黒歴史短編集"環"
死神の好きな物
僕の実家は、りんご農園をやっている
そこそこ大きな農園らしくて、一人っ子の僕を大学に送り出し、一人暮らしに十分な仕送りまでしてくれる程度には裕福だ
今日も暑い、蝉がうるさい、久しぶりにりんごが食べたい、雑多なことを考えながらぼーっとしていると、チャイムが鳴った
約10kgのりんごが実家から届いた
食べたかったものがすぐに手に入り最初こそ喜んだものの、
欲望のままに丸齧りで数個食べた後で、その絶望的な量に気づいた
一人暮らしの大学生が、10kgものりんごをもてあまさない訳が無い
とりあえず周囲に何個か配ったが、そもそも僕の友達の輪は真ん中の穴が極端に狭かったので、ほとんど減らなかった
仕方が無いので、三食りんごという妖精みたいな食生活を送っている
ちなみにレパートリーは生りんごか焼きりんごだけ
流石につらいので創意工夫を凝らそうと試みたことはあったけど、りんごカレーがまずかった時点で挫折した
カレーの包容力ですら覆いきれないりんごの存在感に恐々としつつ、今日もまたりんごを齧る
小学生の時、りんごから始まるしりとりの歌が流行ったな、なんて遠い昔に思いを馳せていると、歯茎から血が流れた
台所の三角コーナーは、りんごの皮で埋め尽くされている