Neetel Inside ニートノベル
表紙

底辺ヒーロー
第一章

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僕にだって『力』があれば、きっと……




「いらっしゃいませ。」
自動扉の開いた先で店員からのお出迎えの声。
僕はそちらに目を向けることもなく小走りに店内を進む。

コーラ4本、ポテトチップス3袋。
値段も見ずにとったそばからカゴに入れるとそのままレジに向かう。

「760円になります。」

店員に1000円札を渡すと、買ったものの入った袋を手に取る。
店員から渡されたお釣りをろくに確認もせずにポケットに入れると
僕は自動ドアの前まで小走りで移動し店員の挨拶が聞こえる前に僕は外へと駆け出していく。


残り30秒。
日々の積み重ねでほとんど正確に時をカウントできるようになった僕は
心の中で残り時間をカウントしながらここでスパートをかける。


残り13秒。
角を曲がれば残すは直線。
僕は必死に、けれどもコーラの入った袋は極力揺らさないように全力で走った。
目指すは公園。

残り5秒。
公園の入口へとたどり着く。
スピードを緩めることなく公園の中に躍り込んだ僕は膝をつき屈みこむ。

「おお、時間ぴったりじゃん。お疲れ―。」
そして公園の入り口で僕を出迎えたのは3人。
僕のクラスメートである男女の3人組だった。

「グッジョブ、卓也。」
「卓也君、ありがとっ。」

僕への感謝の言葉を口にしながら僕の手にするレジ袋の中身をとっていく。

「はぁ、はぁ、はぁ。じゃあ僕はこれで。」
「おっ、卓也帰んの? じゃねー。」
「ばいばっ。」

「うん、それじゃあ……」
今日は金曜日。
明日は学校が休みだと思うと少しホッとする。

     

帰り道、僕は一人家路を歩く。
こんな時、ふと思うことがある、自分は何のために生まれてきたのかと。
朝起きると顔を洗い朝食の並べられたテーブルに着く。
父親は僕が中学に上がった年に亡くなっていて、母は僕が目覚めるころには
パート先に出勤しており一人さびしく食事をとる。
学校に行けば話すのは先生にあてられた時ぐらいで
友達もおらずただただ一人授業が終わるのを待つばかり。
学校が終われば電話で呼び出されぱしりに使われ
用が済めばそのままこうして家路へとつく。
家には当然誰もおらず母が帰ってくるまで一人で過ごすのだ。

特に生きるのがつらいというわけではない。
確かに学校の連中にはいいように使われているのだが
今まで暴力を受けたことも暴言を吐かれたこともなく
陰口をたたかれているのは知っているが
彼らのいうことさえきちんと聞いていれば特に僕に危害を加えられることはないだろう。
けれども、こんな生活……楽しいわけがない。
正直もう学校なんて行きたくはないがそれでも一人頑張る母を見ると
僕だけ家にこもっているわけにもいかずただただ日常を繰り返す日々。
変わりたい、そう何度も思った。
変わろう、そう何度も決意した。
けれどもその決意も家を出るまで。
学校につけば結局一言も話さず、だれともかかわらず、結局僕はいつも一人。
誰からも意識されず、だれからも期待されないのだ。

一度でいいからヒーローになりたい。
そんな漠然とした期待が頭をよぎることも多々あるが
代わり映えしない日々を過ごすうちに錆びついて鈍化してしまった僕の心は
そんな期待では揺れることはなくなってしまった。
あきらめではなく期待すらできなくなっていく自分。
そんな僕はいつしか変わることすら疎ましく思うようになってしまったのだった。
変わらない、それが僕の今唯一の幸せ。

こんな僕でも何か役に立つことはあるのだろうか。
僕は何のために生まれてきたのだろうか。
その疑問だけが家へと帰る間中僕の中で流れ続けるのであった。




「ただいま。」
家の中に向けて小声で言うが当然中からは返事はない。
靴を脱いで玄関を上がるとそのままテレビのある居間へ。
鞄をおろしテレビのリモコンへと手を伸ばした僕は腰を下ろしながらテレビの電源を入れる。

『ご覧ください。この人の数。明日にクリスマスを控えた今日、ここ○×広場は
多くのカップルたちでにぎわっています。夜には大量のイルミネーションが輝く……』
そういえば今日は12月24日。
多くの人たちにとって重要な意味を持つこの日。
そんな日でも僕はいつも通り一人、うちの中。
今日は母さんのパート先も混むだろうから帰りも遅くなるかもしれないな。
そう思いながら僕はカーペットの上へと寝転ぶ。
見上げれば木目の天井。小さいころはその木目にいろいろな動物や人の顔などを
見出したものだが今はそんな気力もなくただただ天井の一点を意味もなく見続ける。

『犠牲者が相次ぐ絞殺魔ハングドマン。彼はカップルばかりを標的としています。
この聖夜、浮かれる気持ちもわかりますが外出の際は十分注意してくださいね……』

つけっぱなしのテレビから聞こえてきたのは絞殺魔ハングドマンの名。
ニュースをあまり見ないため詳しいことは知らないが
犯行は夜にしか行われていないと聞いていたからあまり気にしてこなかったけど
今日は母さん帰り遅くなるだろうし大丈夫だろうか。
そうやって心配してみるものの僕に何かできるわけではなく
ハングドマンが狙うのはカップルだけだと思い直し立ち上がると
テレビの電源を消す。
心配しているよりもご飯を作ってあげた方が役に立つよね。
そう思い僕は台所へと向かうのであった。

     

「ただいまー。」
「おかえり。」
時刻は夜の七時。
やはり客が多かったのであろう母さんは少し疲れた顔をしているものの
いつも通り笑顔でうちの中へと入ってきた。

「ごめんねー。遅くなって。」
「いいよ。それよりごはんできてるよ。」
「……いつもありがとね。」
母さんはうつむき加減に微笑む。

母さんと僕二人っきりの夕食。
食卓に並ぶのはさっき僕が作ったチャーハンとサラダ、それに母さんが
パート先のスーパーからもらってきた惣菜、それを皿に盛りつけたもの。

「それよりも卓也、今日学校はどうだった?」
「あっ…ううん。別に何にもなかったよ。」
「……そう。まあ、頑張んなさいよ。」

そう、特に母に報告することはなかった。
これで、いいのだ。何も母に心配をかけることはない。

「そういう母さんこそ、何かなかったの? 今世間では絞殺魔のことでもちきりでしょ。
母さんの周りでは何か被害にあった人とかはいないの?」
「ああ、ハングドマンとかいう殺人鬼のことね。
世の中も物騒になったものよねー。この分じゃもう少し早く仕事上がらせてもらうように
しないといけないかしらね。でも私の周りじゃあ特に被害にあった人ってのは聞かないわね。」
「そう、ならいいんだ。」

何もないのならそれでいい。何も変わらない、それが一番の幸せ。
けれども、この時の僕には確実に僕の人生を変えることとなる重大な転機が近づいていたのだった。









「じゃあ、母さんお休み。」
「あら、早いわね。まだ7時半よ。お風呂は入った?」
「明日の朝、シャワー浴びるよ。明日は学校休みだし朝はのんびりできるから。」

僕は自分の部屋へと戻っていく。









僕は部屋へと戻るとその端に設置されているベッドへと倒れこむ。
そのまま仰向けに寝返りを打つと今日の出来事に思いを巡らしていく。

さっき僕は変わらないのが一番の幸せ、そういったけれどでは実際今の僕は幸せなのだろうか。
もし、僕が今の人生を変えられるだけの力を持ったとしたらはたして僕は本当に変化を望まないのだろうか。
もし力があったなら……


僕の意識はそのまま徐々に闇へと落ちていった。


     

時刻午後8時30分。
クリスマスを明日に控えた今宵、街は聖夜を祝うカップル達でにぎわっていた。

けれどもその中人ごみに紛れて一人、少し開けた広場の中心に立つ男がいた。
彼は灰色のコートを着込み帽子を目深にかぶって静かに手に持っている縄のようなものをいじっている。

「むなくそ悪い。」
男は静かにそうつぶやくと縄を片手に巻き付け始めるのであった。




「万里慈さーん、見つけましたよ。」
7階建てのビルの屋上。
そこから広場の男を見つめる影が二つ。
一人は12月の終わりだというのに半袖半ズボン、頭には真っ赤な帽子をかぶった少年。
もう一人はスーツ姿で双眼鏡を構える、金色の2本の身長を優に超す長槍を背負った長身の青年である。

双眼鏡をのぞきこむ青年の発した言葉に反応する万里慈と呼ばれた赤帽子の少年は手にしていた雑誌に鉛筆を挟むと青年の方へと身を乗り出す。
青年は懐から右上をホチキスで閉じられた紙の束を取り出すとぺらぺらとめくっていき目的の情報が書かれた紙を探し出す。

「絞殺魔ハングドマン。間違いないようですね。」
青年は紙に印刷されている顔写真と双眼鏡の中に映る男を見比べながらそう断言する。
少年は青年に近づき青年の見据える方向に目をやると、
「・・・じゃあ、攻略開始だ。」
万里慈が微笑み立ち上がる。
すると二人の姿は瞬時に屋上から消え失せてしまった。







広場の男、名を絞殺魔ハングドマン。
絞殺魔の異名通りの殺人鬼で、殺害方法は絞殺。常に持ち歩いている縄を使用し
被害者の数はすでに50を超えている。
また、その被害者数の増え方にも特徴があり、彼の標的は若いカップルゆえ
必ず2人ずつ被害者が増えていく。
そして今日、カップルたちであふれかえった広場に現れたこの男の目的はもちろん
幾組かのカップルを標的とした殺戮を行うためであった。




ハングドマンは左手に絡めた縄を両手で引っ張ると徐々に目の前を行くカップルに近づいていく。
そんなこととつゆ知らず、前を行くそのカップルの何も警戒することなく楽しげに会話する姿は
まさしく幸福を象徴するようであった。

「君らは悪くない。」
つぶやくように、独り言のように。ハングドマンは口を開く。
その声に気付いたのだろうか前を行くカップルの内、女性が後ろを振り向く。

「きゃっ。」
短く声を上げる女性。
彼女の目に入ったのは男の顔。
それはとても人間とは思えないほどの、ゆがんだ笑顔であった。

―シュッ
突然の風切り音。
ハングドマンが左腕を動かすと同時に目の前にいたはずのカップルの姿が忽然と消える。
「くくくっ。君らは悪くない、悪くないけど死ぬんだよ。この僕の手によって。」
いつの間にかぴんと張った縄を手繰り寄せるようにしてハングドマンは前進していくと、路地裏の闇へと消えていった。


     

夜の路地裏。照らす明かりは街灯のみでクリスマスの喧騒を忘れさせるほど辺りは静まり返っている。
そしてそんな暗がりの路地裏で街灯に照らされその下に眠る男女がいた。

「う、うぅん。」
男女のうちの一人、男性の方が目をさます。

「あれっ、ここは?」
辺りを見回す男。彼とその隣でいまだ眠る女性はハングドマンの標的とされたカップルであった。
そしてそんな彼らにゆっくりと近づく影が一つ、もちろんその陰の主は…

「お目覚めのようですね?」
カップルを見下すように立つ男、ハングドマン。
彼の顔が街灯に照らされる。

「なんだよ、お前。」
街灯を背にハングドマンを見上げる男は、ハングドマンの醜くゆがんだ笑顔を見て
その不気味な雰囲気に顔をひきつらせながらも目の前のハングドマンに恐る恐る尋ねる。
ハングドマンの不気味な雰囲気に薄気味悪さを感じている男だったが、それでもさすがに
自分の命が危険にさらされているなどとは思っていない男はその時ようやく自分の首に違和感を感じた。

「縄?」
男は自分の首にかかる物を手に取り、それがなんであるかを確認しながらつぶやく。
男の首に掛けられた縄は男の彼女の首にもかかっており、男はそれをたどって上へと目線を上げる。

その様子を見ながらゆっくりとハングドマンは左手に巻きつく縄を右手で握りしめながら、
「隣で眠る彼女、さぞかしお寒いことでしょう。起こしてあげてはいかがですか。」
嘲笑混じりに言い放つ。

「な、なんだよ、これ。ふざけんなっ!」
「起こしてあげないのですか? 仕方ありませんね。それなら代わりに私が。
多少手荒になってしまうかもしれませんが・・・」

ハングドマンの手に握られた2本の縄。
それは目の前のカップルのそれぞれの首につながっている。

―ズリッ

街灯にこすれる縄の音とともに首にかけられたわっかが徐々に上がっていく。
「おい、このやっ」

男はハングドマンに向かって叫ぶもその声は首へ受けた縄の圧迫により押し殺される。

「ん?」
この状態となってようやく目を覚ます女。
けれどもいまだ意識ははっきりとしてはいない。
ただ縄から受ける力に従うようにゆっくりと立ち上がる。

「君らは悪くない。」
再びハングドマンはそのセリフをつぶやく。
それはカップルに聞こえるか聞こえないかの小さな声。
ハングドマンはそのまま独り言のように言葉を続ける。

「この聖夜の輝かしい雰囲気の中では君らが警戒もせずに談笑していたのは仕方がない。
日が暮れて出歩くのも君らぐらいの年ならばそれほど珍しいことでもない。
僕に目をつけられる原因となった君たちの容姿も何ら君らに責任はない。」

「うっ。」
「ぐうう。」
もはや足がつくかつかないかのぎりぎりのところまで上げられた縄。
それを苦も無く持つハングドマンの顔には笑みすら浮かんでいる。

「けれども君らは死ぬんだ。なぜだと思う?
僕だってわからないけれど、そうだなあ。しいて言えば君らは運がなかった、そういうことさ。」

「っ。」
「あっぁぁあ。」

「感じるよ、君たちの骨のきしむ感覚を。
目はむき出しになり真っ赤になったその醜い顔が僕を高揚させる。
息絶え絶えで声にならない悲鳴、最高だ、最高だよ。」

―シュッ ザッ ドスン

「けれど、この僕の楽しみを邪魔するやつがいるようだ。」

     

一瞬の攻防。
気配を感じ振り向きざまに放たれたハングドマンの縄は
正確に彼のことを追ってきた二人のいた場所をとらえる、が。
そこに人の姿はなく、一閃。
別の方向から飛んできた2本の槍がカップルを吊り下げる縄を穿つ。
地面に尻から落ちたカップルはせき込みながら状況もわからずに互いに寄り添う。

「あなた方はすぐにここから離れてください。ここにいてはおそらく戦いに巻き込まれてしまいますよ。」
「えっ。」

カップルたちが声に反応し振り向くとそこには地面から突き刺さった2本の槍を引き抜く青年の姿が。
その槍は街灯の弱い光の中でそれぞれ蒼と赤に鈍く光っている。

「絞殺魔ハングドマン、ようやく見つけましたよ。」
「そういうあんたたちは組織の連中かい?」

2本の槍を構えなおす青年に対し逃げ去るカップルを見ながらハングドマンが問いかける。

「まあ、答える暇は与えないけどね。」
けれどもその質問に対し青年が口を開く前に建物の陰から突然縄が飛び出し青年へと襲いかかる。

「まずは一人。」
青年に瞬時に縄が絡み付き、手にしている槍ともどもその体を縛り上げるべく
周りを取り囲む包囲の輪が縮まる。

―シュッ
「っぶねー! 死ぬかと思ったじゃねえか。」
風切り音。
突如姿の消えた青年にその相方である万里慈はゆっくりと上空を見上げる。

「おい、天夜。口調もどってんぞー。」
「うっ、面目ない。」
超人的跳躍力を見せ空へと飛びあがった青年、その名は長槍使いの天夜。
その天夜に声をかけた万里慈はハングドマンを横目に
「じゃあ、ここはお前に任せていいか? こういう狭い路地裏、俺は苦手だ。」
と言って背を向ける。

「いいですよ。万里慈さん、任せてください、ってうわ!?」

―シュッ

天夜めがけ突然の強襲。
頬を掠めるものの槍の一本を地面に突き刺し天夜は縄の軌道から体をそらす。

「その状態でよく僕の縄をよけられるね。感心するよ。」
次々と襲いくるハングドマンの縄。
それらすべて、天夜は2本の槍を竹馬のように手の力だけで操りかわしていく。

「この程度で感心してもらっては心外ですね。これが私の戦闘スタイル。
これぐらいかわせて当然です。」

天夜の戦闘スタイル、それは2本の長槍を使った変則的なもの。
常に2本のうち1本は地面に突き立て足場としもう1本の槍で攻撃する。
一見滑稽な型であるが人は上からの攻撃に対しては防御姿勢がとりづらく、
また上方へは攻撃を出しづらい。
さらに上方からの突き攻撃は体重を乗せることができるため威力も大きくなるのだ。

「そろそろこちらからも。反撃と行きます。」
天夜は二方向から迫ってきた縄を小さく動いてかわすと右手に持つ槍を振り上げる。
ハングドマンとの距離は平面で見て1メートルほど。完全に槍の射程内である。

「はーーーーーーーーーーーー。」
天夜の槍、それがハングドマンの鼻先に迫る。

「エスケープ。」
「なっ。」
槍が空を切る。
バランスを崩して地面に降り立つ天夜、その横に万里慈が歩み寄る。

「ははははは。頭上からの攻撃とは笑わせてくれるねー。
けれどもどうして。空中戦での優位性はこの『宙吊り男』、ハングドマンにあるんだよ。」
声のする方を万里慈、天夜が見るとそこには2人を見て余裕の笑みを浮かべながらビルの屋上に結んだ縄から
逆さ向きでぶら下がるハングドマンの姿があった。

「そして準備は整った。これで締めくくりだよ。」
ハングドマンが両手を広げる。
するとその袖から伸びる何本もの縄が一気に動き出す。

「これは・・・」
「こりゃ、まいったな。」
横から、前から、上から。
ハングドマンが天夜との闘い中に繰り出した縄、そのすべてが今、万里慈、天夜に襲い掛かる。

「くっ。」
かわそうとする二人であったがどこへ逃げようとも
向かいくる縄同士が複雑に絡み合い互いに軌道をそらしあうことで完全に逃げ道をふさいでいた。

「うあああああああああ。」

     

「ははははは。対象は変わっちゃったけど今宵の犠牲者二人はなんとか確保できたね。
さすがに楽な戦いではなかったけど、その分達成感があるってもんだよ。」
囚われ、縛られ、頭から下の自由を完全に奪われてしまった万里慈と天夜。
動くのは首から上だけで二人はハングドマンを見つめていた。

「万里慈さん、すみません。」
「・・・まあいいよ。このくらいの縛り・・・」
万里慈が顔をゆがめ全身に力を入れる。

「無駄ですよ。そんなことあなた方なら知っているんじゃないの?
僕もあなたたちと同じ能力者。そして、その縄には僕の能力で細工がしてある。
互いに絡み合った僕の縄は人力では決して切れはしない。」
「なら燃やせばいい。」

万里慈の体から炎が漏れ出す。

「とくにこんな乾燥した日だ、この植物みてえな縄はよく燃えるだろう。」
万里慈から漏れ出た炎は縄を伝い天夜の、そしてハングドマンへと到達する。

「炎使い・・・分が悪い。ここはいったん退くべきかな。」
そういうハングドマンに万里慈が迫る。

「逃げる? 無茶いうぜ。この俺が逃がすわけないだろうがっ。」
万里慈の体を包む炎が大きく膨れ上がり一点に集中していく。

「行くぜ、必殺!!」
「ちょっ、万里慈さん?」
炎で焼かれもろくなった縄を引きちぎり脱出する天夜。
その天夜が万里慈の放つ巨大な火炎球の軌道から飛び退いたのは
万里慈が技を放つ寸前であった。

「炎装束(エンドレス)三の型。『骨まで愛して(ボーン・バーン)』!!」




―ドドドドドドドドドドドドドドドド ダーーーーーーーーーーン














「・・・万里慈さん、あなたって人は。手加減ってものを知らないんですか。」
「俺に手を抜けっていうのか? 俺は与えられた仕事に対してはいつでも全力投球だ。」
「さぼり魔のあなたが何を言ってるんですか。見てくださいよこの惨状。
まいどまいど、弩派手にぶっ壊してどう収拾をつけるおつもりですか。」

ハングドマンとの戦闘の後現場で話し込む万里慈と天夜。
彼らの立つその目の前ではいまだ万里慈の起こした炎により燃えるビル群が辺りを明るく照らしていた。


「まあ、こういう細かいことは苦手だから・・・天夜、あとは頼んだぞ。」
「えっ、万里慈さん!!」

万里慈が炎に身を包んだかと思えば直後に彼の姿はその場から消えてしまう。

「はあ。また私が後始末ですか・・・
しかもこの火力じゃあハングドマンの死体すら消し炭となっているでしょう。
倒したことを上にどうやって証明しましょうか。本当に頭が痛いですよ。」

そういって天夜はため息をつきながら燃え盛るビルへと近づいていくのであった。












     

「ははははは。まさかこの僕が負傷させられるとはね。だけど、次会うときはそうはいかない。
組織の能力者たち、覚えておくがいいさ。」
夜の闇に染まる空をスパイダーマンよろしく飛び回る縄男は
そうつぶやくとそのまま闇の中へと消えていく。

彼の立ち去った後の場にはまた先と変わらない夜の静けさが戻るのであった。

     

次回更新をお待ちください。

       

表紙

滝杉こげお 先生に励ましのお便りを送ろう!!

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Neetsha