Neetel Inside 文芸新都
表紙

パーフェクト・イレイザー
エピローグ

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 ◆

 少女は既に動かなくなった。最期の瞬間になるまでに、何が起きたのかを理解できていない様子だった。それが幸か不幸なのかは私にはわからない。
 考えてみれば、哀れな話だ。この子はこの店に来る度に表情に影が浮かぶようになっていた。店員と客としての短いやり取りの合間にもその変化は明らかだった。この消しゴムに持つ「力」に気づいてしまったのが運命の分岐点だ。この子は望まぬとも、破滅の道を行くこととなった。
 人は自らの容量を推し量らなければならない。一時的な幸運や能力を手にしても、自身の容量に見合わなければそれまで。逆に状況が悪化することもあり得る。それを肝に銘じておかなければ、このような悲惨な結末が待ち受けている。
 戸口の方を見つめた。誰も来る様子はない。元より、客足はごく僅かなものだ。改めて足元を見下ろした。少女はどんな運命に導かれ、この店にやって来たのだろう。今となっては訊くことは叶わない。一度消したものを再度出現させることは不可能なのだ。命も当然戻らない。
 手の平に乗った消しゴムを見つめた。右手と同様に、ケースカバーが血で染められている。しかし、消しゴム本体は真っ白な状態を維持していた。雪のように……いや、雪よりも純度の高い白色だ。
 この消しゴムは「パーフェクト・イレイザー」と名付けられている。この世のありとあらゆる物質を有無を言わさず消し去ることが可能だ。それ故に、「パーフェクト」などといった大仰な名前が付いているのだ。物を消すためには「人間の強い意志」を伴う必要がある。その条件さえ満たせば、子どもでも使用可能だ。だが、消しゴムの能力に気づかない人間もいる。自分を自制できる人間でもない限り、その方が幸せなのかもしれない。
 この子は愚かだった。それだけだ。
 ここ最近の事件も、もしかするとこの消しゴムと何か関係があるのかもしれない。だとすれば、精神を病んでしまっても仕方がない。やつれていったのと結びつけることもできなくはない。
 それにしても、血の匂いが強く鼻を突く。早く処理しなければならない。万が一にでも、他人に見られてしまっては言い逃れはできない。 ……いや、この消しゴムがあれば目撃者を文字通り「消せる」のだ。ただ、こんな発想は自身を滅ぼす愚行でしかない。被害は最小限に留めるべきだ。適度なブレーキこそ、人生という流れを円滑にする秘訣だと私は常々考えている。
 早く済ませてしまおう。また一人、この世から姿を消すことになる。それがどういったことに起因しているのかは人それぞれである。この子の場合は「自滅」だった。
 ……つくづく、人間とは難しい。ただ、何が起こるかわからないのもまた一興。
 そこがすばらしい点でもあるのだ。
 私は腕を伸ばして、少女に先端部を押し当てた。
 何の抵抗も感じさせず、滑っていく。
 消しゴムの通り過ぎた軌跡には、何も残されてはいなかった。


 完

       

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