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9.オーナー懇親会

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9.
 2013年10月某日
ファイブマートでは、全国各12地区ブロックで年に1度、ファイブマート会長の小林出席の下、立食パーティー形式のオーナー懇親会を開催している。この日は首都圏エリアでの開催日であり、ホテルの宴会場を貸し切って懇親会が始まろうとしていた。
「本日は皆様、お忙しいところご来場いただきまして誠にありがとうございます。弊社、代表取締役会長でございます小林より皆様にご挨拶させていただきます。」司会の男がそう告げると、演壇にスポットライトがあてられる。そこには、小林の姿がある。
「…思えば、この40有余年…。ひたむきに、一歩一歩、歩みを進めることが出来ました。それもひとえに、ここに集まって下さる皆様方が共に艱難辛苦を耐え忍んで来て下さったからに他なりません…。だからこそ今、隆盛を示す我々の旗標しが全国各地にはためいております…」
 
 小林が挨拶を始めたころ、都内ファイブマートの10店舗で同時多発的に、店内に煙が充満して店員と客がパニックになっていた。

 「皆様、我々はこれからも同じ船団の一員として共に荒波を新天地に向けて突き進んで行こうではありませんか!」小林が挨拶を締めくくると、場内で拍手が起こった。
「大変有意義なお言葉をいただきました。では、乾杯の音頭をとらせていただきたいと思います。」司会は続けて、「ファイブマートの前途洋々たる明るい未来に乾杯!」と言ってグラスを天に掲げた。
 小林は演壇の上で乾杯の仕草を行うと、参加しているオーナー達への挨拶周りの為に、舞台から降りようとしていた。すると、舞台袖に待機していた幹部社員の児島が小林に近づくと何やら耳打ちをした。表情を一瞬こわばらせた小林はすぐににこやかな表情に戻ると、舞台を降りてオーナー達のいる円卓に近寄ることなく会場脇の司会が使用していたマイクスタンドに近づいてマイクを受け取った。そして、その状況をみて少しざわつくオーナー達に語りかけた。
 「いや、これは失礼。商品開発部が新作商品の試食をして欲しいとこの状況でせがんできました。」そう言うと、会場内は笑いに包まれた。小林は続けて「是非、皆様と歓談をさせていただきたいのだが、日頃私が口をすっぱくして求めている新商品開発の試食。これを疎かにすることは即ち、ファイブマートを疎かにし、オーナー様、皆様の意思をないがしろにしてしまうことにつながってしまいます。それは、出来ることならばなんとしてでも避けたい。ですから少しの間、中座のお許しをいただきたい。その間どうか皆様はごゆるりとおくつろぎ下さい。」言い終ると、再び拍手がおこった。
 小林は会場を飛び出すと、先ほどまでのにこやかな表情から一変して険しい顔付きになっていた。会場脇の通路を歩いて、エレベーターを目指しながら、「それで、状況は?」と児島にたずねる。
「はい、商品が盗まれたり、損害があるわけではないのですが、同時に10店舗で行われていることから、組織だったイタズラではないかと…。」
 「馬鹿野郎!」小林は、怒鳴りつけると、そのまま児島とSP達を連れてエレベーターに乗りこんだ。
 「今、ウチにとって一番の損害はなんだ?」と児島に問う小林。
「えーそうですね。商品ラインが止まって…」児島がそう言うのを遮って、
「全然違う!良いイメージが出来なくなることだよ!!わかるか?」
「…良いイメージですか?」
「そうだ!店にくりゃ挽きたてのコーヒーが飲めるイメージ!きれいな便座でクソのできるイメージ!店員を下僕扱いして一時の間、自分の社会的価値を高めて優越感に浸れることのできるイメージ!わかるか!?」
「ああ?ああ・・はい!わかります!」
「煙が店内にたちこめて、息苦しくなりゴホゴホ咳込むイメージ?そんなものは、ウチに必要ないんだ!わかるか!?」
「はい!そんなイメージは必要ありません!」
「で、足はつかめているのか?」
「ええ…。全店舗ビニール袋を持ったホームレス風の男が、防犯カメラに写っています。煙は袋の中に入っていたパルサンのものです。」
「くそ、弁護士呼んでいるか?」
「いえ、まだ…」
「何やっているんだ!」
1Fに到着したエレベーターから降りると、そのままホテル正面を目指す一向。
「いいか?徹底的に追い込むぞ、マスコミ使って犯罪者の一族郎党、社会的抹殺に追い込め!」
「はい!」
「代理店と局P呼んで対策チーム作らせろ!」
「はい!」
 そのままホテルを出て、正面の配車スペースで車を待つ一向。少し待つが車が来ない。
 「車は!?」
「あ、あの手配したのですが!」
 見ると、車が混雑しており配車がうまくいっておらず配車待ちの人間が他にも複数いる。
 「ふざけるな!お前はどうしてそんなにトロいんだ!もういい。お前は首だ!」
 「そんな!」
 「もういい!おいお前、駐車場はどこだ!?」ホテルの配車係に怒鳴ると配車係は指で駐車場の方向を指す。配車係の男は扮装した杉村であった。

       

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