Neetel Inside ニートノベル
表紙

女児のランドセルに腐った魚を入れるはなし
黄砂のストッキングのまき

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僕の知っている女児が一人いる
背丈は大人と変わらず 背中やお尻や太ももの肉が厚く丸く
骨のりんかくをおおっていて 顔だけはあどけなく 髪は床屋のはさみの匂いがした
小キャタピラのような体型でいて 足はクラスで一番はやいらしく
僕は冬の 夜の校庭で 膝を高く蹴りあげて ローファーをバタバタいわせながら
前方を走る 水色のパーカーを着たその子と競り合った
並び 抜き去るまでの数秒には 大人の力でどうとでもなる子供
というより ちょっとした大魚の手応えがあって たしかにはやかった
立ち止まると心臓がバクバクいった
僕はグラウンドを振り返り 地面から突き出たビニールテープのはしの
おおまたの一歩よりも ずっと長い100メートルという距離を感じた
小学6年の彼女は 中学では陸上部に入るという
無感動な顔で ソファに寝そべって 鼻のあたりを古いまくらのひもで
くすぐっていて 感動のつぼがつかめないのに 学校の友達の話は楽しそうにする
夕飯を食べながら テレビのビックリする特集に 時々 すげえ と声をあげる
バレンタインデーは友達に あげて もらって なんて話をしていると思ったら
チョコの食べすぎで 夜中に何度も吐いて 僕はその苦しそうな病床の
けいれんする喉の しずまっていく音を聞きながら 少しゲンナリしてしまった
クリスマスプレゼントは PCのブラウザゲーの課金アイテムで良いといい
ゲームが幕間に入るたびに ありでした おつでした と手馴れないタイピングで
打ち込む そしてどこの家庭でもよくある話なのだけど
毎日の儀式のように 些細なもみあいから 母親の怒りを引き出しきることを
生活習慣とする彼女が 学校の重要なイベントでは胃を痛くしてしまう
小心な子なのだという
彼女が中学に上がったとき 制服の胸かスカートの腰あたりにつけていた
銀のエンブレムのようなピンを覚えている ピンは長細く 針は太かった
ああいうものは僕の蒐集心をそそる また 珍しくスカートをはいていたのに
全然そそらない ずんぐりした足をおぼえている
彼女の小学4年生のときの写真は まだ痩せていて フレームも小さく
髪も細いせいか 微妙に茶色がかって肩まで伸びて 母親似で眉のあたりが
少し特徴的だったけれど 車内で眠っている姿が 人形のように可愛らしかった
あと2年出会うのが早かったら きっと この腕にかき抱くこともできたろうに
つくづく間の悪い気持ちになった 
知り合いの女児を例に ここで取り出してみたのは ある種の凡庸さで
気品 というキーワードの前の 消化しきれないもやもやと言っていい
俗悪さ 平凡さ 基本的に集団や流行に従う点で 他のものと変わらない感じ
同族の価値基準のなかでは熱しやすく 同時に 態度として身につけている鈍感動
それらをはぎとったときの 独りぼっちのからだの 脆弱の ぷるぷるする感じ
僕は人間の真実のすがたに迫りたいとか 女児を公平な視点でとらえたいとか
思っていない ただ自分でも ものごとを断定的に考えすぎるくせで
ありきたりのものにひそむ美徳 を取り逃しているのではないかと不安なだけだ
放っておけば 僕の思考は極端に抽象的なものか 極端に物質的なものへと
飛んでいって たとえば ブーツ脛部中央の鋼色の四角形の 厚みをもって
浮き上がるさまや クロスを描きながら上昇していく靴ひも
クロッチという響き 丹念に描きこまれた黄砂のようなストッキングの丸いお尻
服飾フェティシズムにとらわれたり 雪のなか はきだす息に重要性を感じたり
意識はパースが消失点へ向かうように 背後の雪景色そのものに吸い込まれていく
そして それら一つ一つ 副次的な要素をはぎとった はだかの女児には
肌色単色のめりはりのなさや 性器の萎れた花のいじましさが残る
性器にかんする嫌な想い出は 僕が中学生のときで
プールで小さな妹を着替えさせていると 妹はとつぜんしゃがんでおしっこを始めた
屋外の日光のなかで 両ももに押し出されて 悪趣味なくらいろこつな性器をみて 
僕はひじょうに不愉快な顔をした 小さな突起だらけの地面のすきまに入り込んだ尿を
誰かの母親がバケツの水で排水溝へ押しやっているときの 妹の素知らぬ顔は
むき海老を思わせるくらい ほおも唇もぷりぷりしていた


       

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