Neetel Inside 文芸新都
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嘘みたいな本当の死
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 わたし、幽霊見えるの。
 って。
 そう言ったら、ドン引くかな?
 優しい人なら無視するかもね。
 こんなふうにわざとらしく前置きするのは、ワンクッションおいて白けさせるため。
 わたし、幽霊見えるんです。
 これも計算のうちなのです。

 幽霊とはなんぞや。
 幽霊っていうのは、説明がむずかしい。きっと、普通の人が考える幽霊とは違うから。
 わたしの言ってる幽霊とは、電荷の集合体、みたいな感じ。
 この世界のものは、なんだって電気信号で出来てる。それがまず、前提。
 たとえばコンクリートの上を歩いてる蟻。蟻は、嗅覚センサを用いてビスケットの零れカスを探索する。見つけたら、体から匂いのある液を垂らして、ヘンゼルとグレーテルがやったみたいにマーキングして巣に帰る。
っていう。
 単純なアルゴリズムが走ってる有機体を、蟻と呼ぶ。
 それ以外でも、アサガオは朝に花開くし、ミツバチは八の字のダンスをするし、『じょん』は『よーこ』を愛したりする。
 それはすべて、電気の信号。
 1と0。
 ONとOFF。
 それらが複雑に絡まりあって構成されると、知性と呼ばれる。
 脳みそに知性あれば、わたしたちはそれを人間と呼ぶ。
 ここで話はもどる。
 幽霊とはなんぞや?
 知性が脳みそにないモノ。
 言い換えると、脳みそ以外のモノに、知性を帯びてしまったモノ。
 それが幽霊。
 脳みそだけに知性が宿るとは限らない。それは、世紀の発見が正規の研究者だけによってもたらされるものではないこととおんなじだ。300年間プロの数学者を悩ませ続けたフェルマーは、趣味で数学やってたし。

 幽霊は在野の知性なり。
 んじゃ。
 知性って何? と言われたら、困ってしまう。知性としか言いようがないから。もし詳しく知りたいならショウペンハウエル『知性について』を読めばいいと思う。わたし未読だけど、AmazonのURL貼っとくね。http://www.amazon.co.jp/%E7%9F%A5%E6%80%A7%E3%81%AB%E3%81%A4%E3%81%84%E3%81%A6-%E4%BB%96%E5%9B%9B%E7%AF%87-%E5%B2%A9%E6%B3%A2%E6%96%87%E5%BA%AB-%E3%82%B7%E3%83%A7%E3%83%BC%E3%83%9A%E3%83%B3%E3%83%8F%E3%82%A6%E3%82%A8%E3%83%AB/dp/400336323X
 わかった。
 知性は置いといて、それっていわゆる残留思念じゃね?と言われても、困ってしまう。幽霊は、残留思念ってほど無機質に感じない。
 たとえば、磁石。相手を退けたり、相手と引きつけたり。だけど、それって感覚的には、無機質じゃん。わたしに言わせれば、磁石は残留思念側だよね。
 だけど、例えば道端の石ころに人格があったとする。おはようって声をかけたら、もう夕方だよ、と応えてくれる。最近どうですかって訊いたら、石だね、と応えてくれる。引っ掴んでぶん投げると、ぬおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおん。で、星になる。きらん。
 そんな感じ。
 ま、別に幽霊でも残留思念でも、どうでもいいんだけどね。
 そもそも残留思念ってなんだろーね。まあ、幽霊っぽくない幽霊、みたいな。そういう表現でいいのかな?
 でも、幽霊としか言いようがないから、幽霊。
 わたしはそう使ってる。
 脳みそだけに知性が宿るわけじゃない。
 そこらへんの木にも、草にも、あの子のスカートにもわたしのスカートにも、それって宿る可能性はある。
 で。
 わたしはそれが見えるのだ。

 余談だけど。幽霊に足がないってのは、地についた体がないというメタファなんじゃないかなって思うよ。すごく。

 それで、幽霊についてダラダラ説明したのは理由があって。
 幽霊見えるって、小学校の頃はちやほやされんの。
 中学校入ったら、半分いじめられるの。
 高校では、無視だね。
 ひどいよね。
 小学校では修学旅行とか人気者だったね。ま、六年生ごろからちょっとキツかったかな。幽霊見えるキャラを通すの。実際見えてるんだけどね。会話もできるよ。
 うん。
 でも、中学は違ったね。世の中を半分知った気のヤツが出てくるから。で、そいつらに引きずられて、何にも知らないくせに世の中を知ったふりをし始める、そう、みんな。
 幽霊見えるの、アンタ。
 アハハまじっすか~。
 ぱねぇ~。
 私になんかついてる?
 ばねぇ~。
 よし。じゃ、お前の名前花子な。
 ハーナッ子!ハーナッ子!
 ハーナッ子!ハーナッ子!ハーナッ子!ハーナッ子!
 ハーナッ子!ハーナッ子!ハーナッ子!ハーナッ子!ハーナッ子!ハーナッ子!ハーナッ子!ハーナッ子!
 やめよう。
 吐き気がする。

 わたしともだちいないから、ますます幽霊が見え始めた。中学卒業して、頭だけはよかったらから高校入学して、すぐ、行かなくなった。
 というか行けなくなっちゃった。
 じっさい行く必要もなかったんだけど。わたしはどうやら、よっぽど頭がいいらしい。自慢だけどね。
 今はずっと家にいて、時々外に出る。
 基本は夜。
 夜なら、顔あんまり見られないから、幽霊に話しかけることができる。あと夜だから、万が一目撃されても、国家権力に出番はない。どんなに気持ち悪いことが起きても(具体的には、楽しげに電柱と話す女性を見かけても)、怪談話として処理される。人間は本能で、夜に対して恐れを抱いている。深く関わろうとはしない。
 だからわたしは毎日、夜のために生きてた。
 昼間は寝るか、大学行くための勉強してた。
 
 そんなふうに毎日を過ごしてたある日のある夜。
 わたしは、墓場でアイツに出会ったのだった。――は、ちょっと大げさかな。実際はわたしが一方的に目撃したんだけど。
 

 

     


       

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