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向川町怪奇ノオト
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『黒い男(邂逅編)』
 波岸市向川町(ナミキシシ ムコウガワチョウ)は近機の端の方にあるやや小さめの港町である。
寂れた商店街や子供が遊ぶ公園が残る古い町並みには、まるで昔がまだあるようだ。

〈華子の場合〉
 その日は晩春の暑い日でした。
2学年に上がって一月ほど経ち、少しずつ新しいクラスにも慣れだした頃でした。
 学校からの帰り道の橋の上で、まるで夏のような日差しの中に異様な人を見かけ、思わず声をかけてしまいました。
「あの、暑くないのですか?」
 その人は黒い帽子に黒いコート黒いズボンに黒い靴、頭の天辺から足の先まで真っ黒な冬の装いだったのです。

いえ、私はそういうものですから

 蚊の鳴くような、遠くから聞こえる声でその人は答えました。
低い声だったので、おそらくは男性だったのではないでしょうか。
 そして、近づいて初めてその事に気がつきました。
「すいません、影はどうしたのですか?」
聞いてから、私はしまったと思いました。
悪い癖です。思ったことをつい声に出してしまうのです。


借りたら、まあ、ちょっと・・

すこしの沈黙のあと、さっきよりもやや小さな声で答えると、気を悪くしたのか、彼は早足に立ち去ってしまいました。

呆然としながら立ちすくみ、私は考えました。

 借金をすると、影をとられてしまうことがあるのですね、、、


〈六偕の場合〉
 道を歩いているといきなり声をかけられた。
「すいません、私の●を見かけませんでしたか?」
意味のわからないことを尋ねられ、驚いて振り向くと全体的に白っぽい女性が立っていた。
日差しが強いからか、これまた白い傘をさしている。
「もしくは、黒い服装で身を包んだ人を見かけませんでしたか?」
・・・
「いえ、見てないですね」
「そうですか・・」
 気落ちしたような感じで女性は歩いていった。
けっこう、美人だったな。

「あっ」
 橋の上で、知っている顔に会った。
隣の席の女子で、可愛げのある人なつっこいタイプの、・・・えーと名前は、、
「どうも、ナムさん」
 ナムさんというのは、俺のあだ名だ。おもに男子から呼ばれている。
七田叭六偕、それに祖父ちゃんが神主だからナムさん。実はあまり気に入ってない。
「ああ、ども。えっと、三戸さん」
思い出した、三戸華子さんだ。

 声をかけられた以上、そのまま立ち去るのも具合が悪い。
少し歩きながら話していると、三戸さんが変なことを言ってきた。

「さっきの黒い服の人、変わってましたね」
「こんな天気なのに暑くないかと尋ねたら、そういうものですからって具合ですし」
「そういえば、あの人に影がなかったの気がつきました?。借りたらとられたみたいに言ってましたけど」
黒い服の人? 影?
「・・さっき、っていつ?」
「?。橋の所ですれ違ったでしょう?」
そして、その“人”の詳しい様子を聞いてみた。 ・・・覚えがない。全く。
 頭は中の下だが、目はいい方だ。自慢にならないが。
そうでなくとも、そんな格好のがいたら、いくらなんでも気づくだろう。
 三戸さんの様子からして、冗談やデタラメではなさそうだし、可能性は3つ。
1.三戸さんに虚言癖がある。(注:あくまで、可能性だが)
2.単に俺が見過ごしただけ。(これも考えにくい)
3.三戸さんが頭か何かを強く打った。(これじゃあないかな?)

 よし、(保健室の)先生に相談だ。
「三戸さん、ちょっと学校に忘れ物をしたので、一緒に学校に戻りませんか?」
「別にいいですよ」

 我ながら、何という理由だ。三戸さんが素直な性格で良かった・・。


こうして学校に戻ることにした俺たちだったが、この判断が良かったかどうかわからない
ただ一つ言えるのは、別に俺がどうこうしなくても、この話は勝手に解決されたんじゃないか ということだ

       

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