついに3歳が加入した古株集団…
もはやただのアイドルは何の価値も見出されなくなっていた。
そんな中、一つのアイドルグループが産声を上げた。
今までの清純派というアイドルの共通点を覆す、ヤリマン系アイドルグループ。
――ザ・ビッチ
「今ヤレるアイドル」をコンセプトに活動を開始した3人組。もちろん本当にヤレる事はないのだがその新しい着眼点は多くの人々の心を掴んだ。
宝石のように光るブロンドの髪がかかる巨乳が魅力、リーダーのサナエ。
モデルのような長身痩躯に腰まで伸びた綺麗な黒髪、お姉様気質のアカリ。
違和感のない桃色ショートヘアをふわりと揺らしてステージを縦横無尽、ロリ属性担当のリョーコ。
プロモーションも上手くいってファーストシングルの売り上げも上々だった。
しかしそんなザ・ビッチも発足して早速大きな問題に直面していた。
「リーダーの私がまだ処女って事だ…。」
私は小声で呟いた。
「サナエ、何か言った?」
アカリが私の声に気づいたようだ。
「え、な、何も言ってないよ!」
私は万能の切り替えしをして、いくらトイレの個室でも独り言は極力抑えるように学んだ。
レギュラーの仕事をいただいている深夜番組の今日の収録を終えて家路についた。
家に着くまでしばらく時間がかかりそうなので私の事を少し話すとしよう。
私、サナエは日本人の父とスイス人の母の間に生まれたハーフである。この金髪も地毛だ。
私がこの歳にて処女に至るまでにはさまざまな紆余曲折がなかった。全くなかった。
生まれてこの方18年間何もなかったのだ。
友達は多いほうであったが、周りの友達でも早い子は中学時代、ほとんどが高校時代に処女を捧げていた。
そんな中でも18歳にもなってキスすらした事がないのは私だけであった。
その私がヤリマン系アイドルグループのリーダーなのだ。
もしこれが世間に知れてしまってはヤリマン系という新感覚が築き上げたグループの価値は一気に崩落してしまう。
全て私の責任である。
というのも私がこんなコンセプトのグループに抜擢されることになったのも、私の見栄っぱりな一面が原因であった。
見栄っぱりな性格は昔から様々な場面で遺憾なく発揮されてきた。
家族で外食に行けば高い物を頼み、友達がパックの紅茶を飲んでいる横で好きでもないペリエを飲んでいた。
思い出したくもないがきっちりコーティングしたメッキが剥がれて大恥をかいた事も何度もある。
そしてまだ新米のプロデューサーに「外国人っぽい性におおらかなイメージがハマる」と頭を下げられ、そこでも見栄を張った私はグループへの所属を快諾してしまったのである。
私もアカリもリョーコもアイドルになりたかったからこのグループにいるのだ。
もしせっかく掴んだ夢を私の見栄が原因で不意にしてしまうことがあればアカリとリョーコは私を許さないだろう。
きっとヤリマン流の落とし前の付け方…そう、例えば二人の前で全裸に縛られてこぶし大の大きな玩具で私の処女を
と、恥ずかしい妄想が始まったところで私は一人暮らしをしているアパートの自室に到着した。
これからシャワーを浴びることにするが、私は読者の方々にシャワーを見られるなんていうのは恥ずかしくて堪えられないのでいくらか今後の展望として考えている事をお話ししようと思う。
さしあたって与えられた選択肢は二つ、処女を失うか否かである。
しかし後者は出来る限り避けたい所だ。経験があるのとないのでは月とスッポンポンの差であり、いつボロが出てしまうか私ですらハラハラドキドキなのである。
とはいえ前者の選択も簡単ではない。心の準備的な問題もあるし、何よりアイドルというデリケートな立場にある分なかなか行動に移しにくい。
ヤリマン系ということでパパラッチに見つかっても髪を剃って泣いて謝罪する様子を動画サイトに投稿するような事態にはならないと思うがスキャンダルはスキャンダルなのである。
ここで私が偶然出会った男の子に役作りのため恋人役を頼むような事があれば人気少年誌でも連載がいただける程のフラグになるのかもしれないが、事実は小説より地味なりと私はよく言ったもので私の視界の先には立てるフラグも折るフラグも刺さっていないのだった。
結局私が選んだ結論は「どちらにしろこの時間から行動には移せないから」という理由で先延ばしにする事だった。
シャワーを終えた私は髪の毛を乾かし、美容のためヨーグルトを顔にパックしてパソコンを開いた。
「サナエたんハァハァ。俺の童貞サナエたんにブチ壊されたい。一晩でヤリチンに仕上げてほしいお。」
「そんなに性病ほしいのかよ。安い風俗行ったほうが早いぞ。」
「アンチは帰って、どうぞ」
「アカリの綺麗な髪の毛いいにおいクンカクンカして鼻の奥に溜めて俺の部屋で吐き出してアカリのにおいで満たしたい!」
「リョーコリョーコリョーコぉおぉぉぉお」
インターネットの掲示板はいつもこんな風に盛り上っている。
私は今日もそんな書き込みに少し良心をいためながらも、面白半分でこんな事を書き込んでみる。
「でもサナエ処女だよ」
レスが書かれるまで動画サイトで音楽を聴いたりして過ごした。
30分ほど時間を潰してから掲示板を確認してみるといつもどおりの返答が返ってきていた。
「またお前か」
「そこらのクズアイドルと一緒にするな。サナエはヤリマンだから。」
「AVデビューも噂されてる奴が処女なんてねーよ」
女としては喜んでいいのか悲しむべきなのか、微妙な心境になりながらも私は明日の仕事に備えて眠りにつく事にした。
ヤリマン系アイドルグループ ザ・ビッチ
セカンドシングル「今日は楽しい安全日」now on sale!!
PVは危うくR-15指定を受ける所をリンボーダンスで潜り抜けたヤリマンらしい映像に仕上がった。
カップリング曲の「no more 生理」ではグループ初のバラードに挑戦。
歌詞提供にあの「かせきそぉだぁ=」を起用、テレビ練馬系列深夜放送の「ヤリヤリナイト」エンディングテーマを飾る。
そんな快進撃を続けるザ・ビッチも大きな壁に直面していた。
「それはグループにあたし、処女がいる事だぁぁっ!これは絶対に許されざる行為!下るかッ!神罰ッ!!」
「またあの夢か…」
あたしは自分の部屋でベッドに寝転がりながら呟いた。
壁にかけられた可愛い鳩時計を見ると短針はちょうど7と8の間を指していた。
時間通り。毎朝この時間きっかりに目覚まし無しで起きるのはあたしの特技でもあった。
ベッドから体を起こして部屋を出る。リビングで朝食の準備をするお母さんにおはようと声をかけ、洗面所に向かう。
寝ぼけた顔を隠すように乱れたピンク色の髪を櫛でとかして顔を洗う。
あたしはこの瞬間が好きだ。冷たい水で顔を洗ったこの瞬間。経験はないけどイキそうになるってこういう事かもしれない。
リビングに入ると朝食の準備を終えたお母さんはいつもより忙しそうに外出の準備をしていた。
「リョーコ、私今日は仕事の後行く所があるから、帰ってくるの遅くなるよ。」
満面の笑みであたしにそう告げたお母さん。あたしはそんなお母さんを呆れ顔で見返して言った。
「どうせまた男でしょ。どうせまた朝帰りでしょ。よくそんなに遊び歩いて体力持つよねー。」
お母さんはあたしを呆れ顔で見返して言った。
「やぁねぇ、夜通しヤッてるわけじゃないんだから、いくら私でも大丈夫よぉ。」
呆れ顔の二人はお互いの顔を見て同時に笑った。
お母さんは凄く綺麗な人だ。
うちのグループのアカリちゃんも相当に綺麗だけど、それですら一線を画すくらい。女であり娘であるあたしですらたまにほうっと見とれてしまうことがあるくらい。
そして若い。今年で32歳。16歳の頃にあたしを産んだ。そして今16歳になったあたしが彼氏いない歴16年でヤリマン系アイドルグループにいるという皮肉な現状。もはやお母さんと交代してもらおうか。
お母さんは高校生の頃に同級生だったお父さんとの間にあたしを作った。
それから二人は学校を辞め、一生懸命あたしを育ててくれた。
お母さんは家で手がボロボロになるまで内職に明け暮れた。お父さんは朝から晩まで肉体労働を掛け持ちして働いた。
こうして閑静な住宅街に若くして一軒家を構えられたのも、二人の壮絶な努力のおかげだった。
しかし今から7年前。この家を建ててから半年もしない内にお父さんは事故で死んでしまった。
お母さんはそれから男遊びが激しくなった。とはいえ生活が苦しくなるような浪費をしているわけではない。というか貢がれる側の人間らしい。
それに今でもお父さんの事が一番好きなようで、今でも結婚記念日やお父さんの誕生日にあたしと二人で小さなお祝いをするのだ。再婚する気すらさらさらないらしい。
全くもってヤリマンの気持ちがわからない。
そんな心境がヤリマン系処女のあたしを焦らせる。
さて、そんな話をしている間にお母さんは仕事へ行った。あたしも学校へ行く時間だ。
あたしは制服に着替えて外へ飛び出した。遅刻の危機でもないが清清しく晴れ渡った空を見て自然と学校へ向けて走り出していた。
あたしは高校生とアイドルを兼業している。
ヤリマン系アイドルが同じ学校にいるのだ。ヤリたい盛りの高校男児達はよくあたしに近づこうとしてくるが、あたしはヤラない。
彼等はただヤリたいだけだ。もしここでまん……門戸を開いても収集のつかない事態になりそうだ。
学校に着くとクラスはいつもよりほんの少しだけ盛り上っていた。今日は先日の身体測定の結果が配られる日だ。
女子は体重がどうのバストがどうの騒いでいる。男子はチン体測定がどうのくだらない話をしている。
あたしは身体測定が嫌いだった。身長が低すぎるからだ。
小学校三年生の頃の身長は142センチ。当時は少し大きな女の子だった。
それが高校二年生の今145センチ。ほとんど伸びていない。
小さい事がどうこうではなく、変わらないという事が思春期の私には凄く嫌だった。
女子諸君ならきっと考えるだけで地獄だろう。胸すら大きくならないのだから。
それでもあたしは身体測定嫌いを克服した。
ザ・ビッチのプロデューサーがあたしに頼み込んでくれたんだ。
「君の体じゃなきゃダメなんだ。」って。
これだけ聞くとセフレに関係を切られそうな情けない男みたいだ。でも体にコンプレックスのあったあたしは凄く嬉しかった。
それだけで舞い上がってしまって処女なのに嘘をついてグループに入る事になってしまった。
プロデューサーの言った通り彼はあたしのこの体型を上手く料理してくれたし、サナエちゃんとアカリちゃんと一緒に仕事を出来るのは凄く楽しいけど、身体測定嫌いを克服するために大きな後ろめたさを背負う事になってしまったのだ。
と、色々思い出しているうちに朝のホームルームが終わり、一時間目の授業が始まった。
一時間目は国語。
朝一でこんな眠くなる授業を入れるなんてどうかしてる。あたしは時間割担当をほんの少しだけ恨みながら、且つこんな時間を与えてくれた事に感謝しながら、気持ちよく眠りについた。
セカンドシングル「今日は楽しい安全日」now on sale!!
PVは危うくR-15指定を受ける所をリンボーダンスで潜り抜けたヤリマンらしい映像に仕上がった。
カップリング曲の「no more 生理」ではグループ初のバラードに挑戦。
歌詞提供にあの「かせきそぉだぁ=」を起用、テレビ練馬系列深夜放送の「ヤリヤリナイト」エンディングテーマを飾る。
そんな快進撃を続けるザ・ビッチも大きな壁に直面していた。
「それはグループにあたし、処女がいる事だぁぁっ!これは絶対に許されざる行為!下るかッ!神罰ッ!!」
「またあの夢か…」
あたしは自分の部屋でベッドに寝転がりながら呟いた。
壁にかけられた可愛い鳩時計を見ると短針はちょうど7と8の間を指していた。
時間通り。毎朝この時間きっかりに目覚まし無しで起きるのはあたしの特技でもあった。
ベッドから体を起こして部屋を出る。リビングで朝食の準備をするお母さんにおはようと声をかけ、洗面所に向かう。
寝ぼけた顔を隠すように乱れたピンク色の髪を櫛でとかして顔を洗う。
あたしはこの瞬間が好きだ。冷たい水で顔を洗ったこの瞬間。経験はないけどイキそうになるってこういう事かもしれない。
リビングに入ると朝食の準備を終えたお母さんはいつもより忙しそうに外出の準備をしていた。
「リョーコ、私今日は仕事の後行く所があるから、帰ってくるの遅くなるよ。」
満面の笑みであたしにそう告げたお母さん。あたしはそんなお母さんを呆れ顔で見返して言った。
「どうせまた男でしょ。どうせまた朝帰りでしょ。よくそんなに遊び歩いて体力持つよねー。」
お母さんはあたしを呆れ顔で見返して言った。
「やぁねぇ、夜通しヤッてるわけじゃないんだから、いくら私でも大丈夫よぉ。」
呆れ顔の二人はお互いの顔を見て同時に笑った。
お母さんは凄く綺麗な人だ。
うちのグループのアカリちゃんも相当に綺麗だけど、それですら一線を画すくらい。女であり娘であるあたしですらたまにほうっと見とれてしまうことがあるくらい。
そして若い。今年で32歳。16歳の頃にあたしを産んだ。そして今16歳になったあたしが彼氏いない歴16年でヤリマン系アイドルグループにいるという皮肉な現状。もはやお母さんと交代してもらおうか。
お母さんは高校生の頃に同級生だったお父さんとの間にあたしを作った。
それから二人は学校を辞め、一生懸命あたしを育ててくれた。
お母さんは家で手がボロボロになるまで内職に明け暮れた。お父さんは朝から晩まで肉体労働を掛け持ちして働いた。
こうして閑静な住宅街に若くして一軒家を構えられたのも、二人の壮絶な努力のおかげだった。
しかし今から7年前。この家を建ててから半年もしない内にお父さんは事故で死んでしまった。
お母さんはそれから男遊びが激しくなった。とはいえ生活が苦しくなるような浪費をしているわけではない。というか貢がれる側の人間らしい。
それに今でもお父さんの事が一番好きなようで、今でも結婚記念日やお父さんの誕生日にあたしと二人で小さなお祝いをするのだ。再婚する気すらさらさらないらしい。
全くもってヤリマンの気持ちがわからない。
そんな心境がヤリマン系処女のあたしを焦らせる。
さて、そんな話をしている間にお母さんは仕事へ行った。あたしも学校へ行く時間だ。
あたしは制服に着替えて外へ飛び出した。遅刻の危機でもないが清清しく晴れ渡った空を見て自然と学校へ向けて走り出していた。
あたしは高校生とアイドルを兼業している。
ヤリマン系アイドルが同じ学校にいるのだ。ヤリたい盛りの高校男児達はよくあたしに近づこうとしてくるが、あたしはヤラない。
彼等はただヤリたいだけだ。もしここでまん……門戸を開いても収集のつかない事態になりそうだ。
学校に着くとクラスはいつもよりほんの少しだけ盛り上っていた。今日は先日の身体測定の結果が配られる日だ。
女子は体重がどうのバストがどうの騒いでいる。男子はチン体測定がどうのくだらない話をしている。
あたしは身体測定が嫌いだった。身長が低すぎるからだ。
小学校三年生の頃の身長は142センチ。当時は少し大きな女の子だった。
それが高校二年生の今145センチ。ほとんど伸びていない。
小さい事がどうこうではなく、変わらないという事が思春期の私には凄く嫌だった。
女子諸君ならきっと考えるだけで地獄だろう。胸すら大きくならないのだから。
それでもあたしは身体測定嫌いを克服した。
ザ・ビッチのプロデューサーがあたしに頼み込んでくれたんだ。
「君の体じゃなきゃダメなんだ。」って。
これだけ聞くとセフレに関係を切られそうな情けない男みたいだ。でも体にコンプレックスのあったあたしは凄く嬉しかった。
それだけで舞い上がってしまって処女なのに嘘をついてグループに入る事になってしまった。
プロデューサーの言った通り彼はあたしのこの体型を上手く料理してくれたし、サナエちゃんとアカリちゃんと一緒に仕事を出来るのは凄く楽しいけど、身体測定嫌いを克服するために大きな後ろめたさを背負う事になってしまったのだ。
と、色々思い出しているうちに朝のホームルームが終わり、一時間目の授業が始まった。
一時間目は国語。
朝一でこんな眠くなる授業を入れるなんてどうかしてる。あたしは時間割担当をほんの少しだけ恨みながら、且つこんな時間を与えてくれた事に感謝しながら、気持ちよく眠りについた。
ザ・ビッチ、アルバム発売決定!
デビュー曲「セックスアンドザ・ビッチ」を始め発売済みシングルの四曲を収録、加えて三曲の新曲を収録した初モノにして珠玉の一品!
更にセカンドシングル「今日は楽しい安全日」のPV撮影メイキング映像と彼女達へのインタビューを収録したDVDもついてくる!
初回限定盤には三人のうち誰か一人のサイン入り写真カード封入!激レアカードとして三人のマネージャーの写真が入ってるかも…!?
まさに爆進撃!彼女達の勢いを止められるアイドルは現れるのだろうか!
そんなザ・ビッチに一つ、不穏な影が訪れていた。
と、書いておけば上手く煽れるのだろうが、そんな事はなかった。
その夜、私はある男性と繁華街の真ん中に位置する広場のベンチに座っていた。
「あ、あの……今日はアカリさんとお食事出来て本当に嬉しかったです。」
頬を真っ赤に染めて私から視線をそらして、少しくぐもった声で彼はそう言った。
「私も楽しかったわよ。さて、これからどうしましょっか。」
冷たい風が二人の間を吹きぬけた。春先とはいえ肌寒い夜だった。
私はその風をきっかけに彼の腕に寄り添い、彼の肩に頭を乗せた。その肩をびくりと震わせる可愛らしい彼は少し上ずった声を発した。
「え、駅まで送りますよ。」
よし、そろそろ仕上げに入るとしよう。私は彼の肩に両手を回して抱きつくような体勢をとった。
「もう帰るの?」
彼の胸の高鳴りが肘を通して伝わってくる。
「もう……終電も近いですから……。」
「そう、じゃあ……うちまで送って?」
私は少しだけ体を起こし、彼の耳元でとどめの一言を囁いた。
そして彼の目を見て微笑んだ。美味しそうな子供を森の中へ連れていく魔女のように。
「さぁ、上がって。何をそんなに硬くなってるの?」
玄関で棒立ちになる彼の顔を覗き込んだ。どうも女の家に上がるのは初めての事らしい。
「そんなに緊張しなくてもいいのよ。じゃあちょっとベッドにでも座ってて。私シャワー浴びてくるから。」
そう言って私は彼が靴を脱ぐよりも先に浴室へ入っていった。
世の中にはいいヤリマンと悪いヤリマンの二種類がいる。
私はいいヤリマンに属する。
悪いヤリマンは己の欲望のままに体を交わらせ、病気をばら撒き、望まない妊娠をして、その子供を捨てたりする吐き気しか催さない連中だ。
いいヤリマンは世の童貞達に夢を与えて生きるのだ。自分に自信がなく暗い顔で女を知らずに生きていく男達に、お試しでもいいから女を知ってもらいたいのだ。
それで一人でも明日から明るい顔で生きていけるのならヤリマン冥利に尽きるというものだろう。
ザ・ビッチの活動だってそうだ。今までの清純派アイドルをどうしても好きになれなかった男の子達のほとんどが言っていたあの台詞。
――恋愛禁止とか抜かしてもどうせヤリまくってるんだろう。
そう思っていた層を一気にファンに取り込めたのだ。
変に清純派を気取るからスキャンダルに気を使わなければならない。
あれだけ短いスカートを履いたりテレビでお菓子の口移しをしたりして人々を扇情しておいて、性から離れた存在であるかのように振舞うなんて。
気持ちいい事があるなら隠す必要なんてない。人類が生まれてから子孫繁栄をしてきた手段なのに、恥じる必要なんてないのだ。
私達は「女」。貴方達は「男」。この事実だけで何も不自然な点はないでしょう?
私がシャワーから上がりバスタオルを体に巻いて部屋に戻ると、彼はベッドに座って下を向いていた。
彼は私に気付いてこちらを向いたが、目のやり場に困ったようでまたすぐに下を向いてしまった。
私は彼の隣に座り、彼の胸に手を当てた。
「凄いドキドキしてるね。」
もうこれ以上伸ばす意味なんてない。食べなきゃ恥をかく据え膳状態の彼をそのままベッドに押し倒して覆いかぶさった。
部屋の灯りは煌々と照っていたが、少し濡れた私の髪が彼を光から隔離した。
魔女は美味しく料理された子供を見てぺろりと舌なめずりをするのだ。
「いただきます。」
すっかり熱中していたようだ。気付けば朝だった。外から差し込む光が目に痛い。
「……よし、出来た!」
私はノートを閉じた。
そのノートは私が書いている小説が綴られている。
現実では処女の私も小説の中では相当のヤリマンだ。
普通の女の子だったらこんな事してるのは変人か好き者かどちらかであろう。
しかし私においてはザ・ビッチにおけるキャラ作りのため大きく役立ってくれている。
ザ・ビッチは三人のグループだ。だから私は二人に迷惑をかけるわけにはいかない。
でも私には演じきる自信がある。私の頭から手を通じて描かれる文字があるからだ。
もしも日本が教育に厳しい国であれば、私の最終学歴は小学校中退であっただろう。
私は昔から人と話すのが苦手で、国語の時間の朗読すら満足に出来なかった。すぐに学校にも行かなくなった。
母はそんな私を強く責めたが、父は違った。父はある条件付きで引きこもる事を許可してくれた。
――通信教育で最低限の学力を付ける事。そして本を読んで教養を付ける事。
私はその条件を難なく乗り越えた。元々勉強をする事自体は嫌いではなかったのだ。
小学校卒業の歳の前に中学校三年生の基礎学力を見に付けながらも、たくさんの本を読み漁った。多い時は一ヶ月に八十冊読んだ程だ。
父が読書家であったので読む本には全く困らなかった。
それから高校卒業資格を取得し、現在は通信制大学の二年生である。
そんな私が今アイドルをしているのは人生のスパイスのようなものだろう。
きっと清純派アイドルだったらまともに仕事は出来なかった。
ヤリマン系アイドルだからこそ、「私」を見てもらうのではないから気持ちよく演じられた。
言ってしまえば画家が絵を見てもらうようなもので、私にとって「人前に出る」という認識はあまりないのだ。
私が描き出したアカリの人格が皆から好かれる様子は、さながら出版した本が増刷に増刷を重ねるような気持ちなのであった。
私は篭りきった部屋の空気を入れ替えるために窓を開けた。
生ぬるい風が吹いてくる。空は綺麗に曇りきっていた。
くんくんと鼻で空気を吸うと、湿った臭いが鼻腔を満たした。雨が降りそうな臭い。
私はこの臭いが好きだった。
私は網戸を閉じ、最高の天気に酔いしれながら布団に倒れこみ、ゆっくりとまどろみに身を任せるのであった。
デビュー曲「セックスアンドザ・ビッチ」を始め発売済みシングルの四曲を収録、加えて三曲の新曲を収録した初モノにして珠玉の一品!
更にセカンドシングル「今日は楽しい安全日」のPV撮影メイキング映像と彼女達へのインタビューを収録したDVDもついてくる!
初回限定盤には三人のうち誰か一人のサイン入り写真カード封入!激レアカードとして三人のマネージャーの写真が入ってるかも…!?
まさに爆進撃!彼女達の勢いを止められるアイドルは現れるのだろうか!
そんなザ・ビッチに一つ、不穏な影が訪れていた。
と、書いておけば上手く煽れるのだろうが、そんな事はなかった。
その夜、私はある男性と繁華街の真ん中に位置する広場のベンチに座っていた。
「あ、あの……今日はアカリさんとお食事出来て本当に嬉しかったです。」
頬を真っ赤に染めて私から視線をそらして、少しくぐもった声で彼はそう言った。
「私も楽しかったわよ。さて、これからどうしましょっか。」
冷たい風が二人の間を吹きぬけた。春先とはいえ肌寒い夜だった。
私はその風をきっかけに彼の腕に寄り添い、彼の肩に頭を乗せた。その肩をびくりと震わせる可愛らしい彼は少し上ずった声を発した。
「え、駅まで送りますよ。」
よし、そろそろ仕上げに入るとしよう。私は彼の肩に両手を回して抱きつくような体勢をとった。
「もう帰るの?」
彼の胸の高鳴りが肘を通して伝わってくる。
「もう……終電も近いですから……。」
「そう、じゃあ……うちまで送って?」
私は少しだけ体を起こし、彼の耳元でとどめの一言を囁いた。
そして彼の目を見て微笑んだ。美味しそうな子供を森の中へ連れていく魔女のように。
「さぁ、上がって。何をそんなに硬くなってるの?」
玄関で棒立ちになる彼の顔を覗き込んだ。どうも女の家に上がるのは初めての事らしい。
「そんなに緊張しなくてもいいのよ。じゃあちょっとベッドにでも座ってて。私シャワー浴びてくるから。」
そう言って私は彼が靴を脱ぐよりも先に浴室へ入っていった。
世の中にはいいヤリマンと悪いヤリマンの二種類がいる。
私はいいヤリマンに属する。
悪いヤリマンは己の欲望のままに体を交わらせ、病気をばら撒き、望まない妊娠をして、その子供を捨てたりする吐き気しか催さない連中だ。
いいヤリマンは世の童貞達に夢を与えて生きるのだ。自分に自信がなく暗い顔で女を知らずに生きていく男達に、お試しでもいいから女を知ってもらいたいのだ。
それで一人でも明日から明るい顔で生きていけるのならヤリマン冥利に尽きるというものだろう。
ザ・ビッチの活動だってそうだ。今までの清純派アイドルをどうしても好きになれなかった男の子達のほとんどが言っていたあの台詞。
――恋愛禁止とか抜かしてもどうせヤリまくってるんだろう。
そう思っていた層を一気にファンに取り込めたのだ。
変に清純派を気取るからスキャンダルに気を使わなければならない。
あれだけ短いスカートを履いたりテレビでお菓子の口移しをしたりして人々を扇情しておいて、性から離れた存在であるかのように振舞うなんて。
気持ちいい事があるなら隠す必要なんてない。人類が生まれてから子孫繁栄をしてきた手段なのに、恥じる必要なんてないのだ。
私達は「女」。貴方達は「男」。この事実だけで何も不自然な点はないでしょう?
私がシャワーから上がりバスタオルを体に巻いて部屋に戻ると、彼はベッドに座って下を向いていた。
彼は私に気付いてこちらを向いたが、目のやり場に困ったようでまたすぐに下を向いてしまった。
私は彼の隣に座り、彼の胸に手を当てた。
「凄いドキドキしてるね。」
もうこれ以上伸ばす意味なんてない。食べなきゃ恥をかく据え膳状態の彼をそのままベッドに押し倒して覆いかぶさった。
部屋の灯りは煌々と照っていたが、少し濡れた私の髪が彼を光から隔離した。
魔女は美味しく料理された子供を見てぺろりと舌なめずりをするのだ。
「いただきます。」
すっかり熱中していたようだ。気付けば朝だった。外から差し込む光が目に痛い。
「……よし、出来た!」
私はノートを閉じた。
そのノートは私が書いている小説が綴られている。
現実では処女の私も小説の中では相当のヤリマンだ。
普通の女の子だったらこんな事してるのは変人か好き者かどちらかであろう。
しかし私においてはザ・ビッチにおけるキャラ作りのため大きく役立ってくれている。
ザ・ビッチは三人のグループだ。だから私は二人に迷惑をかけるわけにはいかない。
でも私には演じきる自信がある。私の頭から手を通じて描かれる文字があるからだ。
もしも日本が教育に厳しい国であれば、私の最終学歴は小学校中退であっただろう。
私は昔から人と話すのが苦手で、国語の時間の朗読すら満足に出来なかった。すぐに学校にも行かなくなった。
母はそんな私を強く責めたが、父は違った。父はある条件付きで引きこもる事を許可してくれた。
――通信教育で最低限の学力を付ける事。そして本を読んで教養を付ける事。
私はその条件を難なく乗り越えた。元々勉強をする事自体は嫌いではなかったのだ。
小学校卒業の歳の前に中学校三年生の基礎学力を見に付けながらも、たくさんの本を読み漁った。多い時は一ヶ月に八十冊読んだ程だ。
父が読書家であったので読む本には全く困らなかった。
それから高校卒業資格を取得し、現在は通信制大学の二年生である。
そんな私が今アイドルをしているのは人生のスパイスのようなものだろう。
きっと清純派アイドルだったらまともに仕事は出来なかった。
ヤリマン系アイドルだからこそ、「私」を見てもらうのではないから気持ちよく演じられた。
言ってしまえば画家が絵を見てもらうようなもので、私にとって「人前に出る」という認識はあまりないのだ。
私が描き出したアカリの人格が皆から好かれる様子は、さながら出版した本が増刷に増刷を重ねるような気持ちなのであった。
私は篭りきった部屋の空気を入れ替えるために窓を開けた。
生ぬるい風が吹いてくる。空は綺麗に曇りきっていた。
くんくんと鼻で空気を吸うと、湿った臭いが鼻腔を満たした。雨が降りそうな臭い。
私はこの臭いが好きだった。
私は網戸を閉じ、最高の天気に酔いしれながら布団に倒れこみ、ゆっくりとまどろみに身を任せるのであった。